6 VSドラゴン
結構説明が多いです。気長に読んでくださいm(__)m
「ガアァァァァァァァ!!!!」
「うわっ」
大気を震わすドラゴンの咆哮に、ケイは思わず耳を塞いだ。
「流石の威圧感…まぁ、エリスと比べたら100倍マシだけどっ!」
刹那、ドラゴンの尾が恐ろしい速度でケイに向かって叩きつけられ、ダンジョンの岩でできた壁は粉々に砕けていった、のだが…
「あっぶな〜、流石の速さ」
その強烈な一撃は、ケイに当たることはなかった。
ケイがまだ生きている事に気づいたドラゴンは、今度は右足の大きな鉤爪を振り下ろした、が、今度も当たらなかった。
それからもドラゴンはケイに攻撃を続けるが、どれも当たらず、十数分程たった頃だった。
ドラゴンがケイを見失った。
それもその見失い方は、とても不自然なものだった。というのも、見失う直前まで、ドラゴンはケイから一瞬も目を離していなかった。どうやっても見失うはずのない状況だった。しかし、ケイは突然姿を消したのだ。
突然のことにドラゴンが戸惑っていると、ドラゴンの右目の視界が真っ赤に染まり、少し経って目が潰されたことに気づいた。
「ギャアァァァァァァァ!!!」
「よっと」
次にドラゴンの左目に映ったのは、自分の頭から降りるケイの姿だった。
どうやってそんな所に登ったのかは分からない、しかし本能が、「コイツは危険だ」と赤信号を出していた。
ドラゴンが口を開くと、空気が大きく振動しながら、どんどん温度が上がっていっているのが分かった。
「やっばい、ブレスか…!」
ブレスとは、誰もが想像付くとは思うが、所謂ドラゴンが吹く火の事だ。ドラゴンは全員、口に魔力というエネルギーを溜め、放つ事で超火力、高範囲の必殺の一撃を放つことが出来る。
(避けれる…けど、地面が溶けでもしたら面倒だな…)
ケイがそう考えたところで、魔力を溜め終えたドラゴンは、巨大な火球をケイに向かって物凄い勢いで吐き出した。
空気が焼け、地面が溶け、水は一瞬で蒸発する、そんな炎がケイを包み、命を奪わんとした。
しかし、それはケイに当たることはなく、代わりにそれを放ったドラゴン自身に直撃した。
その火球の威力は凄まじく、世界で最も強大な力を持つと言われるドラゴンでさえ、いや、そんな力を持っているからこそ、耐えることは不可能だった。
ケイが元の世界に帰り、初めて出会ったドラゴンは、自分の放った業火に燃やされながら、絶命した。
「危ない、危ない、うまくいってよかった」
ケイが何をしたか、その答えは彼の天職にあった。
彼の天職は『転送師』、その天職スキルは、読んで字の如し転送魔法だ。
ここで一つ、魔法と魔力について説明を入れておく。
魔力とは、簡単に言うと自然のエネルギーであり、この世界のほとんどの生物は、これを体内に溜めることができる。
魔力は消費した際に、自動的にゆっくりと回復していくのだが、その回復速度と魔力を貯めておける内容量には個人差があり、これは訓練によって底上げできる。
次に魔法の説明だが、魔法の仕組み自体はとてもシンプルだ。魔法式というものを作り、そこに魔力を流すことで発動することができる。分かりやすく数学で表すと、例えば 1+1= という式があるとして、この式が魔法式になる。そこに魔力を流すと 1+1=2 といった様に答えが出る。この答えが魔法だ。
魔法式は俗に言う魔法陣の様な記号で表記できるので、それを覚えて脳内で思い浮かべながら魔力を流し、発動する形と、魔法式を呪文にして唱え、魔力を込めることで発動する物と2つ存在している。
基本的にこの魔法式が複雑になればなるほど効果が強力になるが、必要な魔力が多くなり、難易度も上がる。
そして少し特殊な魔法も存在していて、それが先の転送魔法の様に、スキルとして存在している魔法だ。
これは本当に特殊で、スキルを持っていないと確実に使えない魔法や、スキルがなくても使えるが、その使いやすさには、スキルがあるのと無いとでは天地ほどの差がある物と、物によって違っている。
ちなみに魔術というのも存在しているが、これは先に言った魔法式を魔法陣の様な記号で予め、紙や布、とにかく形残る様に評価し、そこに魔力を流すことで、直ぐに魔法を発動するという物だ。
魔術はすぐに発動でき、とても便利ではあるが、魔力の消費量が倍になるので、あまり積極的には使われていない。
話を戻し、ケイの天職スキルである転送魔法についてだが、これは物体を瞬間移動させる事が出来る魔法だ。
この転送師という天職は極めて珍しく、その利便性から、基本的にとても重要視されるのだが、この転送魔法というスキルにも弱点が存在する。それは時間と難易度だ。
転送魔法はスキルを持っていなくとも使える魔法なのだが、その使用難易度はとても高く、スキルを持っていたとしてもその魔法式がとても複雑なので、魔法を発動するのに時間がかかってしまう。尚、その時間は移動する距離によって比例する。
よって本来であれば、戦闘に利用できる様な魔法では無いのだ。
しかし、ケイはそんな魔法を、戦闘に軽々と利用できるほど、極短時間かつ超精密に行使する事ができる。最初のドラゴンの攻撃が当たらなかったのは、そんな転送魔法を自身に使い、瞬間移動の要領で使っていたからだ。
ドラゴンのブレスを跳ね返したのも転送魔法だが、転送魔法は自分が触れているものしか移動させられない、だが火球を少しでも触ろう物なら大惨事は免れない。そこでケイが使用したのは、転送魔法を改変して作り出した扉、所謂ワープホールだ。
これは空中に円状の扉を2つ作る事ができ、片方に手を入れると、もう片方の扉から手が出るといった様に繋がっている。実は、使用するのに本来の転送魔法と比べて少し時間がかかってしまう為、本当はもう少しで火球が直撃してしまう所だった。
「うん…この7年は無駄じゃなかった、かな」
ケイはたった今自分が倒したドラゴンを見て、こう呟いた。
以前だったら、いや、普通だったら確実にありえない強さを得られたことに、ケイは感動していた。
エリスの施した訓練は、とても優しい物とは言えなかった。それこそ、本来は戦闘向きではない天職の持ち主が、たった1人で強力なドラゴンを倒せてしまう様になる程にだ。
(結局エリスを倒せるくらいにはなれなかったけど…これなら、俺の目的を達成できる…!)
ケイはダンジョンの出口へと、足を進めた。