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地球の植民  作者: でうく
第Ⅱ章:『マーシャル』の秘密兵器
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Ⅱ-ⅩⅣ.報復

サン=バジリデは国家刑事警察機構の門をくぐった。


一歩踏み出し、敷地の外。キャリア達の、蚊帳の外。もう自分は、いや、中に居ても自分は、余所者だった。


名残惜しそうに振り返り、門の天辺(てっぺん)を見上げる。門だけでも大きいのに、それ以上に大きな建物がその奥には天辺より上から見えている。

(さようなら、カウンティ警視―――多分もう来ない・・・・・・)

バジリデがカラカラに乾いた赤い土を蹴って歩き出す。この赤い土の塊を伴侶に、マリネリス刑務所への旅路をのんびり歩いていこうと思っていた。と、いっても歩いて戻れる距離では無いが。せめて駅までは。


ドラマみたいに非日常な空間だったな。


メリディアニは都会の町なのに、砂漠化が進んで昔より在る主要機関を除いてどこも撤退してしまった。地球で()うドーナツ化現象がより酷くなったものだと思って頂ければよい。そのドーナツ化現象の真ん中の空洞地帯で、更に逆ドーナツ化現象が起っている。

それは何かというと、ぽつんぽつんと離れた地域に在る主要機関の建物内は人があぶれているが、一歩外に出れば人間は誰も居ない。誰も外に出たがらない。無理も無い事だろう。人肌に最適な、完備されたエア‐コンディショナーのエクメーネから、水は無いわ寒暖の差は激しいわの先の予測が立たないアネクメネに、誰が出たいと思うだろうか。

大して強く蹴ってもいないのに、突然ぴしっと音がして土が割れた。バジリデは思わず足下を凝視した。しゃがみ込む。すると、遠く向う側に広がる仙人掌(アレオーレ)地帯の内一体が、棘を震わせ、もげた。バジリデは目をぱちぱちさせる。

そんなドラマみたいな事があるものか。バジリデは引き寄せられる様に首だけ仙人掌に出来る範囲で近づく。耳が声をキャッチした。


「ドラマみたいな結末だったな」


「!」


仙人掌に気を取られて気づくのに後れた。振り返るまでの零コンマ何秒。リボルバーを回転するには充分な猶予だった。


「マーズ=サン=バジリデ―――」




「観察していたね――?」


カウンティは目線を下に落として、肯定も否定もしなかった。黙っている。パリッシュは苦笑し髭をいじって、画面上の彼女に届くよう顎を突き出して優しく語りかけた。

「いやいや、別に責めてる気は無いんだけどね;いいのかなぁって思ってさぁ」

カウンティが顔色を窺う様に、ちらと上目遣いで此方を見た。

「バジリデくん。君、マリネリスでお世話になったんじゃないの?」

カウンティが空想をしている時と同じに黒眼を上へ向けた。一頻その体勢で固定したら自己完結した様で、何も言わずに正面に向き直した。

「・・・・・・あんまなってないんだね・・・・・・」

珍しく他人に圧されるパリッシュ。ある種、カウンティが最も強いのかも知れない。

「でもさ、君の叔父さんの事だ。スティトちゃん捜しに行く前に、何処に寄るのか分るよね?」

カウンティがまた考える。沈黙が余りに続くと、パリッシュも退屈になってきて、手足をばたばたさせてじれったそうに叫んだ。

「会話の雰囲気から、読み取れない!?それともなに、それはパリッシュのせい!?」

カウンティが真直ぐにパリッシュを見る。パリッシュは怯み、居た堪れなくなって画面から身体を反らした。

「あ・・・あれだよさっき保護したかれ!あ、でも・・・・・・!」

パリッシュが両肘から頭を抱えて苦悶する。足は相変らずばたばたさせた侭。パリッシュは彼女が真実を何処まで知っていて、何処から知らないかを知らなかった。


{「さっき保護をしたかれ」といいますと、グローバル=サーベイヤーの事でしょうか――?}


「へっ?」


珍しく助け舟っぽいのを出されるが、個人名を出されてもパリッシュには判らない。バジリデから言われて判った理由は、ステートに家を破壊され、オポチュニティに仲間入りを強要され、そのうえ共に監獄入りになった哀れにしてか弱き青年だと説明されたからだ。

おじさまには、スティトちゃんの事なら何でもわかる。


「誰それ」


でも、スティトちゃん以外の事はよくわかんない。

{スパイ・オポチュニティの一味です。拘置所代りにしていた部屋から先ほど脱走されました}

パリッシュは半ば聞き流していた。全く、めちゃくちゃ。何がって、何よりボロボロの姪ちゃんの言う事が。だが、すぐ目を見開く。

「待って!ねえそれ、そのかれがボロボロの妨害に勝ったっていうコト!?」

{・・・・・・?}

カウンティの頭の中で、ボロボロ・・・・・・?と混乱が渦巻いているのが見てとれる。パリッシュは地団駄を踏んで

「だーかーらぁ!脱走されそうになったら、普通警察なら止めるでしょ?脱走しようとしたオポチュニティの一味ちゃんを、あなたのおじちゃんは止められなかったっていう事だよね!?」

と畳みかけた。その質問を、カウンティの脳には全神経を一周してから届いた様で、5秒ほど経ってから


{・・・本気ならば止められたでしょうね}


と、結果をはっきりとは言わなかった。パリッシュは煮え切れぬ回答に、首筋がモカモカする。

「君の主観はどうでもいいんだよぉーー姪ちゃん!意外と負けず嫌いだなぁーー」

余りにモカモカする様で、高材質のカーペットの床にかなりのスピードで転がり始めた。だが、本気でやって突破されたにしても、本気になれなかったにしても、あのボロ=マーシャルに多大な影響を与える人物である事に変りはない。


そして、あの剣幕。情報を自分の(あずか)り知らぬところで暴露(バラ)されるのは、マーシャルが最も嫌う事だ。


パリッシュがぴょんっと飛び上がって直立した。

「でね!さっき保護したかれのプライバシーを、バジリデ君がばらしちゃったんだよ!だから、君の叔父さんはバジリデ君が他の人に広めない内に・・・その・・・・察してよーーー;;」

パリッシュが両手で己が両眼を覆った。別に悲しいわけでも言いたくないわけでも無かったが、この娘の将来が心配だ。


カウンティは画面の向う側のパリッシュを覗き込んだ。


{・・・・・・おかしくはありませんか}

「・・・へっ?何が?」

{犯罪者にプライバシーなんて存在しません。寧ろ、早期逮捕の為ならば積極的に情報提供を行なうべきです。それが、パリッシュ=シェリフ長官。あなたの方針であった筈。ボロ=マーシャル局長は、その方針に違えているという事ですね}

「姪ちゃん・・・・・・」

パリッシュは、冷徹すぎるその対応に掛ける言葉を失った。この娘は、叔父では無く、警察法規の方に忠実なのだと知った。それそのものはまあいいのだが。


バン!とデスクを叩く。


「姪ちゃん!先ずは人命云々だよ!叔父さんが昔どんな職業やってたか、君、知ってるでしょ!?」

{ガンマンですが・・・・・・?}

サラリとした言い様に、パリッシュは思わず口を窄めた。拍子抜けしてしまった様である。気を取り直して、デスクに両掌を付け

「ガンマンは流浪人、無法者!ヒトを殺すなんてそんなのお茶の子さいさいなんだよ!・・・だからぁ」

と説明するが、会話の文末に近づくにつれて、段々と声が消え入っていった。




「・・・!」

何処かの門の一歩外に、イタロ・ウェスタンの衣装に身を包んだ大柄な男が立っていた。露呈した顔だけは、際立ってはっきり見える。


「ボロ=マーシャル局長!」


バジリデが驚きの余り声を裏返した。途端に緊張し始める。局長室へ単独で乗り込んでから、彼を見ると勝手にカウンティが脳内で微笑みかける。

振り向いたバジリデを正面から見たマーシャルも一瞬、驚いた顔をしたが、その渋味を効かせた顔は日光を受けた様に目を細め、意味深に(わら)ってみせた。


「何だ、貴様だったのか。ならば、すぐに殺れるな」


マーシャルがマントの奥から手を伸ばし、垣間見えた銃の引鉄を引いた。その実、1.2秒。銃口はバジリデの左胸。


「え」


バジリデは幸せだった。



「 死 ね 」



ドン!

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