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地球の植民  作者: でうく
第Ⅱ章:『マーシャル』の秘密兵器
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Ⅱ-Ⅷ.失態

「―――如何なさいました?」

私の知らないとあるカフェで、アンとあの若僧が飲み交している。私が知らないのに、何故そんな事が私に判るのか?


決っている。私が日記を読んでいるからだ。日記というよりは研究日誌と呼べる物かも知れないが。

アンはその日、打ち合わせの為にとあるカフェで待ち合わせをしていた。何の打ち合わせかは判らない。書いていないからだ。


若僧が少し遅れて到着し、二人で中へ入った。この部分は何故か書いてある。惚気か。

若僧がアメリカンをオーダーし、アンはエスプレッソとチョコレート・ショコラをオーダーした。食事代は若僧が払ってくれたらしい。(それ)で・・・

「・・・バッキーが、学会や会議に出ずに帰って来てしまうのです」

私の名が出て来た。注視してみる。日記なので食い付いて視ても場景などリアルには出てこないが。若僧は特に困った顔もせずに

「ええ。その様ですね。何度目か前に発表中に帰られました」

と言ってコーヒーを啜った。アンは自分の困った顔の遣り場に困ったらしい。

「どうしましょうか・・・」

「御心配は不要です」



【彼はとても頼もしかった。バッキーとは、学会の場でしか話をした事は無いのに、私以上にバッキーの事をよく知っている風だった】



「彼は私とよく似ている―――今は鬱屈としておられるのでしょう。必ず戻って来られますよ。

私も彼も―――科学から逃げる事は出来ないのですから」

「バジリデクンだよ?」

「はぁっ?」

呆気無く出てくる答えに、マーシャルは答えと気づかずつい間抜けな声を出した。脅しの刃物、威厳無し。


「サン=バジリデ君だよ?」


もう一度言うパリッシュ。マーシャルは完全に刃物を下ろし、首を捻って悩み始めた。


「バジリデ・・・?」

「ほら、マリネリス刑務所の。スティトちゃんがキュートに逃げた時の♪」

マーシャルはその時現場に居なかった。カウンティから情報を受けてはいたが。電話を受けた時、彼女の隣に居たのが彼である事に、マーシャルは気がついていない。

「命令をください」と言って逃げ去った、カウンティに片想いの彼である事も、マーシャルは気づいていない。


「直接あなたに報告があったと?」

マーシャルの剣幕にパリッシュがびびる。いやーまぁー・・・なんか通路ではしゃいでた感じかなぁー・・・と適当な事を言って誤魔化した。


「殺ってくる」


サーベルの存在も忘れ、ゴリゴリと拳を鳴らして局長室を出て行こうとするマーシャル。パリッシュは鼻息で髭を巻いて吹き出した。

「ふははは、ははは・・・」

「・・・・・・何です?」

パリッシュは眼鏡を外して涙を拭く。それほどまでに面白かったのだろうか。だが、涙を拭いて顔を上げると

「君も親だねぇ」

と、穏やかな微笑みを浮べた。マーシャルは口の位置で不服さをアピールし

「・・・・・あなたを殺せる奴なんて、誰も()ない」

と言って、サーベルを仕舞(しま)った。

「それは光栄な言葉だ。君からはそんな褒め言葉、滅多に貰えないから有り難く貰っておくよ♪」

パリッシュはご機嫌そうに髭をくるくるさせると、キョロキョロ辺りを見回して、仕切り直す様にマーシャルに言った。


「ねぇ、ところでスティトちゃんは?今日はスティトちゃんに逢いに来たんだよねぇ♪」


マーシャルが局長席に着く。斜めに傾く書類を息を詰めて立て直すと、眉間に皴を寄せて・・・・・・は?と訊き返した。

「スティート、ちゃん♪」

ステートが普段自分に向かってする様に身体をくねらせて更に訊いてくる。マーシャルは頬を引きつらせて恐る恐る言った。


「・・・・・・国家刑事警察機構(ココ)に、居ませんでしたか・・・・・・?」


「?逢ってないねぇ?」


マーシャルは顔全体を強張らせた。若しかして・・・否、じじいにはこの事は言えない。何としても口を噤まねば。


「もしかして・・・・・・追ったとか?不審者を」


早速言い当てられて、滝の様な汗を垂らすマーシャル。パリッシュがふわりとデスクを越えて来て、彼をつんつくつくじった。

「・・・・・・」

「・・・・・・へーい!!」

パリッシュが突然、肘でマーシャルをどつく。見た目と違って全然か弱くない。マーシャルは頭から窓ガラスに突っ込んだ。

「ちょっとぉー!今から追いかけてよ!スティトちゃんに何かあったらどうしてくれるの!!親でしょ、きみぃー」

無言で額を(さす)るマーシャル。(しか)し心の底では、根本的な面からしてステートの方が勝つ様な気がしていた。てかあいつらの親ではないし。

「せっかく悪い様にはしないって言ってるのにさっ!余計な事ばっかりして!もうぅー君なんか、仕留めたマンモスにでも踏まれて死んじゃえ!!」

「マンモスなんてこの時代仕留められませんよ!!仕留めるのはバッファローのみと相場が決っているんです!!」

「君の原始的な狩りに関する持論なんてどうでもいいよ!早くスティトちゃん捜して!!スティトちゃんが無事で済まなかったら君をクビにするからね!!」

本人が勝手に出て行ったのにいつの間にか責任転嫁されている。俺って可哀相・・・とマーシャルは自分に同情した。




『次、顔を見せたら貴様を仕留める。失せろ。二度と俺の前に姿を見せるな』

早速仕留める事になるか―――マーシャルは肩を回した。じゃじゃ馬の部下の行く先くらい、簡単に想像がつく。奴が一緒ならば、(なお)




「・・・・・・さて、と」

主をとっとと追い出して、パリッシュはデスクに飛び乗った。ミルク‐コーヒーを口につけ、まるで我が家に居るかの様なリラックスさでリモ‐コンを手にすると、ピッとボタンを押してテレビ鑑賞を始めた。

「あっはは、あは・・・」

お笑い系の番組か。拍手と笑い声に包まれた音源画面を指さしてけらけら笑う。その割にはピッとボタンを押してチャンネルを変えた。


「姪ちゃん」


パリッシュの口がそう動いた。画面が砂嵐に波打ち、掻き乱れる音が暫くすると、其処にカウンティの像が現れる。すぐさま言った。

「観察していたね――?」

カウンティは目線を下に落として、肯定も否定もしなかった。



「これで、話は解るよね―――?」




砂嵐が酷い。だが、黄砂にも負けない砂埃も被らぬただひたすら真っ白い塔。何色にも染まらぬ高尚さ、そして拒絶が、その塔にはあった。


聖域とも()えそうなその祈念塔を踏み荒す様にリコネスが()く。オポは付いて往かず、畏れ多い様に遠くから叫んだ。

「いいんですか!?勝手に入ってーっ」

リコネスは祈念塔の裏へ回り往く。オポの声に反応して、上半身だけ反らして大声で返した。

「いいんじゃ別にーっ?俺達が造ったモノだしーっ」

俺達が造った!?オポはびっくりして白い巨塔をまた見上げる。絶対に嘘だと思った。

オポは砂嵐の舞わない巨塔を囲む円形πを境界として、その外側を回ってリコネスの(もと)へ来た。彼の居る場所は砂嵐も酷く、境界外の様だった。

「何をしてるんです?」

オポが覗き込む。リコネスは土を掘っていた。何かを捜している風だった。見つからないらしく、掘る幅を広げる。

「あの・・・?」

暫く掘って、リコネスの手が硬いものに触れた。丁寧に砂を掃う。目の前の巨塔の十分の一位の大きさの細長い石が姿を見せた。

石の側面がくっきりと現れるまで溝を掘ると、石のすぐ近くに埋れる砂を深く掘り始めた。オポも手伝う。

「・・・・・ありがと」

ちらとだけオポを見て、ぼそりと礼を言ってすぐに土に目を戻す。オポは急に恥かしくなって、無心に土を掘った。


どれだけ深く掘ったつもりでも、砂がさらさらしているので崩れてなかなか奥まで進まない。立ち上がって砂を遠くに投げるが、その度に空中を踊る砂を全身に浴びる。

「・・・っ!」

リコネスが顔を下に向けて目を強く瞑る。砂が眼に入った様だ。拭おうにも、服の袖に至るまで全身砂塗れで、我慢する他は無かった。

「大丈夫ですか!?」

オポが控えめに顔を上げ、リコネスに問い掛ける。手は止められない。手を止めれば砂がまた崩れ、捜すべきものが埋れてしまう。

「・・・・・だいじょぶ」

風に背を向けて、少しの間立ち尽すと、叉しゃがみ込んで土を掘り始める。


やがて盾状火山を逆さにした風に、なだらかに大きな穴が出来ると―――


「あった―――!」

素直に喜ぶオポとは対照的に、無言で見つけた壺の蓋を開けるリコネス。開けると砂埃が合間を縫って壺の中へ入った。

「あ!」

隣でうるさいオポ。リコネスは()して砂が入っても気にする様子も無く、ひょい、と一本、棒の様な物を壺から出した。

オポがそれを見て、背筋を凍らせた。

「オ・・・オービター・・・」

「・・・・・・なに」

リコネスが棒を持ったままオポを見つめる。オポの眼は棒から離す事が出来なかった。彼の冷静さが信じられない。一般人なのに。


「・・・それ、何だか解ってますか・・・・・・?」


言われるが侭に手に持った棒に目を向ける彼。始終表情を変えず、寧ろオポの言う事を不思議がる様な口振りで言った。


「・・・?解るよ。だって俺が埋めた・・・



「人骨をですか!?」



オポはリコネスの声を遮って叫んだ。少しヒステリックだったかも知れない。落ち着くよう努める。彼も何も言わなかった。

沈黙の中でリコネスは人骨を壺へ戻し、ポケットに詰めたコンパクト‐カメラを紛らせて蓋を閉めた。

「・・・何故、それを・・・・・・?」

オポが声のトーンを幾らか落として訊く。視ているものは視ていた。取材と言って持って来た小さくともカメラマンの命を、何故此処にて()てるのか。

「それは、あなたが取材に必要な物じゃないんですか・・・?」

リコネスは壺の上から土を被せると、脱力した様に両手をブラブラさせて砂を掻く。掠れた声で、顔を上げる事無く疲れた様に呟いた。


「・・・・・・御供え物」

「え・・・?」


オポが思わず聞き返す。いや、嫌なら言わなくていいんですけど;と慌てて付け加えた。情報料を徴収されても困る。

リコネスはヘーゼルの瞳を、髪の間からゆっくりと後ろに這わせた。オポが一人で忙しなくたじろいでいる。

「・・・・・・別に。金取るほど重要な情報でもない」

「なら聴きます!」

急に元気になるオポ。あぁ、そこがネックだったんだ・・・とリコネスは思う。何と現金な。先程は人骨を見て顔を蒼くしていたのに。何だか、話すのがすごく面倒に思えてきた。

「あぁ・・・やっぱ金取ろうかな」

「ならいいです」

サーベスよりよっぽどビジネス向きだ・・・と彼は思った。同時に、二人の間に流れていた妙にしっとりとした空気が消えてゆく。

これはこれで、いい転換の仕方だと、思う。

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