いざ就職活動
簡単な昼食を終えたダイナがまず足を踏み入れたのは、通りで一番目立つ白塗りの建物であった。「神具店」との看板の下に、たくさんの色紙が貼ってある。色紙に書かれている文句はこうだ。
―神都最大級神具店
―話題の新作予約受付中
―神具師常時募集中
ダイナは神具師常時募集中の色紙を3度眺め、それからガラス戸をくぐり店内へと足を踏み入れる。
白で統一された広い店内には、たくさんの商品が並べられていた。
―効果実感・魔獣除けの首飾り
―これであなたも匂い美人・魅了の香り袋
―有名神具師の加護付き・退魔の籠手
陳列商品を一つ一つ眺めながら進み、やがてダイナの足は店奥の勘定台へと辿り着く。そこには、にこにこと愛想のよい男性店員が立っている。
「すみません。私この街に来たばかりの神具師で、仕事を探しているんです。この店で雇ってもらえませんか?」
「神具師の方ですか。お声掛けありがとうございます。採用の検討にあたり、自作の神具はお持ちいただいておりますか」
「自前の神具…ですか」
「はい。神具師としての力量を把握するにあたり、オリジナルの神具を数点ご提示いただくことが、当店の採用規則となっております」
「ちょ、ちょっと待ってください」
ダイナは勘定台の上にかばんを置き、急いで中身を漁った。数日分の衣類と、タオルと、洗面用具。それらの荷物を押しのけて、かばんの奥底から小さな巾着袋を引っ張り出す。巾着袋をさかさまにして、勘定台の上に広げるはたくさんの文具。
「これが私のオリジナル作品です。例えばこの付箋は、神力を込めると自由に色を変えられるんです。こっちのボールペンには目盛がついていて、書き連ねた文字数を自動的に数えてくれます。あ、このサイコロは吉凶サイコロと言って、一日の運勢を占ってくれるんです」
次から次へと神具をつまみ上げ、ダイナは必死で説明する。神力の弱いダイナは、人目を惹くような派手な神具は作ることができない。こうして細々とした文具に神力を籠め、少し便利にするくらいのものだ。だから故郷の神具店でも、売れ行きは芳しくなかった。ガラクタ神具などと揶揄されたこともあった。苦い記憶を思い出し、ダイナの声は尻すぼみとなる。
「…どうでしょうか」
ダイナが問えば、店員の男性は何とも気まずい表情である。
「誠に申し訳ありませんが、当店で貴女を採用することはできません。私共の必要としている神具師は、強大な神力を持ち、店の看板商品を作り出してくれるような方。貴女の作る神具は確かに面白いですが、神具としての効果は下の下。当店の看板商品にはなり得ません」
「そうですか…」
結果は玉砕。ダイナは溜息一つ零し、勘定台に散らばる神具を巾着袋の中へと詰め込んだ。