Ⅷ.秘密
何だこの引っ掛りは。私は胸を押えた。鼓動が速くなっている。
立っているのが辛くなって、傍にあった椅子に腰掛ける。奴はこの老いぼれの末路を嘗める様に見届けると
「失礼します」
と言って出て往った。くすくすという嘲いの声が尾を曳いては押し、波を打つ。この研究室は防音設備がなってない。
私が地球人だからだと!?何を言っている。ならば貴様は地球人でないのか。
其とも地球は貴様が移住した幾番目かの惑星に過ぎないのか!?
―――否、そんな事があって堪るか。
火星人に依る『地球の植民』説は、飽く迄私が娯楽目的に創った仮説だ。現実にそんな事があるはずがない。
―――否、何故根拠も無いのにその様な事がいえるのか。娯楽で有ろうが定説で無かろうが、可能性はゼロとは謂えない。
私は、厖大な数の資料から昔調べた生命の存在可能性を示すものを纏めたファイルを捜し当てた。昔は其こそ趣味でこんな物を集めていたが、火星植民が現実味を帯びてからは嫌気が差して、長い間封印していた。
―――かなり前の資料だから、信用は出来ないが。
『惑星の居住可能性(Planetary habitability)―――火星(Mars)、エウロパ(Europa)・ガニメデ(Ganymede)・カリスト(Callisto)・イオ(Io)(何れもガリレオ衛星)、タイタン(Titan)(土星の衛星)、そして太陽系外惑星グリーゼ581c―――他にも、日本のクラマ寺「尊天」の一人「護法魔王尊」が650万年前、アメリカのモハーヴェ砂漠で1952年「オーソン」たる者が、金星から地球に降り立ち、その体は通常の人間とは異なる元素から成り、年をとる事が無く、相手の心を読む事が出来る特徴を持つ』
その中で、微生物の存在可能性―――地球の後輩に当る可能性が、エウロパ・ガニメデ・カリスト・タイタン。生命の痕跡が在ると思われる―――詰り、地球の先輩惑星と思われるのは火星と金星である。しかし、金星は現実性に乏しい。
何れにしても、あんな奴が他所の惑星から地球の訪問に来ているとは絶対に思いたくない。其だけは事実だった。
「使えねぇ・・・」
リコネッサンス=オービターは溜息を吐いた。
ホテルのチェック‐アウト。チェック‐イン時には二人だったフロントが、今は三人に増えている。
『お客様。きっちり人数分の宿泊料を払って戴きませんと』
二人羽織でさり気無く通行しようとしたが見つかった。サーベイヤーとオポチュニティは舌打ちをする。
「いや、バレるだろ?普通に?」
スタッフ曰く、昨日の時点で気づいていたらしい。オポチュニティの話を聞けば、バレる要素は山程あった。
「・・・アンタ、金は」
オービターは、サーベイヤーにした質問と全く同じ質問を、オポチュニティにした。答えはこうだ。
『はっ!無いです!!』
斯くして、フロントで足止めを喰らった挙句、三人分の宿泊料を彼一人で払う事になったのだった。
ある意味銀行に預けていなくてよかった。
「これから下ろして来ますから」
オポチュニティが恥しそうに苦笑して早くも走り出そうとする。オービターはちょい待ち。と言って彼女のフードを引っ張った。
オポチュニティの首が絞まる。
「なっ・・・何するんですかぁっ!」
「黒髪クンの分の部屋代も払ってくれたら、ホテル関係の借りは全てチャラにして遣るぜ」
オポチュニティはぽかんとした。彼女がサーベイヤーの方を見ると、サーベイヤーはシャッと目を逸らす。
「・・・・・・銀行行きましょう?サーベイヤー」
本気で困った様な顔をするサーベイヤー。彼のその様な表情は初めて見る。オポは食入る様に彼の苦い顔を見つめると、優しく言った。
「・・・・・・お金の下ろし方、教えますよ?」
ぽかんとするサーベイヤー。オービターは思わず吹き出すと、目許に涙を溜めるにまで至り、擦りながらサーベイヤーを後ろ指さした。
「こいつ、口座作ってないのよ」
オポチュニティはみるみる口をあんぐりと開けた。
「えぇーーーーーー!?」
オポチュニティ、サーベイヤーに掴み掛る。
「働かないで口座も無いって、一体どういう料簡ですか!!何処まであなた、箱入りなんです!?」
サーベイヤー、ぎりっと歯を食い縛る。だいぶ感情を抑えてはいたが、なかなか本気でアングリーだった。
「ーーっ!箱入りはどっちだ!!この世間知らず!!」
「何ですって!?其が世話になる人の言う台詞ですか!!」
サーベイヤーの顔つきが変った。オポチュニティはどきりとする。オービターは想定内の出来事かの様に、冷静にまた観察をしていた。
「・・・そんな事、誰が頼んだ・・・・・・!」
オポチュニティにしてみれば、サーベイヤーが何故これほどにも本気になるのかが解らない。以前はもっと簡単にあしらわれていた筈だ。
「リコネスに俺の情報を曝すなと懇願しているのは誰だ!?君だろ、オポチュニティ!!別に俺は、俺の所在を隠してくれともその代りに君がお金を払ってくれとも言ってない!!全ては君の都合だろ!!」
サーベイヤーを犬と認識した心算は無いが、心情的にはまさに飼犬に手を噛まれた様な感じだった。オポチュニティは項垂れる。黙って熾烈な言葉の雨に打たれていた。
サーベイヤーが息を継ぐ。一瞬・本当に一瞬、辛そうな顔をすると、きっとした表情に戻って今度はオービターに言い放った。
「・・・提供すれ(言え)ばいいじゃないか、リコネス。緋色の空なんて知った事じゃ無い・・・たとえ存在が知れたところで・・・・・・自分の身くらい自分で護れる」
「・・・・・・え?」
オポチュニティが顔を上げる。サーベイヤーははっとした。顔色が焦りと後悔に滲む。
「どういう事・・・「解った」
オポチュニティがばっ!とオービターを見る。焦る顔の彼女を見ると、オービターはにやりと嫌な哂いをした。
「自分の分だけ下ろして来いや、嬢ちゃん。黒髪クンは・・・」
「どうする積りですか?」
オポチュニティが、コートから暗器を取り出す。サーベイヤーの前に立ち、暗器の先をオービターに向ける。サーベイヤーは愕いた。
「・・・オポ!ちょっと・・・」
サーベイヤーが慌ててオポチュニティを己の後ろへ回そうとする。オービターは、その光景を愉快そうに見て言った。
「保留にするわ」
え!?二人はびっくりしてオービターに注目した。オービターは相変らず思わせ振りな眼をして、え、嬉しくない?と訊ねる。
「本当ですね・・・?」
オポチュニティが暗器を戻す。視線は彼に当てたまま。暗器を戻して暫く経っても、オービターは何をする事も無く突っ立っている。
「・・・俺は、決して嘘はつかない」
「・・・・・・」
オポチュニティは疑わしげにオービターを見ていたが、やがてサーベイヤーを見、少し恥しげに、寂しげに目を伏せて呟いた。
「・・・御節介すぎましたね。二人にさせても、いいですよね・・・?」
「オポ・・・?」
サーベイヤーがたじろぐ。オポチュニティはひらりとサーベイヤーの背後から二人の前へ出ると、いつもの調子の態度でこう言った。
「じゃあ、お金を下ろして来ます。二人共、仲よくしなくちゃ、ダメですよ♪」
風の様な流れで去るオポチュニティ。
完全に空気が凪いでから、オービターは風の通り道を遠目で見ながらぽつりと言った。
「・・・暗器は、嬢ちゃんから借りたやつか?」
サーベイヤーが暗器をオービターの頸筋に当てていた。オービターは然してうろたえない。寧ろその状況を愉しんでさえいる。
どちらかといえば、うろたえが大きいのはサーベイヤーの方だった。
「慣れてるねぇ。頸椎から外頸動脈にかけてバッサリスライド「君は何者だ」
オービターは振り返ろうとした。だが、暗器を突き立てられる。肉に喰い込むが血は出ない。深さも考えてある。
「・・・ミステリアスなイケメン・カメラマンですが?」
「・・・君も慣れてるな」
「・・・仕事柄、命が狙われる事も多くてね。人質にもなりゃ度胸もつくさ」
「・・・其は、カメラマンとは謂わないんじゃないか?」
「・・・カメラマンにも色々と種類があんだよ」
静止画が続く。話題が本題に入っても、二人は動かない侭だった。逆に、動けばどちらか(恐らく緑の髪の方)が死ぬ事になるで有ろう。
「・・・何の心算だ」
「・・・何が」
サーベイヤーが暗器を握る手に力を加える。だが其は、之以上刃先が深くオービターに刺さるのを必死に喰い止めている様に思えた。現に、彼が力を解放すればオービターの上肢はまひを起す。オービターはその震える拳を他人事の様に眺めていた。
「・・・保留とは」
「あぁ」
オービターには、彼が自分を刺せない事がわかっていた。たとえ手違いでも他人を刺せない。彼は余裕で哂ってみせた。
「アンタからはまだまだ情報を引き出せそうだ」
サーベイヤーが苦虫を噛み潰した様な顔をする。其にしても、とオービターは続けた。
「アンタも意外に短気だな。もっと逃げて、誤魔化して、尻尾を掴ませないかと思った」
「情が移る前に、はっきりしておくべきところははっきりしておきたかったからな」
サーベイヤーが力を緩める。暗器が斜めを向いた。斜め先には―――頸動脈がある。少しスライドした。
「・・・目的は何だ」
「目的?」
オービターは嘲った。オービターから彼の表情は見えない。前下がりの髪がひらひら目に入ったり入らなかったりするのみである。
「自意識過剰なんじゃねぇの?」
オービターの挑発に、サーベイヤーは乗せられる事は無かった。只、自覚はある様で、苦笑した様に口角だけは上げて皮肉を言った。
「自意識過剰で助かる事は有っても、困る事は無い」
「あぁそう」
オービターは流した。
「真実を売る事が、ゴシップ・カメラマン(オレ)の仕事。たとえ誰が悲しもうが、真実を求める奴がいるなら生命を賭けてでも暴き出すのが使命。其で儲けるのも、また当然の事」
「真実を求める者が、悪人だったらどうする―――?」
オービターははっきりと見た。首を動かしてサーベイヤーを視た。
彼の眼を視た時、オービターは漠然とだが、大体全てを把握した。
反射的にサーベイヤーは暗器を手前に引いた。
「真実は正しくて絶対。いいも悪いも無い。カメラマン(こっち)は正しい情報を扱ってんだから、平等に売るのみ。客が善人か悪人かなんて、俺等には関係無いね」
オービターが離れる。サーベイヤーは彼を追う事はしなかった。唯、暗器を持った手をぶら下げて立ち尽す。
「真実は証明してるぜ。働けば金が出る。真実を売れば足許が崩れる事は無い。何せ正しいからな―――・・・そうだな、目的といえば―――真実を求めている奴が結構いそうだ―――そして俺も、情報と金を求めてる―――提供して貰うぜ。色々と、な」
サーベイヤーは諦めた様だった。だが、すぐに気を取り直すと、ぶら提げていた暗器を再びオービターに向けた。
「・・・好きにしろ。でも、オポを捲き込む様な事はしないでくれ。身辺を探る事も。あの子は関係無い」
「嬢ちゃんからは何も情報は引き出せねぇよ。秘密はある様だが、嬢ちゃん自身は何も知らない」
サーベイヤーは驚いた顔をした。素直に敵に感服し、そして暗器を向けたまま質問する。
「・・・・・・どうしてそんな事が判るんだ・・・?」
オービターは、昨夜のホテルでの出来事を想い返していた。自分の射貫く様な視線に対する、サーベイヤーとオポチュニティの反応の違いを―――・・・彼女が秘密を持っている様に思うのは―――勘だ。
「さぁな・・・・・・」
説明するのが面倒で、また大切な商売道具の様な気がしたから、オービターはその勘を、門外不出のものに、今した。
「てーい♪」
オポチュニティがサーベイヤーに飛び付いた。サーベイヤー、ぎくりとする。オポチュニティの短い息が、頻繁に背中に吹き掛る。
「お待たせしました!」
オポチュニティがコスメが入りそうなおしゃれで少し大きめなポーチを、オービターの前に示す。ちょっと待ってくださいねー、と言ってポーチのファスナーに手を掛けると、オービターは彼女の白い手に己が手を重ねた。
「・・・いい」
「?」
「やっぱいいわ。俺も大人げ無かった」
オービターは言いながら、何処か遠くの方を視ている。オポチュニティは戸惑い彼を見上げながら、併しぐいぐいファスナーを引いた。
「・・・いえ、そういう問題では・・・」
「それより、二人で遣り繰りする事を考えろや。もう俺、流石に出せねぇわ」
サーベイヤーとオポチュニティ、顔を見合わせる。
「さて。もう行くかな」
オービターが荷物は拾い上げ、二人に背を向ける。後ろ手に振り、じゃ、と言ってさるいてゆく。
二人は其を暫く見送っていたが
「いや!あれは何気に仲間だった!!」
「待ってくださいーーーっ!!」
と、慌てて引き止めた。
オービターは今迄会話をした事の無い、赤の他人に接する様に
「・・・なに」
とぼそぼそと言う。
「あなた、緋色の空が視えるんでしたよね!!サーベスから聞きました!!」
ゼェゼェハァハァ言うオポチュニティの隣で、サーベイヤーは混乱していた―――あれ?俺脅迫っぽいのされてなかったっけ?なのにバイバイ・・・?
「視えるけど―――」
オービターが、面倒な様な、困惑しているのか、区別の付かない微妙な顔をする。彼の脳裏に、眼科医の言葉が頭をよぎる。
「―――俺、赤が識別できないんだよね」
オポチュニティとサーベイヤーが、彼に釘付になる。オービターはぼりぼりと頭を掻き、物事が勝手に先に進んでゆくのを待っている。
「―――色覚異常とかいうやつ?」
「そうそう、そんな名前」
正解!と指さしてサーベイヤーに笑い掛けるオービター。こう遣って見ると、互いによく知り合った友人同士の様に思えるのだが。
「でも、カセイ谷で君が緋いと言った空は、俺が視ても緋かったよ。君が以前、報道に提供した空も緋かった」
「あ、アレ観たんだー。てかアレだけで俺を特定するて、アンタ等も凄くね?」
「“緋色の空”を視る事が出来る人物はそうそう在ませんからね!」
シキカクイジョウ・・・?と悶々としていたオポチュニティが、急に張り切って捲し立てた。
「研究者業界では情報提供者の事で賑っているはずです。寧ろあなたが狙われてますよ」
オービターが、己の薄い色素の髪を掴んで検めて引っ張って見る。これは、其こそ突然変異で無い限り現れない珍しい体色で有った。
「情報提供者M・R・O、グリーンの髪の色、緋色の空の目撃者・・・その程度の情報、国立航空宇宙局はすぐに手にします―――そして、火星人口が激減する中、その条件に合致する人物はあなた位しかいません」
私は、過去に20~30億人が火星の世界人口であると述べた。併し、話の具合に由り変えようと思う。
この話は、火星の末期について描いた物語りである。火星人全体が危機感を持ち、地球移民まで画策するに至るには、人口の激減は必至であると筆者は考える。具体的数字は出さないが、先に述べた数字の半数辺りが妥当だと思う。其でも軽く10億はいるのだ。皆さんは如何思うだろう。
「確かに・・・・・・」
オービターが、ぱらぱらと髪の毛を落していった。
「でしょ!?だから、私達と一緒に来てくれれば」
「いやだ」
オービターが再び背を向ける。歩こうとして三脚を浮かせるのを、オポチュニティはホッピングに飛び乗る様にして押えつけ
「何でですか!!」
と叫んだ。一気に後ろ体重になり、レイバック‐イナバウアーを披露するオービター。
「俺は、リバティ権を侵害させない」
突飛なものの言い様に、オポチュニティははぁ!?と間抜な声を出した。
「だって俺、黒髪クンと違ってちゃんとした仕事有るもん。一緒に居たら稼げな」
「売ればいいじゃないか」
オービターは振り返った。三脚にしがみついていたオポチュニティにはその背中が邪魔で見えなかったが―――
「売ればいいじゃないか、リコネス―――?」
「・・・・・・・・・」
この雰囲気を作り出しているのがサーベスの方だとしたら―――オポチュニティは毛羽立った。
「・・・解った」
オービターが哂う。オポチュニティにとっては少し怖かったのだが・・・三脚が背中から剥され、彼の眼が真正面に来る。
「サーベスの情報を対価に、少し嬢ちゃんに付き合って遣ろう。だがな、自由は尊重させて貰うぜ」
「どういう事ですか・・・?」
オポチュニティは、髪の色と同じく色素の薄い眼に目を離せぬ侭、吐息と共に言う。放射状に広がる虹彩の色彩が美しい。
「こっちにも仕事が有るんだ。情報収集とかで、独りになりたい時が有んのよ。そん時はプライバシーを尊重して、何も訊かずに見送って欲しいね」
「他人のプライバシーを侵害しておいて、自分のプライバシーを主張する、か。滑稽だな」
サーベイヤーが背後で哂う。オービターは黙って彼の方を視る。ぎらんとタペタムが光を反射する。
三脚から手を離し、サーベイヤーの許へ歩いてゆく。バランスを崩したオポチュニティは、ととっ・・と片脚地面に降り立った。
身長は、姿勢の関係も有るがサーベイヤーの方が若干高く見えた。
「へ~・・・カオの割にズバズバ言うよね、キミ」
「俺はオポの味方だからね」
オポチュニティはどっきりとしてサーベイヤーを見た。嬉しいだなんて絶対に形容しないが、其に似た感情と・・・驚きが、入り雑じる。オービターはくっくっと喉を鳴らした。額に手を当てて哂う。ツボに嵌ったらしい。
「こりゃぁ傑作だ」
オービターが涙目になった顔を上げる。サーベイヤーはそのみっともない顔を見て、呆れた様な笑顔になった。
「??」
オポチュニティが遠くで間伸びした顔をする。二人の関係がよく解らない。しょんぼりして三脚を引き摺って歩く。
その時。
{オポチュニティ・・・オポチュニティ・・・}
「!」
がちゃん!と三脚の倒れる音がした。サーベイヤーとオービターは驚いて三脚の方を見る。
オポチュニティがキョロキョロしている。
「―――・・・?オポ」
「ちょっと待ってください」
オポチュニティがコートの中でがさごそやっている。之でも無い、其でも無い、と水筒やらほっけの干物、ロリポップ‐キャンディという可愛らしい物から、サバイバル‐ナイフという物騒な物まで無限に物が出され、小さな山を作っていった。
「・・・・・・」
オービターが指先で布らしき物を摘む。オポチュニティは恥しそうな顔をしてひったくると、コートに隠しながらリモ‐コンを前に出しぽちっとボタンを押した。
「お二人に、会わせたい人がいるんです!」
大画面が出現する。其はテレビ電話の様に、画面の向う側の声が聞え、また光景が見える物だった。譬えてみるならば、学会のプレゼンテーションで使うスライド‐ショーの巨大スクリーンがテレビ電話になった様な物だ。
心なしか生地の薄い宇宙服を着た女性が振り返る。オポチュニティが明るい声で言った。
「お久し振りです!マーズ=パスファインダー!」