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人は皆、神の祝福を受け、この世に生まれ落ちると言う。ならば私は神の呪いを受けたのだろう。
アージュ家の三女、ルナ・アルス・アージュとして生まれた瞬間から周囲には不幸が訪れた。
領地では疫病が流行し人が死に、天災により地は荒れる。
愛らしい動物は私を避け、恐ろしい魔物は襲いかかってくる。
次第に街では「厄災令嬢」と畏怖されるようになり、最初は庇ってくれていた家族も「忌子」と呼び私を幽閉した。
優しい人は言うだろう、偶然が重なっただけだと。
けれど、自分が一番理解していた。原因が自分にあるって。
愛すれば、愛するほど不幸の沼へ引き摺り込む力があるって。
だから私は城の地下室で、声を殺して生きると誓ったのだ。
しかし、状況が好転することはなかった。
街で起こるありとあらゆる不幸が私のせいにされ、暴動が発生。
アージュ家の城に火を投げ込む者まで現れ始める始末に発展してしまう。
この事態を収めるためにはどうすればいいと思う?
そんなの、一つしかないじゃない──
「これより、ルナ・アルス・アージュの処刑を開始する」
街の中央広場で、私が幼い頃から知ってる熟年の憲兵が声高らかに宣言した。
貴族とは思えないボロボロの布を着せられ、ギロチンに拘束され、街の中央広場で見せしめとして処刑される。
私は家族に殺されようとしているのだ。
「そいつをさっさと殺せ!」
「面も見たくねぇ」
「これ以上、私達に不幸を撒き散らかさないで!」
民衆は石を投げ、罵詈雑言を浴びせてくる。最低の死に様だ。
けど、これでようやくと私は幸せになれる。
死ぬ事で誰も不幸にならず、この世界から離れ、魂は解放されるのだ。
なんて幸せなことだろうか。最初から、こうしておけばよかったんだ……痛ッ。
「うくッ……」
大きめの石が額に打つかり血が流れ、視界を赤く染める。
沸き立つ民衆、私の傷と死が彼ら彼女らの幸せ。
神への祈りも告げられず、処刑の準備は淡々と進んでいった。
頭の上には鋭利な刃が一本の縄で結ばれており、目の前には長女クラリスが剣を構えている。
「ようやく、アンタを殺せる時がきたわね。どれだけ家族に迷惑を掛けたか、死んでも覚えてなさいよ」
憎悪と殺意の眼光で睨みつけられ、私は笑顔を返した。こんな真っ直ぐお姉ちゃんに見てもらったのは初めてだったから。
「ッ……気味の悪い子。二度と見たくないわ」
安心して欲しい。これが最後だから。
死体はきっと、動物の……いや、魔族の餌にでもされるのだろう。
これだけ人の憎しみを浴びたのだ、跡形も残す筈ないもんね。
天も私の死を祝福するかの如く、一変して暗黒に包まれ肌を刺すような大雨が降り注ぐ。
「さよなら、厄災令嬢」
振り上げられた剣。命を繋ぐ一本の縄。
躊躇いなく剣先は振り下ろされ、銀色の刃が私の首目掛けて落下した。
あぁ、ありがとう。私は初めて、幸せを手に入れる事が出来た。
「幸福だわ……」
最後の言葉は激しい雨音で掻き消される。
刹那、視界は真っ白に染まった。
──爆音と共に。
ご覧いただき、ありがとうございます。
今回、初めて令嬢物を書かせていただきましたが、如何でしたでしょうか?
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