神田川先輩を水泳部なんかに取られてたまるか
学祭実行委員のメガネを探し当て、参加用紙を渡す。
「おおぉ、あの時の。先日は馳走になったな。あの松坂牛は最高に美味かった。まあ、君たち読サーには、この僕直々に、良い物件を確保しておいた」
「マジっすか。いや、それはありがたい」
そういうわけで、出店が並ぶメインロードに、テントひと張りのスペースを確保。
しかも、プッチ鍋の偽松坂牛が効いたのか、うちの大学のインスタ映えポイントである、変なオブジェのついた噴水がすぐ正面に見えるという、絶好のビューポイントだ。
これほどまでに談合の効果がてきめんとは。
諸葛孔明にも匹敵するほどの策士と、ホクホクしながらサークル室に戻ったところ、大変なことになっていた。
「長谷部、大変なことになったぞっっ、ぐわあああぁ、はああぁぁうあうあう、どうしよう?」
神田川先輩が、ゼンマイが壊れたブリキのおもちゃように、サークル室をぐわああと、のたうち回っている。
「なんですか、どうしたんですか、このありさまはいったい⁉︎ 」
「それがね、神田川先輩が、水泳部のタコ焼き要員に入れられてしまって、身動きが取れない状態なの」
「え、断るって言ってましたよね?」
「や、俺は断ったんだよ。でもね、俺、大会で優勝しちゃったじゃん? メインボーカルがいないと、バンドは成り立たないって、言われちまったんだ」
「はあ ( ;´Д`) 。なにを言ってるんですかあ。神田川先輩は、我が読書サークル研究会ほにゃらりの最高(経営)責任者、chief executive officer。いわゆるCEOなんですよ」
「え、俺が chief executive officer、いわゆるCEOだって? え? なにそれ、カッコイー」
あとひと押しだな。
「それに水泳の県大会優勝者が、タコ焼きを焼くですって? 水泳部はなんでそんなことを、ヒーローにやらせようとしてるんですか。神田川先輩は、主役ですよ。先輩には、僕ら読サーのテントで、速読の技の凄さを披露していただきたい。それこそ、主役ゴールド級の輝きってなもんですよ」
神田川先輩は、フレミングの法則を模した指を、アゴにフィットさせながら、うむうむと頷いている。
「そうか。そうだな。そう言われると、そんな気がしてきて仕方がない。よし! 水泳部の件は断ることにした。俺は、この読サーのchief executive officer、いわゆるCEOだからな」
これでよし。
あとの問題は、と。
「長谷部くん、私が新聞紙の講座を受け持つのは良いとして、この衣装なんだけど……」
弓月さんが、そっと持ち上げた衣装を見る。
ええ、なんだよこれは‼︎