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#終,あの頃に戻れなくても

作者: 南 歌乎

この作品は『付き合ってます(仮)』の最終回に当たる作品です。

 2人から責め立てられる裕。だが彼の答えはもうすでに決まっていた。そしてその想いを伝えるため改めて2人の方を向いた。


 裕がこちらを向いた。その表情は見たとき芽衣はまた改めて自覚した。裕は芽衣を選ぶ気はないのだと。ふと一瞬、裕と目があった。その瞬間裕が視線をそらす。顔に出ていたのだろうか。それとも単純に私のことを選ばないと……。そこまで考えて芽衣は考えることをやめた。芽衣にとってこれはわかっていたことだ。わかっていたことなのに…むしろわかっていたからこそなのだろうか。すでに芽衣は泣くことをこらえるので必死だった。今までしてきたことが、今までの想いが全て意味のないものに感じる。その事実が何より辛かった。そして、いよいよ彼が口を開いた。

「俺は…桃子のことが好きだ!」

ついに言い切られた。私の知ってる裕じゃない。もっと優柔不断でお人好しでそれで…自分で抱え込んで……。そんなことを考えていた。だが目の前にいるのは成長した裕だ。ちゃんと自分の考えを言うことのできる裕だ。良い方向に変わることのできた裕だ。


 ふと気が付くと芽衣は自分の家の前まで来ていた。どうやらあの言葉を言われたその後、無我夢中で走って帰ってきていたようだ。今までこらえていた涙ももうこらえきれなくなって溢れてきていた。もう平然を装うことはできない。このまま家の中に入ろう。そう考える芽衣。

「ただいま…。」

「おかえり…ってどうしたの芽衣?」

「なんでもない。」

芽衣の母親が心配するもそう言い自室へと向かう。扉を開けいつも使っているベッドに倒れ込む。全身の力が一気に抜けていく。それまであまり気にならなかった涙も今までより更に溢れ出ていた。あぁ振られたんだ…。そう思いながら芽衣は今までの裕との思い出を振り返っていった。


 裕と芽衣は物心ついたときからお互いのことを知っていた。芽衣が裕のことを意識し始めたのは小学校に上がってからだった。あの頃から裕は優しかった。特に芽衣には優しくそれがきっかけで芽衣は裕のことが気になり始めていた。そして年月が立つごとにその想いは強くなった。小学校卒業のときには芽衣自身、それが『好き』という気持ちの自覚もあった。中学校に入ってもなおその想いは強くなっていく。家が近かったこともあり登下校の時はいつも一緒だった。高校生になっても、まだ芽衣は裕のことを想い続けている。

 しかし、今この状況下でもう1度考え直す。小学校の時、裕は私には特に優しかった。それは周りの環境が変わって気軽に話すことができる相手が私しかいなかったから。中学校に入ってずっと一緒に登下校をしていた。それは私が初日に裕の登校時間を確認して下校時間は私が勝手に待っていただけだった。高校生になっても裕のことを想い続けている。それは私が今まで勘違いをして無知なだけだから。……私は裕の何を知っていたのだろうか…。



「俺は…桃子のことが好きだ!」

そう言い放った途端芽衣はその場から走り去った。その状況に唖然とする裕だったが桃子の声で我に帰る。

「ねぇ、裕君。裕君自身は日野さんとどうしたいの?」

「俺は……仲直りしたい…。」

「でも元のような普通の幼馴染には戻れないかもよ?」

「それでも…このことは解決したい!」

「そう…わかった。そこまで言うなら協力してあげる。」

「え、いいのか?」

「うん。だって裕君が仲直りしたいって言うなら裕君はそっちのほうが幸せでしょ?だからそのためなら…喜んで…。」

「あ、ありがと。桃子。」

まさかそんな返答になるとは思っていなかった裕は少し拍子抜けな返事をしてしまった。


 次の日から裕は芽衣と仲直りするため積極的にスキンシップをとりにいっていた。しかし、

「あ、芽衣おはよ…う……。」

「…。」

といった具合で裕が芽衣に話しかけようとするが彼女は無視して裕とは目を合わさないように早歩きで立ち去っていく。その様子からあのことが相当ショックなのだと裕も理解していた。その日々が1週間近く続いたある日の夜。裕は正直もう諦めかけていた。ここまでしてもなんの変化もなかった。


 物心ついた頃から裕の思い出には芽衣がいた。小学校に上がって周りの環境が変化し戸惑っていた裕。それを支えていてくれたのが芽衣の存在だった。中学生になり一緒に登下校をしてくれたときには悩みなんかも聞いてくれた。高校生になっても今まで通り相談に乗ってくれたりくだらない会話で盛り上がったりしていた。つい1週間ほど前まで普通だった日常。それが一言で壊れてしまった。他に正しい答えがあったのだろうか。


 その時だった。裕の家のインターホンが鳴った。誰だろうと思っていると裕の母が裕を呼んだ。

「裕、降りてきなさい。芽衣ちゃんが来てるわよ。」

という言葉が聞こえてきた。どういうことだろうか?耳を疑いながらも裕は玄関へと向かった。

「芽衣、どうしたの…?」

「裕……ごめんね。私も仲直りしたい……。」

内容が読み取れない裕。話は数時間前まで遡る。 


 芽衣が自分のベッドに寝転がっていると、芽衣の携帯に連絡が来た。誰からだろうと差出人を見ると『長谷川 桃子』となっている。勿論連絡先を交換したわけではない。誰かに教えてもらったのだろう。しばらくは無視していた芽衣だったがそれでも桃子からの通知は鳴り止まなかった。しびれを切らした芽衣はメッセージ内容を確認する。そこには『話を聞いて』という文字があった。仕方なく『なに?』とメッセージを送る。すると『裕君はあなたと仲直りがしたいって言ってる。』という返信が来た。『私はあの頃みたいに裕と話すことはできない』芽衣はそう返した。『裕君もあの頃には戻れそうにないことはわかってるみたい。でもあの頃に戻れなくても裕君はあなたと仲直りがしたいとそう望んだの。』続けて『あなたは裕君とどうなりたいの?』と送られてきた。元に戻れなくてもそれでも裕は仲直りすることを望んでいる。それは最近の裕の行動を見てもわかることだった。でも芽衣は見てないふりをしていた。単純に傷つきたくないだけなのか…?

「私は…逃げてただけなのかな…?」

そう思い始めるとあとの行動は早かった。

 そして今、裕が目の前にいる。

「急に…どうして?」

芽衣は今までの考え全てを正直に話す。

「裕が私と仲直りしたいっていうのはわかってた。…でも私は見てないふりをしてた……。怖かったの。もう前みたいな関係には戻れない……。でもね、長谷川さんが裕もそのことはわかってるって、私自身はどうしたいのかって言ってくれたから…。」

「桃子が…?」

そういえば桃子も手伝ってくれてるって言っていた。

「うん。だから…謝ろうと思って……。また私と友達してくれる…?」

「芽衣…当たり前だろ…!」


――――――――――――――

――――――――

――――

 数日後、いつもの通学路には裕、桃子、そして芽衣の姿があった。

「それにしてもホントに協力してくれてありがとな、桃子。」

「いや、私は好きな人のために頑張っただけだから。」

そう言いながら桃子は裕と腕を組もうとする。

「あのさ、せめて人前じゃやめてくれないかな?」

そう芽衣が止めに入る。

「いいでしょ?私達は()()()()()()んだから。」

そう桃子が堂々と言う。もう仮じゃないということを強調したいのだろう。

「まぁまぁ2人とも落ち着いて…。」

いがみ合う2人を裕がなだめる。この雰囲気がこの3人にとっての新たな日常になっていた。

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