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「ささ、難しい顔してないで、食卓で待っていてくださいよ、ルナ様!」
「んっ──まさか貴女、料理をする気?」
「勿論、腹が減っては何とやら、時間も遅くなってしまいましたし、食材も落としちゃいましたから、有り合わせですが……」
「待ちなさい、今日は私が作るわ」
「ぇ……?」
とりあえず、彼女の謎については置いておくとして、流石に今日はゆっくりと休ませてあげたい。
まだ、返した恩は一つだけ……といっても、元はと言えば原因は私にあるのだから、恩返しになってないかもしれないけれど。
「ルナ様はお料理をしたことがあるのですか……?」
「ないわよ」
「デェ!? 何故、そんな自信満々に」
「誰だって料理くらいするでしょう? なら、私にだってできるはずよ」
「……ソルはたまに、ルナ様がわからなくなります」
「こっちの台詞よ。さぁ、貴女は横になってなさい」
「……大丈夫かなぁ」
心配は無用だ。
地下に閉じ込められている時、沢山の書物を読み漁っている。どちらかと言えば、学はあるのだから。
「始めるわよ、人生初のクッキング!」
私は腕まくりをし、胸を張ってキッチン台に向かい合った。
☆☆☆
バリバリと乾いた音が鳴り響く。
ソレイユは満面の笑みで私が作った「何か」を口に運んでいった。
「いやぁ、おみそれしましたぁ! ルナ様がこーんなにも料理が上手だったなんて」
「……それは、その……」
「やはり、貴女様は常人とは違いますねぇー! ん〜美味しい」
「嫌味、かしら?」
「のんのん、ソルは周りっくどいことは言いません、本心ですよ!」
「本当に?」
「はい!」
その言葉を信じ、恐る恐る自分も食べてみることにした。サク、グチュ。
外はサクサク、中はぐちゅぐちゅがこれ程嫌な事、未だかつてあっただろうか。
スプーンから伝わる感触が最悪の味を連想させる。
いや、だがソレイユは普通に食べているじゃないか……ええぃ、ままよ!
「パクッ……」
「ね? 美味しいですよね?」
「…………」
「……あれ?」
「オロロロロロロロロロロッ、ゲェ、オロロ!!」
「わーぁ!!」
口に含んだ瞬間、全身に広がる悪臭は止める暇もなく私に嘔吐の命令を下した。なんだこれ、薬の方が百倍美味しかったぞ。
「ちょ、い、今処理しますね!」
ソレイユは慌ててキッチンから布巾を持ってきて床を掃除してくれる。自分で作った料理で嘔吐するなんて、情けない。
「ソレイユ……よく、食べれた……わね」
「ルナ様がせっかくお作りになられたのですから、うまいに決まってます」
「ぅぐ、騙されたわ……不幸……ね」
「いやはや、看病され、手料理まで振る舞ってもらえるとは、僥倖僥倖!」
これからは、絶対にソレイユに料理してもらおう。
そう心に決意した……と同時に、私は意識を失った。