第22話 田舎の事情
2020/12/30 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
2020/12/31 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
なんとかブラッドレックスを仕留めた俺たちはその場で解体をして村へと運んだ。かなりの重量があったが途中からはリューイさんが呼んできてくれた村人たちの協力もあって無事に全て村へと運び込むことができた。
そして分配の話をするということで、水浴びと着替えを済ませてからお世話になっている村長さんのお宅のリビングへと向かった。そこには既に村長さん、『蒼銀の牙』の四人、ホアキンさん、そしてリューイさんが集合していた。
「さて、それじゃあ素材の分配について話をさせてください」
カリストさんがまず話題を切り出す。
「そうですな。うちの狩人のリューイも矢でかなり貢献したということですから、売却価格の五分の一、それから運搬を手伝いましたので食べられない肉と骨を頂きたい」
は? 漏らしていただけの奴が?
リューイさんは俺の視線を感じたのかさっと顔を背けた。
「いえ、その認識は間違っています。まず、リューイ君は何もしていません。ただ座ってリカルドに守られていただけです。戦っていないどころか、ただの足手まといになっていた者に分配などすることはできません」
「なんですと? ですが我が村の狩人がそんなはずはありません。リューイ、そうだな?」
「え、は、はい」
「ほら、リューイもこう言っているではありませんか。五分の一は必ず頂きますぞ」
「それはできません。何故戦ってもいない者に分け与えるのでしょうか? Cランク冒険者である僕たちは信用が第一です。そのような理不尽な要求を受け入れるわけにはいきません」
「ですが、同じEランクのその子供も戦ったのでしょう? それであれば我が村の誇るリューイが戦えないなどあり得ません」
「我々はこの目で見ていたのですから、憶測で仰られても困ります」
こうして堂々巡りを繰り返し、一時間以上に渡って交渉を重ねた結果、リューイさんには参加賞として 100 マレを支払い、肉と骨を村の取り分とすることで決着した。
俺は何と素材の売却金額の半分を貰えることになった。というのも、ルイシーナさんが自分は活躍できていないと分配を辞退したのだ。だがさすがに無報酬というわけにはいかないという話になり、俺と『蒼銀の牙』で半分ずつにするということで決着となったのだった。
それにしても、やはりCランクの冒険者パーティーというのは本当に高潔な人物が揃っているようだ。俺も冒険者として生きていくのであればこんな人たちとパーティーを組めたらと心から思う。
そして素材の買い取りについてはホアキンさんが是非にと申し出てくれた。相場はわからないのでカリストさんにお任せをしたのだが、売却の総額が 60,000 マレという意味不明な金額になった。
運搬手数料を考えると妥当な金額という事だったので魔石以外をホアキンさんに売却したのだが、どうやらブラッドレックスというのはそれほどのレア素材らしい。支払いはサバンテに戻ってからになるそうだが、これで百連がまた引けると思うと帰るのが楽しみで仕方がない。
ちなみに、魔石は冒険者ギルドに納品する義務があるのだそうだ。魔石は討伐証明でもあるため、原則として冒険者ギルド以外への売却は禁止されているのだが、これはDランクに昇格する時に教えてもらえるらしく、Eランクの俺がこれを破ったところで特にお咎めはないらしい。
なるほど。言われてみればたしかにサバンテの周りで倒す魔物といえばゴブリンなどの弱い魔物が多い。そしてそういった魔物の魔石は流通在庫が潤沢に存在しているため、わざわざ駆け出しの冒険者から買い叩くような事をする必要がないという事なのだろう。
それにもし買い叩いたとしても儲けは二束三文にしかならないだろうしな。
それから日が沈むとブラッドレックスの討伐を祝って村をあげての宴会となった。もともと今日は商隊が来てくれたことで宴会を開く予定だったのだそうだが、そこにブラッドレックスの討伐という名目が加わったようだ。
俺もカリストさんたちに交じってひな壇で紹介された。リューイさんはというと、一応一緒に紹介されてはいるがやはりどこか居心地が悪そうにしている。
するとそんな俺の視線に気付いたのかリューイさんが話しかけてきた。
「おい。その、なんだ。悪かったな」
「え?」
「足を引っ張るなとか、えらそうな事言って悪かったって言ったんだよ。くそっ」
リューイさんはそう言うと俺の返事も聞かずにそそくさと立ち去ってしまった。
なるほど。ということはあれは村長さんが利益を得るために色々と言っていただけという事か。
色々と思うところはあるが、謝ってくれたしもう良しとしよう。きっとカリストさんたちが同じ立場だったらきっとここで俺が問題をほじくり返すような事はしていないだろうからな。
俺はエールを一杯飲むとひっくり返らないうちに自室へと戻ったのだった。
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その後は特にこれといった問題も発生せず、俺たちはサバンテへと戻るためハモラを後にした。
帰りも散発的に魔物に襲われはしたがカリストさんたちの指導を受けて俺も戦闘に参加させてもらい、とても有意義な時間を過ごせた。
そしてホアキンさんから素材の売却代金を受け取ると俺たちは揃って冒険者ギルドへと戻ってきた。夕方の混む時間帯だったのでフリオとすれ違い、またもやものすごい目つきで睨まれたが今回も無視した。
それから順番待ちをしてセリアさんに依頼の完了報告とブラッドレックスの討伐報告を行った。
「ええっ!? ブラッドレックスですか? それはご無事で何よりでした」
「あれには僕たちも本当に驚いたけど、あんな村の近くにいたのなら今回倒せてちょうど良かったよ。いずれ、ハモラ村が襲われていただろうからね」
「それはその通りですね。たしかハモラ村には特例Eランクの方が一人いらっしゃるだけだったはずですし」
「特例Eランクですか?」
「ああ、ディーノさんにはご説明していませんでしたね。ハモラ村のように村から出なければ冒険者としての依頼をこなせない地域の方には特例として、その村でのみEランクとして認めるという制度があるのです」
「え? じゃあ、あんなに偉そうに色々と文句を言ってきていたのにFランクから昇格したわけじゃないんですか?」
「まあまあ。ああいった地域だとどうしてもあんな風になりがちなんだよ。村の人たちはみんな彼を頼ってしまうからね」
「はぁ。まあ、それもそうかもしれませんね。別に俺も怒っているわけじゃないですし大丈夫です」
それに一応は謝ってきたのだし、今更話を蒸し返す必要はないだろう。
「そう言って頂けると助かります。ところで、ブラッドレックス討伐は『蒼銀の牙』の皆さんで達成されたんですか?」
「いや、僕たちだけでは負けていただろうね。メラニアもその時は村に残っていたからね」
「え? じゃあ、一体どうやって?」
「僕たちが必死に戦っているところを、ディーノ君が勇敢にもブラッドレックスの背後から近づいてくれてね。それでまさかの肛門をブスリと刺してくれてね。そのおかげで倒せたんだ。ディーノ君は剣士としての体もできていないし技量もまだまだだけど、その機転と勇気には心から賛辞を送りたいと思うよ」
「まぁ。ディーノさん、すごいじゃないですか。カリストさんがここまで手放しで褒めるのは珍しいんですよ? このまま順調にいけばDランクへの昇格も近そうですね」
「え? そんなにですか?」
「そうですよ。まだ数か月しか経っていない新人がブラッドレックスの討伐に貢献するなんて普通ではまずあり得ない快挙ですよ!」
「ありがとうございます。頑張ります」
「ですが、あんまり無茶したらいけませんよ? 少しずつ結果が出始めたあたりが一番危険なんですからね」
「はい」
それはカリストさんたちにも耳が痛くなるほど言われた。油断こそが命を失う最大の要因なのだ、と。
どんな事でも慣れてきたころが一番失敗しやすいというし、冒険者という命がけの仕事での失敗は死に直結するということは俺の足りない頭でも理解できる。
慎重に、確実に、一歩ずつ階段をのぼるようにしたいと思う。
「こちらの魔石はすぐには買い取り価格をご提示できませんので一度ギルドでお預かり致します。配分はいかがなさいますか?」
「僕たち『蒼銀の牙』とディーノ君で等分してほしい」
「はい、かしこまりました。等分ですね。ええっ!? 等分ですか!?」
「あはは。セリアちゃんにしては珍しいね。でも、僕たちはそれで妥当だと思っているよ。彼はそれぐらいの貢献をしてくれたんだ。彼の査定の方もしっかり頼むよ?」
「かしこまりました。それでは、魔石の買い取り価格が決まりましたらそれぞれにお支払いいたします」
「うん、よろしく」
「はい。それでは『蒼銀の牙』の皆様、ディーノさん。お疲れ様でした。そしてお帰りなさい」
そう言ってセリアさんは極上の笑顔を浮かべてくれたのだった。
俺はふと視線を感じて振り返るとそこには凄まじい形相で俺の事を睨むフリオの姿があったのだった。




