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晴れ1
ある晴れた日の朝、私は隣で眠る妹、秋山真姫が天使のようなソプラノボイスで私を呼ぶ声で目を覚ました。
「お姉ちゃ〜ん、起きて〜!!!」
妹は、グッスリと眠っていた私の腰に跨り私の寝巻きを掴んで揺らしている、物心がついた頃から私より早起きの真姫は、こうやって私を起こす。
小学生3年生になった妹の体重は、それなりに重いから、そろそろやめて欲しい。けど言えない。
寝覚めを気付かれない程度に薄目を開けて真姫の姿を確認する。
満面の笑みで私に乗る真姫は、目に入れても痛くないと言っても過言では無い。可愛い。
私は目が覚めても少しの間寝たふりをする。
「お姉ちゃ〜ん?もーっいつもだけど起きないなあ!」
ふふっ、わざとらしく頬を膨らませてるのも可愛い。
真姫は、可愛らしく首を傾げると、上体を段々と私の顔に寄せ、頬に軽くキスをした。
「んと、お姉ちゃん、起きてっ」
「起きた。真姫おはよっ」
「やっと起きたーっ!ちゅーしないと起きないんだからーー!」
きゃっきゃと私の上ではしゃぐ真姫の髪をくしゃくしゃと撫でるとくすぐったいのか身じろいで私から離れた。
お母さんによって手入れが行き届いている私と同じ青髪でロングな真姫の髪は、手櫛でもスーッと通るから触っていて気持ちがいい。
「お姉ちゃん!朝ごはん食べよ!」
「そうだね、今日の朝ごはんはなぁに?」
「えっとねー!玉子焼きとお味噌汁!」
月半ばの割には、今日の朝ごはんは普通。今月は少し余裕なのかな?などと子供らしくない事を考えてみる。
「楽しみだね、じゃあお姉ちゃんの上から降りて」
「うん!でもほら、ぎゅーっして!」
堪らず抱きしめた、駄目だ、私の妹は可愛すぎる。
私の胸に包まれ、苦しそうにジタバタと暴れる妹をしばらく堪能してからベットを降りた。
リビングに行くと、父の姿は無く、母が先にテーブルに着いてテレビを見ていた。味噌汁と玉子焼きの良い匂いが私の食欲をくすぐってくる、あぁ、早く食べたい。
真姫のドタバタと歩く音に気がついたのか、母は振り返ると、私達姉妹を見てニコッと笑みを浮かべた。
「やっと起きてきたのね、麗奈は中学生になったって言うのに、いつまで経っても寝坊助さんなんだからっ」
「私が寝過ぎちゃうのは仕方ないよ。真姫が可愛いのが悪い!」
「えーー!!私の所為なのーーー!?」
そう、妹がお姉ちゃん離れをしたなら私は1人で起きる、ん?無理だよ。真姫に「そろそろ一人で起きて」なんて言われたらお姉ちゃん泣いちゃう……。
どうか真姫には、お姉ちゃん子のまま、すくすくと大きく育って欲しい。
「冗談だよ。いつも起こしてくれてありがとうね」
少し膝を曲げ私の胸くらいしかない身長の妹に目線を合わせ、自然な笑顔でお礼を言う。
「えへへっ」
「あんたたち本当仲良いわねーっほら、朝ごはん冷めちゃうから早く食べちゃいなさい」
「はーい」
急かされたので、私の定位置となっているお母さんの対面側へと腰を下ろすと、真姫も定位置に置いてあった食器を持って私の隣に座った。
正方形の小さな四角いテーブルなので狭い。
「真姫。ご飯中は流石に狭いよ」
「真姫お姉ちゃんの隣がいい!」
駄々っ子のようにプイと顔を背けた。
「お姉ちゃんが左手でお箸を持つでしょ?真姫はどっちの手でお箸を持つの?」
「右!」
「そしたら真姫がお姉ちゃんの左側に座ってるとどうなる?」
「はっ……肘がぶつかるね!お姉ちゃん!」
閃いた!と目を見開いて正解に辿り着いた。真姫は賢い。
「そうなの。だからせめて反対側に行こっか。それならお姉ちゃんの隣で食べてもいいよ」
「はーいっ」
真姫が立ち上がったので、私の右側を開けてあげると、そこに落ち着いたので、真姫の食器をそちらに移してあげた。
「あんたは……いつもの事だけど真姫に甘いわね」
お母さんが呆れ顔で溜息をついた。
可愛い妹が私の隣をご所望なんだから姉としてそれを受け入れてあげるのは仕方のない事でしょ?
「いっただっきまーす!!」
空気も何も読まない妹のマイペースで元気ないただきますの声で朝食の時間が始まった。
「いただきます」
「はい召し上がれー、と言ってもご飯のおかわりはあんまりないけど……」
母が申し訳なさそうにしている。別に母も、父も悪くない。
「朝だからそんなに食べないよ、それよりお父さんは?」
「あの人はお得意さんから受けた注文が間に合わないって朝から飛び出して行ったわ」
「そっか……今週もお父さんに会えなかったね」
父は早朝から夜遅くまで工場で働いていて、平日は滅多に顔を合わす事が無い、だから唯一顔を合わせられる日曜日を私は楽しみにしてるんだけど、今日は居ない。
私達の為に汗水流して働いてくれているから我慢しなくてはいけないけど、やっぱりちょっと寂しい。
「お姉ちゃんには真姫がいるよ!!」
ニパーッと笑ってこちらを見る妹の顔にはご飯粒がくっついていた。