2 白黒の遊園地
「………んん」
ケイが目が覚めると、まず最初に目の前に広がったのは青い空だった。
生き残れたのかと安堵したのも束の間、周りを見渡して、ケイは固まった。
「…!?どこ、ここ」
それは見渡す限り、殆どが白黒の世界だった。しかも固まった理由は色だけではない、周りにある物ほとんどが見たことのない物だったからだ。
大きな円状の物が、まるで風車のようにゆっくりと回っている建物に、複数の馬の人形の様な物が、円状の建物の周りを、これまたゆっくりと上下しながら回っている物。ケイは後からこれらを、『観覧車』と『メリーゴーランド』と言う名前だと知った。
明らかに自分が元いた街ではない、しかもよくわからない物体に囲まれ、ケイはパニック寸前だった。その時、ふと足元に紙に包まれたキャンディがあることに気づいた。
ケイはこのキャンディから目が離せなくなった。何故ならこのキャンディには『色』がついていたからだった。
よく見てみれば、そのキャンディの先にはもう一つ、また違う色のキャンディがある事に気づいた。そしてそのキャンディは、まるで誰かを誘き出すように一定間隔で置いてあることにも気づいた。
他に縋るものもないケイは、恐怖と不安を押し殺しながら、仕方なくそのキャンディの先を辿ることにした。キャンディはひとつも拾わなかった。
キャンディを辿り始めてから大体5分後、今度は巨大で、派手な色をしたテントに行き着いた。
ケイは一瞬このテントに入るのを戸惑ったが、次の瞬間、後ろから突然風が吹き始め、何か不穏な気配を感じ、少し逃げ込む様に走り込んだ。
「……?紙」
中に入ると、段々上からカラフルな紙吹雪が、ゆっくりと降り始めた。その紙吹雪は奥に進めば進むほど、どんどん多くなってきた。
最奥まで行くと、そこはまるでサーカスの様な舞台が広がっていて、真ん中には円状のステージがあり、その周りには同時に何人も座れる観客席が、囲む様に連なっていた。
周りを見渡していると、次の瞬間、いつのまにかステージの真ん中には人がいることに気づいた。
「っ!!」
急いで身構えるが、そいつは全く動かず、こちらに来る気配はまったくなかった。動かない事を不思議に思いつつも、そいつをよく見れば、白黒のタキシードにシルクハット、ついでに顔にはピエロの様な白黒の仮面を付けた男だとわかった。
(なんだあれ、人形?………あれ、なんか紙吹雪の量が多くなっている様な)
それに気がついた時は、もう遅かった。
次の瞬間、男が被っていた仮面が目の前にあった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」
あまりの出来事に絶叫し、思わず尻餅をついていると、そこはさっきまで自分がいた場所ではなく、ステージだった事がわかった。
「アッハハハ!良い驚き方するじゃない」
その男はケイの驚きように、満足げな笑い声を上げた。
「あぁ、ごめんごめん、あんまり良い反応だったから」
男はまだ少し笑いながら、仮面とシルクハットを外した。シルクハットで書かれていた髪は、綺麗な金髪にオールバックだった。
エリスは、手に持ったシルクハットを胸に押し当て、ピエロのように大袈裟にお辞儀をした。
「私、エリスと申します。軽く自己紹介をさせていただくと、貴方達で言う所の『嘘の神』?って感じかしら?」
「え、は?か、神?」
驚愕して言葉を失っているケイに、エリスは笑顔を向けながら、手を差し出した。
「そ、貴方に取り憑いてた『悪魔』の正体よ」
自称神の青い猫目が、ギラリと光ったような気がした。