1話「日が沈んだら悲しくなってきた」
漫画原作がどのような形で書かれるのか、ご参考になれば。
シナリオは書く人によって、あるいは読む相手によって書き方が違ったりします。
採録シナリオというジャンルもあり、それは最終的な成果物からシナリオ形式にフィードバックしたものなので、読み物として作られた別物です。
この原作シナリオは完全に打ち合わせを前提、1度読んだだけで伝わるものではないという意味で小説のように読むことは想定してなく、またそもそもシナリオを読むにはスキルが要求されるものなのですが、敢えて直しもせず当時のまま公開します。
先の展開についての説明や注が入ってる場合もありますが、その点も小説と作法が違います。
また2話以降はコンテ(シナリオから作画にするためにコマ漫画形式で描かれた漫画の設計図)も担当していたのでツイッターとpixivで公開しています。そちらでラフな絵でマンガ形式も読めます。
さらにご興味がわいたら最終的に出来上がった漫画作品も探して読んでみてください。
この形からどのように漫画になるのか想像してから実際の漫画を読むと、みなさん自身ならこのシナリオをどんな漫画にするか、という創造体験ができるというわけです。
権利は許諾を得てクリアしてますが歌詞は「誤訳」という名のオリジナル詞になります。
ところどころ曲イメージにYou Tubeリンクが貼ってありますが、リンク先が生きていれば聞いてみてください。おすすめです。
以下、連載開始前当時の企画書から。
趣旨●
悪魔と契約した、謎が謎をよぶ変な女のコがつま弾く、
魂をガクガク揺さぶるスズメバチのスライドギター!
それはリリカルに突き刺さる黒いトゲ、ブルーズ!
男の子向け少女漫画。
主題●
ぐっと来る叙情で心をえぐる音楽。ロックの原点で、古くて、捨てがたい、魂を揺さぶる、ブルーズ。
やる気のなさに満ちた世界、色々と理不尽なこともあるけれど、
ボンヤリしているようで実はひたむきでガムシャラな主人公が、
ヤケクソになったり悟った気になりながら、
魔法のようなギターの力を通して、周りに興奮を、元気を振りまく。
自分が何かに夢中になったり、人を感動させたりすることができる可能性を見て、この世界にある喜びを探したくなるようなお話。
ちょっとかわいそうだけどばかで滑稽。滑稽だけど悲しい。そんなコメディ。
分野●
ほのぼのブルーズばかミステリーコメディ
課題●
バンドものにはしない。
あくまで悲喜劇のコメディドラマ。
希のキャラクター中心で起こる事件や素朴な日常ミステリーを描く。
「どうしょうもなくってなんか上手くいかんのよ、この世は」
というブルーズの古典的テーマをなぞらえた、
それぞれの悩みを抱えるキャラクターたちの群像劇。
思春期なりのブルーズ。
設定●
●舞台
現代日本東京。
不思議な高校生女子・「まれちゃん」こと奈良本希を求心力とした音楽室たむろ仲間の周辺。
平均のレベルの「南高校」。偏差値51とか。
統廃合対象。再来年は新入生が入ってこない。
●キャラクター
この1話を書いたのが連載開始前2010年くらいなのでまだキャラの名前が違ったり呼び方が違うなどの差異があります。
2話以降、土川小太:(つちかわしょうた):チョビ太はチョコという名前に変わります。
副会長もあだ名がインチョーになります。これは元々そうだったものに戻したと記憶してます。
奈良本希:(ならもと まれ):まれちゃん
女・16歳・高校一年生
素っ頓狂でちょっとトロく素直でブルーズ好きな少女。
魂を揺さぶるギターテクニックを持つが、それを知る人はごく少ない。
そのギターの音色はスズメバチの羽音のように響き、太く心に刺す。
オシャレとは縁遠くちょっと垢抜けない感じだが、黙っていればかわいい。
お祖母ちゃん子で、年齢に不相応な知識や発言もしばしば。ギターを教えてくれたのはお祖母ちゃん。
相撲が強い。お祖母ちゃん仕込み。
周りからは少し変わり者と思われ、謎めいた行動を不思議がられている。
他人の話をよく聞いてなかったり、適当に相づちをうったり、噛み合わない返事をするのでトボケてたりバカみたいに見える。
声が大きい。
実は軽い難聴なので、相手の言っていることがよく聞こえてないことがあるが、それは誰も知らない。
何度も聞き返すことで相手に鬱陶しがられたり相手にされないことを恐れているため、相手の唇を読んだり適当に調子を合わせることでしのいでいる。
中学からの癖で一人で音楽室にいることが多いが、マキミキや副会長が一緒にたむろするようになる。
勉強は苦手。
#過去
元は肥満児で中学まではいじめられっ子で不登校ぎみだった。
肥満と難聴が原因でいじめられ、最愛の祖母を亡くしたとき、十字路でブルーズの悪魔と契約し、ギターの腕前と引き替えに魂を売る。
その結果寿命が縮まりドンドン痩せて今に至っている、と思い込んでいる。
だが、実際にギターテクニックだけは恐ろしいスピードで上達した。
1人、死を覚悟してヤケになったり、何か悟ったり。独り相撲?
玉木未来:(たまき みき):マキミキ
女・16歳・高校一年生・まれちんのクラスメイト・音楽室たむろ仲間
ボーイッシュで、うるさいくらい元気な少女。よく笑う。バンドをやっている兄の影響でブルースハープを吹く。
兄の友達や年上の男たちとのつき合いがあるため、意外と大人っぽいものの見方をする。
貧乏な家の子なので、見た目ほどの浮ついたものはなく、けっこうしっかりしている。父は不在がちでほとんど兄と二人暮し。
兄のバンドにときどき参加し、泥臭い通好みの音を出す。エロい仕草のハーププレイとセクシーダンスでライブハウスでは人気者。
よく舌を出すクセ。走るのが速く負けず嫌い。
ややブラコン気味。無自覚。
学校は退屈だと思っていたが、まれちゃんのギターと謎めいたキャラクターに刺激を受け、興味を持ち仲良くなる。
1人で勝手に喋ってばかりなので、適当に相づちうっているまれちゃんとは一見噛み合っているように見える。
まれちゃんのお姉さん役のつもり。お節介なとこがある。
勉強は苦手。
「カインド・ハーテッド・ウーマン」=誰にでも優しくて、それが原因でみんなを傷つけちゃう。
#過去
母のいない家庭で、男家族ばかりに育つ。
ヤリマン、と心ない噂に傷ついている。
香坂陽子:(こうさか ようこ):副会長
女・17歳・高校一年生・まれちんのクラスメイト・音楽室たむろ仲間
メガネで物静かで不機嫌な少女。背が高く、切れ長な目、おっかない印象で敬遠されがち。
面白味がないように見えるが、音楽オタクで、気を許した相手とはよく話す。少しくらいならピアノが弾ける。
一年遅れで高校生になったので、年上ということでクラスでは孤立している。
学級委員っぽい外見だが、私服になると別人のように不良っぽい。学級委員(ホームルームの司会とか雑用)は推薦されたが丁重に辞退した。
いいとこのお嬢さんだけど、親とは険悪。
なぜか副会長と呼ばれている。
その抜群のプロポーションをよく男子からヤラシイ目で見られる。軽蔑はするが、気にするそぶりは決して見せない。それがスマートだと思っている。
まれちゃんのギターとミステリアスなところに興味を持ち、まれちゃんには心を開く。
実は志鎌先生のことが好き。
「ロング・トール・ウーマン」=背が高い彼女は、ほっとけない、かわいそうなんだよ。
#過去
学校嫌いで高校に行くつもりはなかったが、親の説得で嫌々一年遅れで入学した。
土川小太:(つちかわしょうた):チョビ太
男・16歳・高校一年生・まれちゃんの隣のクラス
背が低くてショタっぽい、見た目、4人目の女の子。
空回りで、エネルギーもてあまし気味の童貞ギター少年。女心にはニブチン。
ギターの腕は大したことないけど、まれちゃんのギターがただ事ではないことだけは理解でき、圧倒される。
まれちゃんを担ぎ出してバンドを組むことを目論むが、まれちゃんのことが好きになってしまう。
まれちゃんに対してどうすればいいのかわからなくオロオロしたりしょんぼりする。
マキミキとは同じ団地で幼馴染だけど、幼馴染という甘酸っぱい言葉を避けている。
マキミキとまれちゃんと三角関係に?
「ローリン&タンブリン」=しっちゃかめっちゃかで、もうどうにもなんないよ俺。
(擬音・吹き出し外文字)
「セリフ」
{人物モノローグ}
<ナレーション・モノローグ・解説・歌>
■1話(28ページくらい?)
●放課後。ひと気のない旧校舎。第二音楽室。
まれ、リゾネートギターを抱えて椅子に座りながら、チューニングし、ボルトネックを小指にはめる。
マキミキ、椅子の背もたれを前に抱え込んで座って、ブルースハープを持った手を口に当ててアクビをしながら、まれに、
マキミキ「まれちゃん、なにやる?」
まれ「んー、Gでー」
と探るような目を宙にさまよわせつつ、スライドを使って音を出す。
(ぴゅっ・ぴゅっぴゅーん)
副会長「G……」
と鍵盤を物憂げに見つめながらピアノを
(ぱらりん)
と弾く。
まれ、すっと息を吸って、
まれ「Hmmmmmmmmmmmmmmmm──」
(びゅーん・びゅんびゅびゅんびゅーん)
と唸りながら適当に弾き始める。
副会長{おらび声だ}
副会長{もしかすると、この声が魔法を呼び込む呪文なのかも……}
と、無表情にまれを見ながら、適当にピアノでシャッフルを刻み始める。
(ぴんぴんぴんぴん……)
マキミキ「おっ?」
と身体を起こして、うれしそうに足踏みし始める。
(たんた たんた たんた たんた)
まれ、急に思いついたようにパッとマキミキに顔を向けて微笑し、右の掌を弦を叩きつけるように弾き始める。
(ぴゅぴゅっぴゅっぴゅーんぴゅ ぴゅぴゅっぴゅっぴゅーんぴゅ)
副会長「──「デス・レター」ね」
とつぶやく。
まれ、頷いて、おもむろに陽気に英語で唄いだす。
(参照http://www.youtube.com/watch?v=wTB8MhjUfsY&feature=related)
DEATE LETTER//JAZZ Words&Music by Son House
@1965 SONDICK MUSIC The rights for japan assigned to FUJIPACIFIC MUSIC INC.
まれ<今朝早く手紙が届いた なんて書いてあった?
「急げ急げ あのコが死んだ」
今朝早く手紙が届いた なんて書いてあった?>
マキミキ、ハープを吹き鳴らして立ち上がる。
かろやかにステップを踏み、スカートのすそがひるがえる。
まれ<「急げ急げ あのコが死んだ」>
まれ、のってきて上半身を前後に揺らしはじめる。
顔を伏せ、長い髪が垂れる。手はさらに激しく動いている。
マキミキ、ぱっとハープを口から離して笑顔でまれを見て、歌をひきうけて、
マキミキ<カバンを引っつかみ 道を急いだ
たどりついたら あのコは安置室に
カバンを引っつかみ 駆けつけた>
副会長、鍵盤を叩きながら楽しそうに二人を見る。
マキミキ<たどりついたら あのコは安置室に>
まれのスライドが唸り、稲妻が走ったように見える。
ナレ<ブルーズの魔力は 音にある>
まれが、頭を振り上げると、ばさっと髪が舞う。
ナレ<その音の一節だけで聞き手を惹きつけ 虜にする>
ナレ<音は歪み 弾むリズムで 哀しく滑稽な人の気持ちを複雑につかむ>
まれの狂気を秘めた瞳の光、どこかデモーニッシュな笑顔。
ナレ<これはブルーズの魔力に魅せられた者の物語>
●同じ頃。校内のどこか廊下。
ギターケースを背負ったチョビ太。ぶつぶつ言いながら昨日のことを思い出している。
チョビ太{あー、部活行きたくねえなあ}
チョビ太{昨日だって……}
●回想。昨日。フォーク&ロック部の部室。
先輩のバンドの練習。
歌謡曲っぽいなんかのコピー。自己陶酔している先輩たち。
内心イライラしているチョビ太。
チョビ太{ダセーよ……!}
チョビ太{俺はもっと、こう、魂を揺さぶるロックンロールをやりたいのに}
曲が終わって。
チョビ太がなんか洋楽の練習している。
先輩A、横に立ってチョビ太の洋楽のスコアブックをめくりながら、薄ら笑いしている。
先輩A「土川さー」
先輩A「洋楽とか好きなのわかるけどさ。お前の趣味、マイナーじゃね?」
むっとするチョビ太。
先輩A「女子にモテたいなら、とりあえずもっとみんなが知ってる曲とか?」
先輩B「なあ」
先輩B「つか、一年生、誰得なソロよりきちんとバッキングできるように練習しろよ」
チョビ太「……はい」
●回想終わり。第二音楽室近くの廊下。
とぼとぼ歩くチョビ太。
チョビ太{俺は魂のロックを……}
チョビ太{理解者が必要なんだ}
と、そのときチョビ太の耳に、まれのギターの音が聞こえてくる。
立ち止まり、
チョビ太「……上手い」
チョビ太「アコギにしては響くな……」
と言いつつ耳をすます。
チョビ太「あれ? いや、上手いなんてもんじゃ…」
とうろたえる。
●カットバック
激しくギターを弾くまれ。
●チョビ太の心象風景
胸を撃ちぬかれるチョビ太。ドキューン! みたいな。
●第二音楽室前の廊下。
立ちすくんでいる。
チョビ太「すげえ……」
チョビ太「鳥肌立った」
と汗をたらしながら第二音楽室のドアに近づく。
チョビ太「このギター、誰なんだ?」
そっと覗き込むチョビ太。
第二音楽室の中で、楽しそうに唄っているまれ。
チョビ太「女子だ……?」
副会長とマキミキはチョビ太の眼中にない。
まれ<大勢が立っていたよ 埋葬場所のまわりに
死んで気づいた 愛していたと
大勢が立っていたよ 埋葬場所のまわりに
下ろされた棺に気づいた あのコを愛してたと>
チョビ太「踊りたくなるようなグルーヴなのに、なんか…」
涙ぐむチョビ太。
チョビ太「やべ」
チョビ太「歌詞、英語でよくわかんないけど、泣けてきた」
と目をこする。
チョビ太<学校にこんなすごいコがいたなんて…>
チョビ太<まじで、このギターは、プロとかそういうレベルじゃない……>
チョビ太<なんていうか、魔法みたいな>
チョビ太「!」
ハッとして。
チョビ太「これだ!」
チョビ太「これが俺が求めていた魂を揺さぶるサウンドなんだよ!」
チョビ太「俺が求めている音楽はアレだ!
チョビ太「バンドだ!」
チョビ太「俺はあのコとバンドを組もう!」
チョビ太「その前に──」
と、部室へ走り出す。
●廊下を走るチョビ太。
チョビ太「フォーク&ロック部辞める!」
チョビ太「あんなところにいてもしょうがない!」
チョビ太「まず不退転の決意を示すのだ!」
チョビ太「踏み出せオレ!」
●第二音楽室。
最後のヴァースを副会長が唄う。
副会長<今朝早く手紙が届いた なんて書いてあった?
「急げ急げ あのコが死んだ」
今朝早く手紙が届いた なんて書いてあった?
「急げ急げ あのコが死んだ」>
まれの弾くエンディング。
まれ「ちゃーちゃららららら ちゃりこちんぷい!」
まれ「ふー」
副会長「面白かった」
副会長「まれちゃんのギター、ほんとに好きよ」
マキミキ「思わず踊りだしちゃうね」
まれ「センキュー!」
マキミキ「よっ、悪魔と契約したギタリスト!」
と笑う。
副会長「それ、本当かもね」
とマキミキを見て苦笑い。
まれ「えっ、本当だよ、副会長!」
まれ「わたし、十字路で悪魔にサインしたもん」
マキミキ「おっと、まれちゃんのミラクル発言だ。酔っ払ってたんじゃないのー?」
まれ「え、マキミキちゃん信じてくれてないのっ?」
副会長「飲酒なんて不良だね」
まれ「お酒なんか飲まないよっ」
マキミキ「じゃあ寝ぼけてたか。いつも眠そうだし」
まれ「わたし、ほんとにほんとに…」
副会長「まー、そういうことにしとこうか」
まれ「ううー」
と不満げに。
マキミキ「──それよりほら、次やろうよ」
●部室。
チョビ太「こんちわー!」
と部室のドアを蹴破る勢いで。
ポカンとしてチョビ太を見る先輩たち。
チョビ太「俺、フォーク&ロック部やめます!」
先輩A「……あ、そう」
チョビ太「本音言えば、女に媚びてカラオケバンドやるなんてダセーと思ってました!」
チョビ太「だったらカラオケでいいじゃねえかっつの!」
チョビ太「洋楽よく知らないからってマイナー呼ばわりしてんじゃねえよ!」
チョビ太「聴きもしねえでしたり顔で語るな!」
先輩B「……」
唖然としている。
チョビ太「俺は新たな地平へと旅立ちます!」
と出て行く。
●廊下。
鼻息荒く、爽快感にあふれたチョビ太、ずんずん歩く。
チョビ太「言いたいこと言って辞めてやった!」
チョビ太「俺こそロック! ザ・ロックンロール!」
チョビ太「この勢いで口説くぞ! あのスーパーギタリストを!」
第二音楽室の前まで来て、
チョビ太「あのコ、まだいるかな?」
とドアの窓からまれを見て、
チョビ太「いた!」
マキミキと副会長は眼中にないチョビ太。
●第二音楽室。
マキミキ「副会長リードとりなよ」
副会長「いいよ」
と喋っているとろこに、
チョビ太「失礼しまーす」
(ガラガラガラ)
とドアを開けて入ってくる。
まれ、キョトンとする。
振り返るマキミキと副会長。
チョビ太、まれしか目に入らない様子で、
チョビ太「俺とバンド組もう!」
と、まれの手を握る。
まれ「だ、だれ…?」
と凍りついて途惑う。
(どすっ)
と背後からチョビ太の股間を蹴り上げるマキミキ。
マキミキ「チョビ太!」
マキミキ「なにやってんだよ!」
と両手を腰に当てて仁王立ち。
チョビ太「……ぐぐ、玉木未来」
と倒れて股間を押さえ悶絶しながら見上げる。
チョビ太「なんでお前がここに…」
マキミキ「そりゃこっちのセリフだ」
副会長「知り合い?」
マキミキ「知り合いっていうか……」
マキミキ「こいつは土川小太、ちっさいからチョビ太っていうんだけど」
マキミキ「同じ団地で、同い年だから保育園から小学校、中学校、よりによって高校までずっと同じっていう、なんていうか、そういう腐れ縁的な……」
と歯切れ悪く。
副会長「あー、幼馴染ってやつだ」
とポンと手を叩く。
マキミキ「それ! ヤなんだよね! その「幼馴染」って言い方!」
と顔を真っ赤にして恥ずかしそうに抗議する。
チョビ太「お、オレだって……」
マキミキ「だいたい突然乱入してきて何してくれてんだよ、お前わ!」
マキミキ「見ろ、まれちゃんが怯えてるじゃないか!」
と隅でギターを抱えてうずくまっているまれを指す。
チョビ太「…まれちゃん?」
とまれを見て。
まれ「…奈良本希です」
と恥ずかしそうにうつむいて。
チョビ太「ね、ねえ、奈良本さん、オレとバンド組んでよ!」
と、身体を起こして這い寄って、
チョビ太「オレもギターやってんだけど、君のほうが全然上手いから、だから俺がベースやってさ」
まれ、まっすぐな申し出に目を丸くする。
マキミキ「まれちゃんがお前より上手いのは当たり前なんだよ!」
と、引き離そうと襟首をつかんで引っ張る。
マキミキ「つか、始めて2年かそこらのチョビ太が、まれちゃんのブルーズギターの凄さ本当にわかるのかよー?」
チョビ太「わかるよ!」
マキミキ「ふーん……」
と値踏みする。
チョビ太「な、なんだよ」
チョビ太「つかさ、セッションしてたけど、君らなに? 部活?」
副会長「別に。いつもここで遊んでるだけよ」
マキミキ「ウチらのことはどうでもいーんだよ!」
マキミキ「バンドって、だいたいお前、フォーク&ロック部に入ったんだろ?」
チョビ太「不退転の決意で辞めてきた!」
マキミキ「はあ!?」
チョビ太、まれに向き直って、
チョビ太「オレは君とバンドを組んで、世に打って出る! みんなに君のギターの凄さを知ってもらおうぜ!」
マキミキ「お前、暑苦しいなあ!」
副会長「チョビ…、土川君……だっけ?」
と咳払いして、
副会長「勢い込んでるところに水を差すようで悪いんだけど」
副会長「バンドで世に出るのは無理よ」
副会長「まれちゃんはシャイだから、知らない人や大勢の前に出るとギターが弾けないの」
と、まれに寄り添う。
こくこく、と、まれは頷く。
衝撃!
チョビ太「!?」
チョビ太「うそ…、だ、だって、さっき…」
とうろたえて。
マキミキ「ウチらは親しい友達だからウチらとセッションするのは大丈夫なんだよ」
マキミキ「極度の緊張で、まれちゃん、お前が見てたらギターの弦に触ることもできないよ」
と、まれを庇うように寄り添う。
まれ、チョビ太を上目遣いに様子を見る。
チョビ太「…そ、そんな勿体ない」
副会長「私も初めてまれちゃんのギターの凄さと、人前だと弾けないってことを知ったときは、勿体ないなあ、って思ったけどね……」
とチョビ太に共感して寂しげに頷く。
チョビ太「と、どうしよう」
チョビ太「オレ、辞めるときフォーク&ロック部の先輩たちに言いたいこと言って罵って…」
チョビ太「もう、帰るところがない……」
とションボリする。
とその時、
まれ「やってもいいかも……」
と、まれ、小さい声でボソボソと。
チョビ太「え?」
と、顔を上げる。
まれ「バ、バンド……」
まれ「やれるかどうかわかんないけど……」
まれ「が、がんばってみようかな、とか」
顔を見合わせるマキミキと副会長。
まれ「それに、その子、ブ、ブルーズが必要なんじゃないかな?」
チョビ太「ブルーズ? オレに?」
まれ「だって帰るとこ、ないんでしょ?」
まれ「ブルーズはどうしょうもない状況でも」
まれ「聴いたり唄ったりすれば明るくなって元気が出てくる」
まれ「笑顔を取り戻せる音楽──」
マジメな顔のマキミキ。
まれ「──弱い人とか」
何か思い出している副会長の顔。
まれ「モテない人」
まれ「駄目な人に」
まれ「優しい音楽なんだよ」
まれの優しげな表情。
チョビ太「なんか、オレ──」
チョビ太、泣きそうな顔で。
●校舎の遠景。
夕日が沈み、空を赤く染めている。
チョビ太「──そこまで言われると本当に情けなくなってくるんですけど」
(おわり)
漫画の連載1話は何度書いても難しく、この作品も2004年頃に最初に企画してからいくつものバージョンの1話目を書きました。
チョコは主人公ではなく狂言回しですが、元は全然違うかかわりかたをするもっと嫌で損な役回りの脇役でした。企画が進むに連れ、掲載誌のカラーやかかわる人たちの意見により、まるで変わっていくものです。
キャラの名前はチョコ(チョビ太)以外全く変わらなかったと思います。
インチョーはあだ名はコロコロ変わったけど、高坂陽子って名前はブレなかったです。高坂陽子のキャラ絵は、2002年頃に松竜さんが描いてくれたのが最初でした。
インチョー愛してる。