表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/32

再訪

 ぎぎ、と錆びた音を立てて扉が開く。扉を開けた張本人であるアメシスは、きょろきょろと『カフェひとやすみ』の店内を見回した。そこに目的の人物の姿はない。


「あら、アメシス様。お久しぶりですねぇ」


 背後で穏やかな声がする。振り返って見れば、厨房の出入り口付近にヤヤが立っている。エプロンの端には玉ねぎの切れ端がぶら下がり、袖口には水跡。時は昼下がり。『カフェひとやすみ』は、正午時の大激戦を終えたばかりなのだ。


「ああ、ヤヤ殿。久しいな。失礼だがダイナ殿はいらっしゃるか?」

「ダイナちゃんなら工房にこもっていますよ。もう一週間になるかしら」

「…一週間?それは、一週間工房にこもりっぱなしという意味か?」

「そうなんですよ。詳しい事情は知らないけれど、作りたい神具があるんですって。店員業をさぼってごめんなさいと謝罪を受けたきり、私もまともに顔を合わせていないんですよ。差し入れの食事は食べているみたいだけど、下宿所には帰っていないんじゃないかしら」


 一週間前と言えば、アメシスがダイナと共に街歩きを楽しんだ翌日だ。夕焼けの中、紫水晶の耳飾りを手渡したその日。その翌日から、ダイナは工房にこもってしまったというのか。


「…会うことは、難しいだろうか」

「声を掛ければ工房に入ることはできますけれど…。でも急ぎの用事がないのであれば、少し放っておいてあげてください。本当に夜も寝ないで、一心不乱で神具を作っているんです。今までこんなことはなかったから、余程大切な神具なんだと思うんですよ」

「そうか…」


 アメシスは上着のポケットに右手を差し入れ、そこにある物体を指先で撫でる。それが、アメシスが今日『カフェひとやすみ』を訪れた理由だ。どうしようか、と思う。それをダイナに渡すのならば、早い方が良い。しかし神具作りに没頭しているというのなら、邪魔をするのも気が引ける。


「アメシス様。いかが致します?一言で済む用事なら、隙を見て私の方から伝えておきますよ」

「…いや。ダイナ殿の神具作りが一区切りした時に、私の口から伝えよう。幸い仕事は立て込んでいない。数日に一度、立ち寄らせてもらおう」

「ええ、分かりました。お待ちしております」


 アメシスは上着のポケットに右腕を入れたまま、『カフェひとやすみ』を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] え、忙しくなった店を世話になった店長に説明もなく完全放置…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ