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ダイナと友達

 神具の大口注文を受注したことにより、ダイナの日常は更に忙しくなった。起床は5時半。そこから簡単に身繕いをして、下宿所を出る。6時半には『カフェひとやすみ』に着き、ヤヤが用意してくれた朝食を食べ、一息つく間もなくカフェの開店準備だ。朝食時の混雑を乗り切った後は、皿洗いもそこそこに隣接された工房にこもる。カフェの人入りが少ない時間帯は、大量注文された神具の製作作業にあたらねばならないのだ。

 正午を目前にカフェへと戻り、ヤヤとベリルと3人で昼食時の混雑を乗り切る。人が捌ければヤヤの作ってくれた握り飯をかじりながら、また工房にこもって神具の制作作業。そのまま工房で午後を過ごし、17時にカフェは店じまいを迎える。その頃にはダイナも神力を使い果たし、半ば失神状態で賄いを食べ、下宿所に帰り泥のように眠る。ダイナの神力では一度に多くの神具を作ることはできない。だからこそ紫紺の男に大口注文を受けてからというもの、もう3週間もそんな日々が続いている。


「ダイナさぁ。少し休んだ方がいいんじゃない?顔が青白いよ」


 コーヒー片手にそう告げる者は、ルピという名の女性だ。年はダイナより少し上、濃い桃色の髪に、それと同じ色合いの瞳をしている。


「でも極力早めに納入して欲しいと言われているから。折角受けた大口注文だから、頑張らないと…」

「あたし神具作りのことは何も知らないけどさ。結構神力使うんでしょ?どんなに頑張ったって、途中で倒れたら意味ないよ。一日休みをもらって、部屋でゆっくりしていれば?」

「うーん…でももう納入の目途は立っているし、ここまで来たら全部作り切ってしまいたいんだよ。そうしたら気兼ねなく休めるから」

「ふぅん、真面目だねぇ」


 ルピはダイナと同じ下宿所に暮らしている。3食を『カフェひとやすみ』でとるダイナは、下宿所の者と顔を合わす機会はあまりない。しかし廊下ですれ違えば挨拶くらいはするし、同性であれば下宿所の共同浴室で鉢合わせする機会はまれにある。ダイナとルピはそうして何度か浴室で顔を合わせるうちに、仲良くなったのだ。

 ルピはダイナにとって、神都にやって来てから初めての友人だ。ダイナが仕事の話をしてからというもの、ルピは週に2回程度、仕事の合間を縫って『カフェひとやすみ』へとやって来る。2人の仲はヤヤも知るところであるから、いつの間にやら「ルピ来訪時はダイナの休み時間」という独自のルールが出来上がったのだ。今日もダイナは、神具の製作に没頭中ヤヤに呼び出された。「ダイナちゃん。ルピちゃんが来たから一休みしなさい」そう言って。そうしてダイナはルピと同じテーブルに座り、大好きなミルクティーを飲んでいるのである。


「ダイナさ。神具製作が一区切りしたら、一緒に買い物に行こうよ」

「買い物…何を買いに?」

「色々。可愛い服とか靴とかかばんとか。目いっぱいお洒落してさぁ、美味しいご飯でも食べに行こう」

「お洒落…」

「そうそう。ダイナ、いっつも同じ服を着ているでしょ。折角神都に来たんだから、流行り物を買えば?髪形も流行り風にしてさぁ。似合うと思うけど」


 ルピは、だらしなく伸びたダイナの前髪を指さした。神都にやって来てから早1か月半。1か月半国家の中心地で暮らしているというのに、ダイナの服装は神都に出て来たその日のままだ。ざっくりと縫い合わせただけの、凹凸のないワンピース。それに飾気のない平靴。散髪にも行っていない。

 お洒落かぁ、とダイナは呟く。愛する人のために着飾った日々。想いと共に焼き捨てた衣服。可憐なドレスに身を包んだ己の姿を想像すれば、心臓がつきりと痛む。駄目、まだ傷は癒えていない。


「…服はまだ、いらないかな」


 ダイナがぼそりと呟くと、ルピはそう、と頷いた。

 ダイナが大失恋を経て神都へと赴いたことを、ルピは知っている。結婚を目前にしていたこと、貧相な体型を理由に捨てられたこと、大失恋の経緯を詳細に語ったわけではない。しかし聡いルピは、ダイナの言葉の真意を正しく掴み取ったようだ。


「その気になったら声を掛けてよ。いつでも付き合うからさ」

「ありがとう」


 ダイナが笑うと、ルピも笑う。

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― 新着の感想 ―
おしゃれはしなくても、髪は切っても良いかも。
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