表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/13

プッチ鍋と談合




学祭実行委員会からの刺客、黒縁丸メガネの、この横柄な態度といったら。


ムカついたので、僕は箸でプッチ鍋の中から、最高級A5ランクの松坂牛をつまみ上げた。



黒縁丸メガネの頬が、ピクリと反応する。


僕はそれを見逃さなかった。追い討ちをかけるように呟いてみる。


「うっわ、うまそー。これが、噂に名高い松坂牛かあ。なるほどねー」


箸でつまんでいる肉を、これ見よがしに舐めるようにして覗き込む。


ごくっと喉が鳴った。確実に仕留めたはずだ。彼のメガネが完全に曇っている。それほど、鍋の側に寄っている、ということだ。



「……良かったら食べます?」


「え、良いの?」


僕は確かにそのメガネの態度には、頭にきていた。だが、敵を懐柔し味方につける、これもまた学祭実行委員会陥落の作戦の一つなのだ。



「どーぞどーぞどーぞ」



今、僕は。



『親切』という皮を被った、人間。いわゆる、おばあちゃんをぺろりと食べ、おばあちゃんに扮して今度は赤ずきんちゃんを狙う、卑怯極まりないオオカミさん、というわけだ。



「そんなの最低だよ‼︎ 長谷部くん‼︎ 最低な人間のすることだよ‼︎ 」



真っ直ぐな瞳を持つ弓月さんなら、こんなにも悪い僕を、そう断罪するだろう。


けれど、今、僕とメガネの2人しかいないわけだから、どんな悪事を働こうが、どうってことないってわけ。(たいした悪事ではない)



僕は心の中で、くつくつと笑いながら、取り分けた肉を手渡した。



メガネは嬉しそうに、舌をぺろぺろしている。



「熱いから、ふーふーして食べてくださいね」と言いながら、割り箸を割って、手渡す。ナイス親切。


「おっ、かたじけない」


メガネは曇ったメガネの存在を忘れたかのように、肉をむさぼり食っている。



(バカめ、この時を手ぐすね引いて待っていたのだ。ひっかかったな‼︎ )



「美味しいですか?」


僕が訊く。


「ああ、めちゃくちゃうまい。これが松坂牛か」



(バカめっっ、それが松坂牛なわけないだろっっ)



どこまでも悪になれる。僕の中に住みついている悪魔の心が、僕の中で着実に、その凶暴さを増し、大きな化け物と化そうとしている。



「これ、良かったら使ってください。途中、味変あじへんできますよ」


柚子胡椒だ。


「ご親切にどうも」



ふはははは、またしても引っかかったなあああぁぁ。


胡麻だれに柚子胡椒が合うわけなかろーもん‼︎ (いや意外と合う)



はははこりゃ傑作だ‼︎

面白いように、人心を操ることができる‼︎


僕ってば、悪の天才かもしれない。そうほくそ笑みながら、僕もプッチ鍋に箸をつけていった。



「ごちそうさま」


「いいえ、どういたしまして」


「まあ、読サーは特別枠として、参加不参加の猶予を一週間、延ばしてあげるよ」


「マジっすか、助かります。じゃ、決まったらまた返事しますね。その時は、よしなに」


「うん、わかった」


そして、帰っていった。これが、談合ってか。料亭で秘密裏に行われるヤツだ。


「それにしても、遠慮なく食いやがったなあ」



僕は、残った汁に白飯を入れると、卵を溶きほぐし、雑炊にして食べた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「ああ、めちゃくちゃうまい。これが松坂牛か」ワロス! そして、雑炊に号泣・゜・(つД`)・゜・ 主人公、やっぱり仕事できるぜよ!
[良い点] なんだかんだいって、力技でねじ込む長谷部くん有能。 松坂さんじゃないのですか。 これから新聞紙がどう活用されるのか楽しみです。 [一言] 何が面白いって、あのシリアスと同時に書いてたのです…
[良い点] 神田川先輩は自由奔放なイメージですが、長谷部くんもなかなかどうして(笑) 一人だと開放感で大胆になるタイプなんですかね? でも悪ぶってますけど、鍋をを分けてあげる普通にいい人(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ