まさかまさかの学祭 ⁉︎
『読サー最初で最後の「学祭」に参加して優勝商品、空気清浄機を狙っていこうってことになったんだけど、弓月さんが意外とカオスだもんだから結局、虚しいを通り越して最大級に虚しくなっちゃったって話、聞いて?』
「さあ、みなの者。秋だ。突然だが、読サー最大の危機が訪れようとしているっ」
突然が突然過ぎて、もう突然感がない。
うちの読書サークル研究会ほにゃらりのサークル長神田川先輩が、またまたご迷惑をお掛けするであろうから先に謝っておくね。
ほんと、すまん。
けれど、今回のこの件については、僕も『読サー最大の危機』と評して、異論はない。
なぜならそれは、『学祭』の季節が近づいているからだ。
僕はこの大学に入って一年未満(1年生)なので、『学祭』における読サーの立ち位置というものは、あまりわかっていない。けれど、どう考えたって危機だってことぐらい、わかるよね⁉︎
白米をこよなく愛し、棒グラフナナナを右手に掲げ、本を読ませるだけならエキスパートな集団、『読書サークル研究会ほにゃらり』だぜ?
本を読むだけのサークルに、いったいなにをやれと?
しかも今年は、大学創立30周年(比較的新しい)ということで、大々的に色々とパワーアップして開催するらしい。
「で、あんたら、なにやるの?」
今。現在。
僕の前で正座している学祭実行委員が、すげー冷めた目っていうか、蔑んだ目で見てくるのよ。
「なにができるの? 本でドミノくらい?」
え、なに、なんでこんな挑戦的なの? この黒縁丸メガネ?
いくら僕が温厚で、ホトケの長谷部で通っているとはいえ、腹たつわ〜。すみっこパイセンの上を軽く超えてきやがった。
僕はもう、それだけで今、サークル室で食っているプッチ鍋(土鍋ひとり用)を、ほーらよ、ほーらよと言いつつ近づけていって、その黒縁丸メガネを完全完璧に曇らせてやりたくなった。
プッチ鍋を食っているっていう時点で、サークル室には僕ひとりしかいないし、僕はいつも読サーがどのような催し物をしているか知らないため、対応できない。
「や、僕じゃなんともお返事できませんから、お引き取りください」
さあプッチ鍋に箸をつけようとして、そのまっすぐな視線に遮られる。
黒縁丸メガネはどうやら、僕のプッチ鍋に興味津々のようだ。
「だが、参加か不参加かを今日中に表明してもらわないと、学祭実行委員会としても困るんだよねえ」
ポン酢か胡麻だれ、どちらなのかを決めなければいけないと。そういうことなのか?
(とは言ってもなあ、学祭=最大の危機、としか聞いてないからなあ)
神田川先輩は昨日、この宣言をしてすぐに、上半身裸の背中に上着をさっと羽織ると、「ナメロウくん、どこ行ったのかなあ」と言いながら、サークル室を抜けていった。
だいたい裸の上に上着を羽織るという行為は、腹が冷えた時と、弓月さんに「神田川先輩、ちゃんとジャージのジッパーを首まで上げてくださいね」と念押しされた時の、二択だ。
その時は、弓月さんは大学の購買に買い物行ってたから、今回は前者ということになる。
まあ、平たく言うと、下痢だ。(平たく)
あと、ナメロウじゃないんだ。ノラロウなんだよ。
テンパるとすぐ間違えるのは、イケメンでスポーツ万能だけど、勉強はできない(C評価から抜け出せないという無限地獄)、神田川先輩の残念な特徴を如実に表している。
「で、参加するの? しないの?」
ムカついたので、僕は箸でプッチ鍋の中から、これ見よがしに最高級A5ランクの松坂牛をつまみ上げた。
✳︎✳︎(^ω^)✳︎✳︎ 登場人物紹介
読書サークル研究会の面々
長谷部 優生 ★ 大学1年生。読サーのマドンナ弓月さんが好き。
弓月 花音 ★ 大学1年生。新聞紙に絶大なる信頼を置く。
神田川 素意成 ★ 大学3年生。読サーの長。スポーツ万能、筋肉バキバキ。
林 先輩 ★ 大学2年生。サークル室のすみっこが好きで、すみっこパイセンと呼ばれている。
ノラロウ ★ サークル室に無断で入ってくる野良猫。弓月チャンLOVE。好物は学食の唐揚げ。