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1 崩壊

暗い展開です、ご注意を


「ただいま」


 日が沈み、空も茜色に染まった夕方頃、ケイは自分の家に帰宅した。


「………」


 しかし彼の母、レクシーは、そんな彼を無視してまるで存在しないかのように、全く反応しなかった。

 彼女は、自分の息子が悪魔憑きだと宣言されてからの2年間、ずっとその精神をすり減らし続けていた。最初の頃は、疲れた顔を見せつつも、しっかり母として優しく接していた。しかし段々とストレスが溜まり、遂には爆発して、ヒステリックで神経質な性格へと変貌してしまった。今は落ち着いている状態ではあるが、ケイはいつまた母親が怒り出すかが分からず、刺激しないようにと、静かに自分の部屋に向かった。


 それから数時間後、日も完全に沈みきり、空が完全に暗くなった頃にケイの父、スタンレーは帰宅した。

 スタンレーの職業は探偵だが、ここ最近はケイの噂が広まってしまったせいで、めっきり仕事がなくなってしまっていた。


 帰宅後直ぐスタンレーの目に入ったのは、レクシーが少し眉に皺を寄せながらをしながら、料理を黙々と作っているか光景だった。今日はレクシーの機嫌があまり悪くない所を見て、今日は特に何も問題が起きなかった事を察し、小さく安堵した。


 彼は自分の部屋に荷物を下ろすと、ケイの部屋に向かった。


「ケイ、ただいま、もう直ぐ夕飯できそうだぞ」

「おかえり…ごめん父さん、今日はあんまりお腹空いてないからご飯はいらないや」


 嘘だった。今日はイアンと遊んで疲れているし、家に帰ってから何も食べていない。しかし、それでもケイは母親に、いや、昔とはまるで別世界のような空気に触れるのが嫌だった。

 スタンレーもそれを察し、「そうか」と言うしかできなかった。


 ここ2年、ケイは自分の周りから友達がどんどん離れていった事もそうだが、父親の仕事が減ったり、母親が変貌してしまった事も、全て自分が原因だと理解してしまう事が、何よりも怖かった。確かに教会が嘘をついた事が根本ではあるものの、自分が話の媒体となっている事が、十分に自己嫌悪への材料となった。


 段々増してきた空腹感を忘れる為、全く眠れそうにもなかったが、無理矢理布団について、目を閉じた。

 教会に対する怒り、そして何も解決できない自分へのやるせなさを抱え、そのまま気づけば眠りについていた。




 その日の深夜、なんだか寝苦しさを感じたケイは、ベッドから体を起こした。すると周りはなんだか暑く、息が苦しかった。そしてそれは段々増していき、煙が出てきたあたりで、やっと火事だと気づいた


 するとその時、部屋の外からバタバタとした足音が聞こえた。


「「っケイ!!」」

「と、父さん!母さん!」


 両親はケイを見つけると、急いで手を引いて、再度走り出した。何かを話す余裕なんてあるはずもなく、ただひたすら火がない方向へと逃げた。

 しかし、その時だった。


 バキィッ


 何かが壊れるような音が鳴り、次の瞬間、天井が3人の頭上に落下した。

 そして、次にケイの視界に映っていたのは、大きな木材に下敷きにされた、両親だった。


「嘘、嘘、そんな!」


 ケイは必死に木材を退けようとした、しかし木材は重く、大人2人が持ち上げられないような物を、10歳の子供が持ち上げられるはずがなかった。


「こんのっ、う、ごけ!!!」


 それでもケイは諦めず、必死に木材を押した。


「ケイ、ケイ!!」


 しかし、そんなケイをレクシーは止めた。


「私たちのことはもういいから、貴方だけでも助かって」

「でも、でも!!」


 首を横に振るケイに、今度はスタンレーが声をかけた。


「俺達はこの通り、もうダメなんだ。お前なら俺たちがいなくても大丈夫だ」

「嫌だ!俺、俺!母さん達がいないと…!」

「大丈夫、だってケイは私たちの息子だもん」


 火が勢いを増し、段々息も苦しくなってきた。


「ごめんね、ケイは何も悪くないのに八つ当たりしてた」


 視界が煙と涙でふさがっていく。


「違う、母さんは何も」

「息子が困ってるのに、怖がってるのに手を差し伸べないなんて、私は親失格よ」


 暑さが増してきた。


「レクシー、もう時間が」

「わかったわ、ねぇケイ、最後に一つだけ私たちの我儘を聞いてくれないかしら?」

「な、なに?」


 2人は曇りのない笑顔を見せた。


「「私(俺)達の分まで生きて!」」


 2人はそう言って、ケイを突き飛ばした。

 ケイは必死に立ち上がり、走り始めた。


「ケイ!」


 後ろから2人の声が聞こえたが、振り返らなかった。


「「愛してる!!」」


 視界は悪く、息も苦しく、周りも気を失ってしまいそうな程暑かったが、とにかく無我夢中になって走り続けた。

 ただ、両親との約束を守るために




「ご報告致します。探偵スタンレーと、その妻の遺体を確認しました」

「了解、それじゃその息子の死体は?」

「………」

「何?なんか言ってくれないとわかんないんだけど」

「そ、それが…消失した家から息子の遺体は、いくら捜索しても見つからず……」

「は?何逃したの?」

「も、申し訳ございません!」

「いや申し訳ございません、じゃなくてさぁ…はぁ、まぁ2体あるしいっか……次はしくじんなよ?」

「は、はい!!」


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