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紫紺の髪の客人

 その一風変わった客人は、ある日突然やって来た。紫紺色の髪と、同じ色合いの紫紺の瞳を持つ若い男。身体は細身で背は高い。それだけならば何もおかしなことなどないが、ダイナがその男を「変わった客人」と評したのは、彼のまとう空気が独特であったからだ。


「お客様。ご注文はお決まりですか」

「お勧めの飲料を一つ」


 食い気味で返された注文の言葉に、ダイナは息を呑んだ。常連客ばかりの『カフェひとやすみ』で、目線すら合わされずに不適切な注文をされたのは初めての経験だ。


「お客様…あの、お勧めでしたらコーヒーをお出ししますけれど、砂糖とミルクはいかが致しましょう」

「どちらも結構。…ああ、一番安価の茶菓子を一つ付けてくれ」

「ではコーヒーセットをお持ちします。少々お待ちください」


 注文票に鉛筆を走らせ、ダイナはそそくさとその客人の元を立ち去る。無表情で偉そうな客、それが第一印象だ。


 コーヒーと茶菓子を盆に載せたダイナが厨房を出たとき、テーブルにその客人の姿はなかった。ダイナがきょろきょろと辺りを見回せば、すぐに目的の人物は見つかった。紫紺の髪の客人は、長身を屈めて壁際の陳列棚に見入っている。そこには、しこしこと作りためたダイナの神具が並べられている。

 ダイナは無人のテーブルにコーヒーと茶菓子を載せ、客人の背へと歩み寄る。


「あの、お客様。コーヒーをお持ちしました。どうぞ冷めないうちに」

「こちらの工房では、長く神具を作成していなかったはずだ。新しく神具師を雇ったのか」


 またもや食い気味で返される言葉に、ダイナは本日2度目となる息の塊を飲み込んだ。


「…はい。私がその神具師です。つい10日ほど前に、田舎から神都に出て来たばかりです」

「貴女が神具師?これらの神具は、全て貴女が作った物か」

「そうです。私はあまり神力が強くありませんから、つたない作品ばかりですけれど」


 それからしばらくの間、客人は無言で神具を見下ろしていた。会話が一区切りしたのだから速やかにこの場から立ち去るべきか。盆を抱きかかえ悩むダイナに、不意に客人の紫紺色の瞳が向く。


「ではこちらに並ぶ神具を全種類、各3つずつ。紙袋に入れてくれ」


 強い口調でそう言い切ると、客人は屈めていた姿勢を直立へと戻した。当初の印象通り、やはりその客人はダイナよりも頭一つ分以上背が高い。遥か上方から注ぐ無遠慮な視線に圧倒されながらも、ダイナはどうにかこうに無難な言葉を絞り出す。


「ご購入ありがとうございます。使用方法を説明致しましょうか」

「結構。大抵の神具は、一度使用すれば仕組みがわかる。分からなければ後日、聞きに来る」

「はぁ…」


 紫紺の髪の、無表情で偉そうな客。それが第一印象。

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