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「遅いわね」


 最初はその程度。どうせ、あとちょっとしたら騒がしい夜が始まるのだ。


「何かあったのかしら、ふふ」


 次には少し笑っていた。

 もし、彼女がこのまま帰って来なければ私は自由になり、街へ行って気持ちよく死ねる。


「……」


 次には不安が襲いかかった。

 気持ちよく死ねる? 一方的とはいえ、あれだけ尽くしてくれた人に何の恩も返さずに?

 初めて向けられた好意は、私にしがらみを与えていた。


「──ッ、そうだ……」


 次には思い出した。

 あまりにも「日常」過ぎて忘れていた。

 私は厄災令嬢なのだ。

 周りに不幸を撒き散らす女なのだ。

 つまり、それは……ソレイユだって例外ではないはず。


「あぁ、もう!!」


 次には動きだしていた。

 万全とはいかないまでも、歩ける身体には戻っている。

 震える足で床に立ち、近くにあった箒を杖代わりに歩き出す。

 玄関を開けると、そこは暗闇だった。

 このまま進むわけにもいかず、ちょうどよく置いてあった木の棒に布を巻きつけ火を灯す。

 心もとないが、この松明だけで進むしか無い。


「なんで私がこんな……」


 心がざわめき、酷い焦燥感に襲われる。

 他人に対しこんな感情を抱くのは初めてだった。

 悔しい、なんだからんだ彼女には色んな初めてを教えられてしまった。

 でも、だからこそ、このまま放置しておくなんてできない。

 そう思い、玄関を飛び出そうとした時だった。


「ッ!? あれは──ソレイユ!?」


 暗闇を火で照らすと、直ぐ近くに人影が見える。

 地面にうつ伏せになり、倒れた人影が。

 顔は見えないが、その美しい金髪が彼女だと教えてくれた。


「大丈夫!? ねぇ、ちょっと!」


 おぼつかない足で必死に駆け寄り、身体を抱き寄せた。

 すると、両手にはドロっとした感触がこびりつく。


「ひッ!? これ、血……あ、貴女……ぁ、ああ!」


 明らかに致命傷レベルの出血だった。

 暗くてよく見えないが、足元にまで血溜まりができている。

 どうすればいい? このままだと、間違いなく死ぬ。

 医者……無理だ。

 たとえ街に行って医者を呼べたとして、私の話など聞くはずない。

 だったら、私が治療するしかないのか?

 どうやって……どうすればいいの!?


「ぅぐッ……ぁ、ルナ様……えへ、抱きかかえられちゃってる。僥倖ですねぇ……ぐふッ!」

「ソレイユ、意識が戻ったのね! い、今なんとかするから、静かにしてなさい!」


 なんとか、とは言ったのもも解決策は何も思いついていない。

 これだ。私はいつもこうだ。

 関わった人間を不幸にしてしまう。

 だから、死ななければならないのに……!


「泣いて……いるのですか? はは、ソルの為にルナ様が、へへ」

「馬鹿、黙ってなさいと言ったはずよ!」

「いや、ちょっと忘れ物を……してしまいまして……ぅ、ぅ……!」

「忘れ物なんていいから、お願いだから、黙っててッ!」

「安心、し……て……た、キッチンの横の棚に……は、ほ、細い葉巻が入ってるので……もってきて、もらえませんか?」


 あの初夜に吸っていた嗜好品のことだろうか。

 でも、今はそんな場合ではない。


「葉巻!? 最後の一服には早いわよ、諦めないで!」

「あれがあれば、ソルは……無敵、ですから……信じて下さい」

「無敵って……あんなもので──」

「ふふ、いくら考えても、それしか手段は……ありませんよ?」

「ッ……確かにそうね、貴女の言葉を信じるわ」


 急いで小屋に戻り、指定の棚の開けると大量の葉巻が入っていた。

 それを持ってソレイユの元に戻り、松明から葉巻に火を移し、口に咥えさせた。

 彼女は深く、深く息を吸い込み、葉巻を燃やす。

 ジジッと音を鳴らしながら、あっという間に吸いきってしまった。

 すると──


「ッ、ああ~危なかったぁ。いやはや、助かりましたよ、ルナ様」


 まるで何事もなかったかのように、ぴょんっと立ち上がり背伸びをする。

 さっきまで地面に流れていた血液は跡形もなく消え、彼女の傷も完全にふさがっていた。

 この葉巻は、私の知らない回復系の道具だったのだろうか。

 とにかく……本当に、よかった。

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