サーターアンダギーのクオリティ
炊きたてご飯をシャモジでかき混ぜる作業は、かなりの重労働だ。
神田川先輩がうちに遊びに来た時に置いていったダンベルでの腕上げ10回より、はるかにキツイ。
サーターアンダギーはすでに、すみっこパイセン(正確にはパイセンの母と姉、いや、ママとオネーたん)が作ってきてくださったので、準備は必要なかった。
「ねえ、見て見て、長谷部くん」
可愛らしい笑顔を向けてくれるのは、僕の心のアイドル、弓月さん。
弓月さんはそのサーターアンダギーに、チョコペンで顔を描いてくれている。しかも、めちゃくちゃ真剣に、だ。とにかく集中力がすごい。
しかしね。
「ふうふう、1個目が描けたよ」
見るとなかなかのクオリティ。めちゃくちゃ描き込んであって、それはひとつの芸術作品にも見える。ただのサーターアンダギーが、バリ島とかインドネシアとかで売ってるような、民芸工芸品みたいな出来栄えとなっている。
新進気鋭の芸術家アーティスト、ここに降臨、だ。
だが。
この時点で、弓月さんはかなりの集中力を使い果たしていた。HPとしては、10 あるうちの 5。1個目で、5 を使ってしまうとは、体力はあるのに集中力があまりない弓月さんにとって、致命的だったのかも知れない。
ほら、見て。2個目、3個目とクオリティが爆発的に落ちていく。
最後の1個なんかね、え? これって? なんだろう。仁王像? 風神雷神?
慎重に訊いてみる。
「こ、これ、なんの顔だろう、ね」
なにかの仏像か。もしかしたらブッタの化身かも。
「ふう、やっと終わったあ。え、これ? ネコだよ〜 可愛いでしょ? うふふ」
ブブー不正解。ただの野良猫だったようだ。
「あああああ、なるほどぉぅううう、ねねね猫ね。もちろん猫、Cat にしか見えない猫だわこれは猫だ。あっ、もしかしてノラロウかな?」
「え、違うよ。全然、違うんだけど、わからない?」
「のののノラロウじゃないよね。やっぱりそうだと思ったんだ。ノラロウこんな可愛くないもんね。もうちょっとブサイクだもんね」
ノラロウ、すまん。くしゃみでもなんでもやってくれ。
「キ○ィちゃんだよ。ほら、耳にリボンがあるでしょ」
「はああうっっ、もちろんキテ◯ちゃんにしか見えないよ。この赤いの、リボンなんだね。へえええぇぇ」
「そうなの。道端でなんか赤い実がなっていて、これは使えるかもって。ひと枝、拝借して新聞紙にくるんできたー」
えへへー、の笑顔はもちろん可愛いけど、毒の可能性大。あとで密かに処分。
「サーターアンダギーひとつください」
「俺も買う、俺もー」
「ありがとうございますっ!」
弓月さんが売り子をやっているからか、サーターアンダギーだけが飛ぶように売れていく。
ありがたいが白米が一杯も売れないのが、虚しい。また虚しくなっちゃったって話、聞いてもらってるー。るるるー。