第二章第46話 フラウの初陣
「エレナちゃん。すまないけど陽動を頼む! ディーノ君はリカルドを運ぶのを手伝って! メラニアとルイシーナは通路まで撤退!」
その声に反応したエレナはベヒーモスのほうへと走り出した。
「剣の舞!」
アーツを発動したエレナは炎の剣を三本作り出す。
「ディーノは、やらせないんだから……!」
そう小さく呟くと炎の剣をベヒーモスの顔面に向かって飛ばした。
迫りくる炎の剣に気付いたベヒーモスはそれをはたき落とすべく右の前脚を大きく振るう。
ブン、という風切り音を伴い繰り出された一撃は三本の剣のうち二本をかき消したが、残る一本は直前で軌道を変えて一度上昇することでその前脚を掻い潜りベヒーモスの眉間を捉えた。
「グオォォォォォォォ!」
ベヒーモスは再び吠えるとエレナを睨み付けた。
「剣の舞!」
エレナは再びアーツを発動させて炎の剣を作り出すと、それをベヒーモスの顔面に向けて飛ばした。
「グガァァァァァァァ! ガァッ!?」
ベヒーモスはそれをはたき落とそうと前脚を再び振るったが、炎の剣はちょうどギリギリ届かないくらいの位置でピタリと停止する。そしてまるで挑発するかのようにベヒーモスの周囲を動き回る。
「ガァッ! ガァッ! ガァッ!」
まるで猫が猫じゃらしに飛びつくかのように炎の剣をたき落とそうと前脚を、さらに尻尾を振るう。だが炎の剣はそれをひらりひらりと躱してはベヒーモスの顔の前でちらちらと動いて挑発を繰り返す。
「グガァァァァァァァ!」
咆哮を上げて大きく息を吸い込んだ次の瞬間、目の前で挑発を繰り返していた炎の剣が再び眉間に命中した。
「グガァァァァァァァ! ガァァァァァァ! ガァァァァァァ!」
虚を突かれた攻撃に怒りをあらわにしたベヒーモスはまるで地団太を踏むかのように四本の足で床を踏み鳴らす。
「隙だらけなのよ!」
エレナはその隙に近寄ると右の前脚に再び一撃を入れると闘技場の奥へと走り抜ける。
「ガァァァァァァ!」
怒りの形相を浮かべたベヒーモスはエレナの後ろを追いかけ始めた。
こうしてリカルドたちからベヒーモスを引き離したエレナはくるりと向き直る。
「さ、このくらい離れればいいかしら? 剣の舞!」
エレナは十本ほどの炎の剣を生み出すとステップを踏んでベヒーモスへと向かっていく。
「グガァァァァァァァ!」
再び咆哮をあげたベヒーモスだが前脚では攻撃せずに体から衝撃波を放つ。
「その技は見切ったのよ」
エレナは瞬時に距離を詰めると衝撃波に対して手に持つ細剣を目にも止まらぬ速さで振るって衝撃波を切り刻んだ。
そしてすれ違いざまに連撃を入れると背後に回りこむ。
「くらえ! 『紅蓮の火葬』」
宙に浮かんでいた十数本の炎の剣が一斉にベヒーモスへと襲い掛かるとその体を巨大な火柱が包み込む。
「エレナーっ!」
その様子をじっと見つめているエレナのところえフラウが猛スピードでやってきた。
「え? フラウ? ダメよ! こんなところに来ちゃ危ないわよ!」
「エレナ! それじゃそいつは倒せないのっ! ベヒーモスはねっ! 聖なる力じゃないと倒せないのっ!」
「聖なる力? でもあたし、聖属性は使えないわ」
「大丈夫! あたしが応援してあげる! エレナには聖なる力を使う素質があるはずだよっ! だからねっ! あたしが応援すれば、エレナも聖なる力を使えるようになるはずだよっ!」
「あたしが? でもあたし、聖属性は何回やっても……」
「エレナはディーノを守りたいんでしょっ? だったら、あたしも一緒だからっ! ねっ? あたしを信じてっ!」
エレナは燃え盛る火柱と必死に訴えかけてくるフラウを交互に見つめ、そしてふうっと大きく息を吐いた。
「たしかに、氷もダメだったし炎も効いていないみたいね。わかったわ。フラウ。あたしを応援して」
「うんっ! 任せてっ!」
フラウはエレナの左肩に乗ると目を閉じて集中した。
そして、目を開くと大きく息を吸い込んだ。
「エレナっ! がんばれっ!」
大きな声でエレナにエールを送ると、エレナの体は淡い光に包まれた。
「これが……フラウの応援なのね……。暖かい……」
穏やかな表情を浮かべるとエレナは細剣を横一文字に振り抜いた。ヒュンっと軽快な音が闘技場に響き渡る。
次の瞬間、ベヒーモスの咆哮が響き渡った。
衝撃波と共に炎の柱を振り払ったベヒーモスは大きく息を吸い込み、天井に無数の隕石を出現させる。
「ガァァァァァァ!」
隕石はすぐに動き出すと一斉にエレナに襲い掛かかった。
「フラウ。あたしにしっかり摑まってるのよ!」
「うんっ!」
エレナは目にも止まらぬ速さで動くと華麗なステップを踏んでその全てを躱していく。
「フラウ! 行けるわ! 『剣の舞!』」
エレナが出現させたのは光の剣だ。いくつもの光の剣が宙に浮かび、エレナの動きに連動して舞い踊るようにベヒーモスへと斬りかかる。
一撃、二撃、三撃。
光の剣が斬りつける度にベヒーモスの体からは血が噴き出し、その度に苦しそうなうめき声を上げる。
「終わりよ! 『聖なる審判』」
エレナがアーツを発動すると光の剣は一斉に動き出し、ベヒーモスの体を串刺しにすると激しい光を放った。
やがて光が消えると、そこにはエレナの体ほどの大きさはあろうかという巨大な魔石だけが残されていたのだった。
次回更新は通常通り、2021/05/06 (木) 21:00 を予定しております。




