助けてお姉さま!
やっほー、あたしの名前はルピ。神国ジュリの神都に住まう、今をときめく乙女だよ。髪の色は濃い桃色、目の色も同じ色。珍しい色合いだと言われるけれど、あたしの故郷では有り触れた色なんだよねぇ。好きな物は美味しいお菓子と綺麗なお洋服、あとは可愛い女の子。最近のお気に入りは、同じ下宿所に住む「ダイナ」という名前の子。何でも大失恋を経て神都にやって来たらしく、いつもどこか自信なさげ。髪も伸ばしっぱなしで、服はいつも同じ地味なワンピース。素材は良いんだから、もっとお洒落をすればいいのにっていつも思っているんだ。さて、今日はそんなダイナとあたしの出会いの物語を…
「ルピぃぃぃぃぃ!」
ばん、と大きな音を立てて、ルピの私室の扉が開いた。弾丸のごとく部屋に飛び込んできた者は、隣室に住まうダイナだ。ダイナは銀色の髪を振り乱しながら、ベッドに寝転ぶルピに馬乗りになる。
「ル、ルピ。どうしよう、どうしようどうしよう」
「ちょ、ちょっと待って。ダイナ、落ち着いて」
ルピは身体を捩り、腹元からダイナを転がり落とした。ダイナはルピよりも大分小柄だが、腹にまたがられればそれなりに苦しいのだ。銀色の毛糸玉のようにベッドに転がったダイナは、間髪入れずに身を起こす。そしてルピの両手をひしと握り締める。
「ルピ、どうしよう。お店のお客さんに外出の誘いを受けちゃった」
「外出の誘い?もしかしてデートのお誘いってこと?」
ダイナはこくりと頷く。時は夕刻。部屋の窓からは橙色の西日が射しこみ、ルピの私室の内部を照らしている。ダイナの頬が赤く見えるのは、橙色の夕焼けに照らされているからか。それともダイナの頬その物が夕陽のように赤いのか。
「事情は分かったけど、あたしは一体どうすればいいの?お誘いを断りたいって言うんなら―」
「違う違う。断らなくていいの。ルピに助けて欲しいのはこの髪」
ダイナはそう言うと、まばらに伸びた前髪をつまみ上げた。神都にやって来てから一度も散髪せずに、だらしなく伸びた銀色の髪。腰まで伸びた長い髪は、生え際から毛先まで荒れ放題だ。
「こんな髪じゃ神都の街中は歩けないよ。あと、服。私神都に来てから、一着も服を買っていない」
「まぁ…そうだろうねぇ」
ルピはダイナに外出の誘いをかけ、「服はまだいらない」と断られた在りし日を思い出す。
「ルピ、お願い。私の髪をどうにか見られる形にしてほしいの。あと男性と並んで歩いても恥ずかしくない服を選んで欲しい…靴も…」
「それは構わないけど…デートの日取りはいつ?」
「あ、明日」
「明日ぁ!?そんな急な話ある?集合は何時なの?」
「11時。最初は10時と言われたけれど、身支度に時間が掛かるからと一時間遅らせてもらったの」
「それは賢明な判断だね」
ルピは部屋に掛かる時計を見上げる。現在時刻は17時を回っている。神都の街中の服飾店は18時を目途に閉まるから、今から買い出しに赴くのは現実的ではない。ならば勝負は明日の朝。散髪に一時間、衣装の買い出しに一時間、そして化粧を含む身支度に一時間。合計で3時間。かなりぎりぎりだ。
考え込むルピの顔を、ダイナが覗き込む。
「…ルピ。どうだろう。間に合うかな…」
「間に合わせるしかないでしょう。幸いあたしは明日一日休みだし、ダイナのために一肌脱ごうじゃないの!まっかせなさい」
ルピが自信満々に胸を叩くと、ダイナは銀色の瞳をきらきらと輝かせた。「ルピおねぇさま…」うっとりとした呟きとともに。
どこぞのご青年。あたしは貴方に一言言いたい。ダイナをその気にさせてくれたことはありがとう。でもデートの日取りが、あまりにも急すぎやしませんかね?
ダイヤを磨くには、3時間じゃあ到底足りない。