2-4
☆☆☆
「遅れてしまい申し訳ありませんでした、ルナ様」
小屋に戻るや、ソレイユは私に向かって頭を下げてきた。
幻覚でも見ていたのか? と思うくらい、彼女はケロッとしている。
もっといえば、私の手に付着した血も消え、破れていた筈の服まで元通り。
こんな現象、回復術師にだって行えない芸当だ。
「ソレイユ、本当に大丈夫なの……?」
「はい! この通り!」
「……なら、いいのだけど……一体何が?」
「狩の途中、空から石が降ってくるわ、放置された罠に引っ掛かるわ、持ってきた弓は真ん中からへし折れるわ、靴に穴は空くわ、ちょっとしたトラブルがあっただけですよ〜」
石が降ってくるって……どうやったらそんな事が起こるのか、全く検討が付かない。
でも、やっぱり彼女にも私の不幸が確実に蝕み始めているのは明らかだ。
「やはり、貴女も私から離れた方がいいわ……これ以上は身が持たないわよ」
「愛に障害は付き物、それに怪我をしたお陰でルナ様に抱き締められたので、むしろ幸福です!」
「……死ぬかもしれなかったのよ?」
「でも、死んでないですよ? 不幸か幸福かなど、事象が完結した際の自己評価にしか過ぎません。たらればを話しても、キリがないですって」
「だからと言って、わざわざ不幸な目に遭う必要はないと思うけど」
「だ〜か〜ら〜今日、ソルに不幸な出来事は何一つなかったんですって!」
致命傷を負いながら、不幸な事がなかったと?
私に気を遣って言葉を選んでいるのだろうか。
「不幸と言えば……そうですね、葉巻を忘れた事くらいですか。失敗でした〜」
「その葉巻、マジックアイテムか何かですの?」
「まぁ、そんなところです」
「だったら、わざわざ薬など飲まず、葉巻を吸えば一発で私の怪我も──」
「や、やや! ダメでーす! ダメダメ、ルナ様が葉巻を吸ってる姿など、美しくありませんから!」
あからさまに慌てた様子を見せるソレイユ。
よくよく考えれば、彼女は謎だらけだ。
薬の調合もでき、単独で狩もこなす。
罠も、武器も木材から自分で作り、料理だって美味しい、完璧超人。
田舎出身だからとは言うが、ここまで出来るものか?
挙句、この葉巻だ……もしかしたら、これが彼女の謎を解く手掛かりになるかもしれない。