第46話 危機一髪
2021/01/24 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「今、治しますわ」
何とか死者を出さずに階段へと戻ってきた俺たちはようやく人心地付くことができた。しかし雨あられのように降らされた攻撃に無傷で切り抜けることはできず、皆多かれ少なかれ矢傷や火傷を負ってしまい、こうしてメラニアさんのお世話になっているのだ。
「あそこまでの数がいるのは予想外ねン」
トーニャちゃんが険しい表情を浮かべている。はっきり言って攻略する側が不利過ぎて打つ手が思いつかない。
「これはもう無視して駆け抜けるしかないかしらねン……」
トーニャちゃんが何か恐ろしいことを呟いている。そうなった場合俺はついていくことができるのだろうか?
そう思っていると、奥からフラウが戻ってきた。
『ただいまー。ねぇねぇ! 見てきたよ!』
「(ありがとう、フラウ。どうだった?)」
『奥に行くとね。もっと奥に入る入り口があってね。それでね。その中は大きなホールになってたよ!』
「(そうなのか。そのホールの奥には何があったんだ?)」
『えー? 見てなーい。ディーノがヘタレなんだもん』
「う……」
どうやらおでこにちゅーでは不満だったらしい。
「(ほ、他に何かなかったか?)」
『んー? あとはねー。入り口の左右に階段があって、みんなが登ろうとしているところに登れるみたいだよ? みんなあそこから登れば良いんじゃないかなって思ったの』
「え? 本当か!?」
俺は思わず大声を出し、そして周りの冒険者たちが白い目で俺を見ている。
「何が本当なのかしらン?」
「あ、ええとですね。実はあの時の妖精に奥を見に行ってもらったんですが」
「あらン? その妖精はそんな事までできたのン? それでどうだったの?」
「それが、この通路を抜けた先には上に登る階段があるらしいんです。それから、突き当りにはなにか入り口があって、その奥がホールになっているって言っています」
「ええっ!? それは本当なのン?」
「はい。フラウは、あ、その妖精はそう言っています」
「そのホールには敵はいたのかしら?」
『居なかったー』
「居なかったみたいです」
「そう! ふふ! よくやったわディーノちゃん。ハグしてあげるわ」
「いえ、けっこ――」
俺は遠慮しようとしたのだがあっという間にトーニャちゃんにハグされてしまう。トーニャちゃんの太くてたくましい腕と胸板に抱かれた俺の意識は瞬く間に遠くなったのだった。
****
俺はふと気づくとどこかの川辺に立っていた。対岸には色とりどりの花を咲かせた美しい花畑が広がっている。
そこに人影があるのを見つけた。
あれは……母さん? 父さんまで?
どうして死んだはずの二人があそこに? 夢、なのか?
あの身振りは、こっちに来るなと言いたいのか?
いや、でもどうせ夢なら、父さんと母さんに会って話をしたって問題ないはずだ。
そう考えた俺は川を渡るために一歩を踏み出した。
すると突然後ろから髪の毛を引っ張られた。
「いてっ!? 何だ?」
「ダメー! そっちに行っちゃダメ!」
「フラウ? 痛いじゃないか。それに夢なんだから久しぶりに父さんと母さんに会って話をさせてくれよ」
「ダメなの! それ以上行ったらダメなの!」
「え? どういうことだよ……」
「いいから早く起きて! ディーノの唇はあたしのモノなの!」
「はぁっ!?」
いきなりわけのわからない事を言われて混乱するが、その瞬間に強烈な悪寒を感じる。
そう、このままここにいてはいけないような、何か男として取り返しのつかない大切なものを失うような、そんな気がして俺は川から上がった。
父さんと母さんがうんうんと頷きながらも少し寂しそうな顔をしている。だがこれが夢ならばきっとまた会うこともできるだろう。
「父さん、母さん。また会いに来るよ」
俺がそう言うと二人は笑顔で頷き、手を振ってくれた。
すると次の瞬間、目の前が真っ白になる。そして視界がクリアになった瞬間、目の前には目を瞑って唇を突き出したトーニャちゃんの顔があった!
「うわっ!」
俺はすんでのところでトーニャちゃんの唇を回避する。
「あらン? 目を覚ましたのね! よかったわン」
悪びれる様子もなくそう言ったトーニャちゃんとどこか気まずそうに顔を背けるメラニアさんたちの姿がそこにあったのだった。
これは、一体どういう状況だったんだ?
****
「ディーノ様は危ないところだったのですわ。アントニオ様に抱きしめられたディーノ様は骨折してしまいまして、あと少し治療が遅れていたなら危ないところでしたわ」
「ええと?」
「わたくしが治癒魔法で治したのですがそれでもお目覚めにならず。そこでアントニオ様が人工呼吸をして生命力を送り込めば目が覚めるかもと仰いまして……」
「……」
危なかった。フラウのおかげで男として大切なものを失わずに済んだようだ。
いくらなんでもファーストキスが男、いや、オカマ、あ、いやトーニャちゃんというのは勘弁してほしい。
「トーニャちゃん、もう俺に抱きつくの禁止ですからね?」
「……悪かったわよン。ディーノちゃんが頑張ってくれて嬉しくてつい力が入っちゃたの。ごめんなさいン」
「……はい」
こうして俺は戦いを前に全く関係ないことで死にかけたのだった。




