監視
2人の男が監視室から無数のモニターを眺めていた。
モニターにはありとあらゆる人間の一人称の視点が映しだされていた。
「まったく、人間てのは誰も見てない所ではこうも変わるものですかね。この右上のモニターの画面はアイドルグループに所属している青年の眼ですが、趣味がスカトロとはね。その左はどこにでもいる人の良さそうな主婦の眼ですが、昼間はSMクラブで指名一位と来たもんだ。まったく、人間不信になりますよ。この仕事は。」
「黙って監視を続けなさい。少し君は喋りすぎるぞ。我々の仕事は絶対に口外できないものなんだ。仕事中から黙っている癖をつけなさい。」
「しかし所長、こんな仕事愚痴でもいってないでは続けられませんよ。もうここに来て10年になりますが、この前まで小学生だった女の子が馬鹿そうな男とやってアンアンいってるのを見させられるんですよ。いたたまれないね。政府はいつまでこんなことを続けるんです?」
「眼球にカメラを植え付けられた胎児達が全員死亡するまでだ。今年で22年目、100人いた観測対象は95人になった。まあ少なくともあと60年は続くだろう。」
「60年!やってられないね。まあ、その頃は僕も所長も退職してるだろうけど。それにしても、この前殺された慶太とかいう男。あれ、犯人分かってるのになんで捕まらないんですか?」
「我々が見ている映像は門外不出だ。それが警察でも例外ではない。」
「歯がゆいねえ。歯がゆい。だってあの被害者づらしてテレビに出てる母親見ました?本当は鬼みたいな形相で首絞めてたくせに!」
「おい、私語がすぎるぞ!黙って監視を続けろと言っているだろう!」
「ハハハ、所長、神経質になりすぎですよ。こんな仕事内容、万が一外で喋ってもSF映画の見過ぎだとか馬鹿にされるだけですよ。」
「・・・・あんまり言いたくないけどな、この前鈴木が退職したろ。」
「ああ、急に挨拶もしないでいなくなりましたね。なんですか、やっぱり鬱ですか。」
「・・・・これは推測だけどな。奴はたぶん喋りすぎたんだ。」
「え?じゃあ外の人間に計画のことがバレたってことですか?」
「いや、それはないだろう。それを防げないほどこの国の役人は馬鹿じゃないさ。」
「え・・・じゃあどうして・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あっ、まさか・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
職員の男は無言でこちらを見る所長の眼の奥に、無機質な青い光を見た気がした。
その日は2人は無言で仕事を終え、帰路についた。