4 授業
エリスとの話の後、ケイはエリスが神域に創り上げた家にいた。
用意されたベッドに仰向けになりながら、頭の中で永遠と再生される火事の場面を無視する事に集中していた。
煙と涙でほぼ見えない視界、燃え盛る火と崩れていく家の音、熱い空気を吸って肺の中まで熱くなっていく感覚、そして、両親の最後の顔。
「っ………」
何処にも吐き出せない、重すぎる感情を抱えるやるせなさ、何もかも嫌になる虚無感。
その日は枕に顔を沈め、必死に日が変わるのを待った。
◇
次の日、エリスはケイに一枚のメモを渡した。その内容は、『心の整理がつくまで待ってあげる、強くしてあげるって言ったんだから、私の訓練を受けたくなったら最初にあったテントに来なさい』との事だった。
それから数日間、エリスは手紙の通り、全くケイに干渉しなかった。
食事や生活に必要な物は、以前シュークリームを出した時のようにパッと済ませ、顔を合わせることはなかった。
そして2週間後、ケイは例のテントに居た。
「で?そろそろ私の訓練を受ける気になった?」
ケイが頷くと、エリスはまた満足そうに笑った。
「うふふ、たった2週間で良いなんてね、やっぱり貴方を選んでよかったわ」
エリスが指を鳴らすと、次の瞬間、ケイはテントではなく教室の様な場所に居た。
「さて、まぁ訓練とは言ったけど、流石にいきなりそうもいかないからね、まずはその頭に常識という物を詰め込ませていただくわよ」
エリスは「そこにある椅子に座ってね」と付け加えた。
気づけば場所が変わっているのは、今回で3回目なので、今回はあまり驚かなかった。
「…あ、あの」
「ん?」
「ひ、ひとつだけ質問しても良いですか?
ケイの質問に、エリスは「敬語使わなくて良いってば」と言いながら軽く承諾した。
「か、加護ってなんなの?それに、なんで俺にわざわざ…」
「うーん…そうね、じゃあせっかくだし今日はそれについての説明から始めましょっか」
エリスが指を鳴らすと、ケイの机に紙が一枚表れ、エリスの言葉と同時に文字が勝手に浮き上がった。
「まず、加護っていうのは、神が50年に一度1人だけに与えることができる物であって、加護を与えられた物には二つの恩恵があるんだけど、読んでくれるかしら?」
「は、はい、えっと…身体の状態異常を無効、身体の成長限界を無視できる…?」
「そ、正解、加護っていうのは超レアだっつってるけど、実は与えたとしても、精々病気にならないくらいにしか役に立たない、なんてこともあるわけ、そこで神はその加護を無駄にしないために、無駄にならない人材を選んで付けるわけ」
ケイはエリスの言葉に違和感を感じた。
「で、加護をつけた理由ね、これは貴方のスキルが関係してるわ…流石にスキルは知ってるわよね?」
「う、うん」
スキルとは、この世界においてあらゆる生物が持っている特殊能力の様な物で、主に天職スキル、後来スキル、生典スキルという3つに分けられている。
天職スキルとは、神父の天職や身体の情報を調べるスキルの様に、その天職を待っている者なら、全員が使えるスキルとなっている。8歳になった時に一律して全員が使え、そういう理由もあって天職は8歳の時にわかる。
次に後来スキルとは、努力やものによっては伝授される事によって使える様になる物、基本的には後来スキルは誰でも手に入れられるが、個人差によって得られないものも存在する。
最後に生典スキルとは、生まれつきで保有しているスキルで、別名特殊スキルとも呼ばれる。スキルの効果には個人差があり、更に生典スキルを持っている人口は、おおよそ左利きの人数と同じ割合で存在している。本来は神父に天職と共に教えてもらう事になっているが、教えてもらう前に発動し、生典スキル持ちだとわかるケースもある。
「理由は貴方の生典スキルよ、貴方の生典スキルを見込んで加護を与えたの」
「お、俺に生典スキルが…!ど、どんな能力なの!?」
「…あ、そういえばあの神父のせいで生典スキルどころか天職もしらないんだっけ」
「うん…」
実はケイの場合、天職と生典スキルを教えてもらう前に悪魔憑きだと騒がれてしまったので、結局わからずじまいだった。
「うふふ、じゃあ教えてあげる、貴方の能力は〜〜〜」
「え?」
「意味わかんないよね〜、まぁ優秀な能力だから加護を与えた訳だし、そこんとこ安心してちょうだい」
エリスは悪戯っぽい笑顔を浮かべながらそう言った。
「え、えと、じゃあ俺の天職は…」
「そうね、じゃあ天職を教えるついでに貴方の天職スキルについても説明しましょっか」
こうしてエリスの授業は続いていった。授業の内容は世界の理だけでなく、人間社会の構成、一般常識などあらゆる分野にも広がった。そしてある程度知識が付いてきたあたりで、訓練と称して戦闘なども抑え込まれていった。
そして、そんな日々が7年ほど続き、ケイは17歳になった。