5 成長
「準備はどう?大丈夫?」
「うん、おかげさまで大丈夫そう」
あれから7年の月日が経ち、ケイの身長も180㎝弱程まで伸び、過去も合間ってか、何処か年相応とは言えない大人びた雰囲気を纏っていた。
この7年間、エリスはケイに、戦闘、一般常識、勉学など、ありとあらゆるものを教え込み、ケイの疑問や質問にはほとんど全て回答してきた。
しかし、ケイがいくら質問しても答えなかった物があった。それは神が人間に加護を与える理由、更にエリスは以前、加護は無駄にしないであろう人物にのみ与えると言っていたが、その無駄にするとはどういう事なのか。
ケイはどうしてもこれが気になり、延々としつこく聞いていると、エリスはこう言った。
『セメレーに会えたら教えてあげる』
セメレーが誰かという質問に対しても、エリスは答えなかった。
エリスの返答に疑問が増えつつも、しっかりと成長を果たしたケイは、今日、そのエリスの保護から離れ、旅立とうとしていた。
この世界の成人年齢の17に達したという理由もあるが、エリスはケイに対して、もう十分強くなったと判断を下したからだ。
「本当に行き先はここで良いのね?」
「勿論、むしろここじゃなきゃ」
神の神域の入り口は、本来普通の人間が入ることはできない。というのも、その入り口は基本決まっていないのだ。
稀に神殿と称された、神域の入り口となっているものもあるが、その神殿は数多く存在する神の中で、たったの12柱しかいない。
神殿とは、人間に祀られ、供物を得るための窓口の様な物なのだが、供物の代わりに願いを聞き入れなければならないという理由で、面倒がって神殿は作らない神がほとんどなのだ。
エリスもその神殿を作っていない神の1柱なのだが、実は神殿を作っていない神は、自由に神域の場所を変える事ができるのだ。実はこれを利用し、エリスはケイを自分の神域へと連れ込んだ。
そして今回は、ケイが旅立ちを始める場所を決めていた。
エリスはケイの要望を聞く事にしていたが、その答えは想定していたものとは違っていた。
「7年ぶりの外がダンジョンから始まるとか…あんたもしかしてマゾ?」
「マゾの意味を知らないけど、違う」
ダンジョンとは、世界中に存在している巣窟の様な場所の事で、魔物と呼ばれる、所謂モンスターが犇いている。
魔物はダンジョンの外にも存在しているが、ダンジョンには強力な魔物が多く存在していて、その魔物から得られる資源をもとに生計を成り立たせている者も少なくない。
勿論そんな危険な魔物が巣食う場所に、一般人が間違ってでも入ってしまったら大惨事どころでは済まないので、基本は、そのダンジョンのある場所を領土に持つ国が管理しているのだが、稀に存在が知られず、管理下には置かれていないダンジョンが存在する。
「国の管理下でもなく、あまり大きくもなく、5kmくらい離れたところに村もある、俺の実力を試すのにこんな理想的な場所なんてそうそうないでしょ」
「はいはいそーね」
ケイはこの7年間、正直成長したと言われても、あまり強くなれたとは思えなかった。というのも、ケイはこの7年、エリス以外に戦う相手はおらず、そのエリスは神というわけで圧倒的な力を持っていたからだった。
ケイは自身の実力、いや、この7年で得た物の大きさを実感したかったのだ。
「それじゃ、そろそろ」
「わかったわ」
ケイがエリスに頼むと、ケイは突然現れた光に覆われ始めた。
「7年間ありがとう」
「何よ今更、私の勝手でやった事なんだし良いわよ別に」
「いや、エリスがいなかったら今頃のたれ死んでた」
ケイは両親が他界し、彼に残った心の拠り所は復讐心のみだった。自分を見て見ぬ振りした社会や国への復讐、それが彼を突き動かした。
しかし、そんな彼をエリスは放っておかなかった。なんの意図があったのか、本当だったら約束通り訓練を施し、生活に必要な物を与えるだけでも良かった。しかしエリスは、ケイの心に寄り添っていった。面倒であればこんな事をする必要はなかったはずなのに。
しかし、エリスは彼の心が憎しみや悲しみに囚われぬよう、まるで本物の親の様に彼の心を労った。お陰でケイは、殺戮を1番に求めるような人間には育たなかった。
「馬鹿言ってないで、さっさと行きなさいよ」
「うん…」
ケイの目には、少しの涙が浮かんでいた。
「あんたは好きな事をやれば良いの、私がそうしたように」
「うん」
エリスの顔は、これまでで1番優しい笑顔だった。
「……気をつけてね」
「…!行ってきます!!」
その瞬間、光がケイの全身を包み、何も見えなくなり、数分後に段々と光が弱まってきた。
そして、次に見えてきたのは、巨大な翼にヘビのような鱗、金色の大きな瞳、鋭い牙を持ち合わせた……
「ドラゴン……手厚い歓迎だこと」