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地球の植民  作者: でうく
第Ⅱ章:『マーシャル』の秘密兵器
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Ⅱ-Ⅹ.サヴァンの旧都・サバ人湾

「兄さん・・・!!」

サン=バジリデ、おいおいとくどきたてて泣かるる。


未だ食堂にいる主人公。しかしそろそろ、決着がつきそうだった。


サーベスは黒い横髪をくるくるしながら、黒っぽい眼でバジリデを見る。

リコネス似の彼女も、ぐすぐす言いながらメモを取っている。


「俺っ・・・どうしたらいいか・・・っ!!」


食堂が静まり返る。おばちゃんは聴いているだろうか。もしかすると、この事実を知っていたからお残し禁止にしたのかも知れない。

「・・・これからきちんと、食べる様にする事。それしか手は無いだろうね」

「ルルバラ様ぁ・・・っ!!」

ウメボシに向かって強く呼び掛けるバジリデ。だが、当然返事は無い。しゅんとする彼の肩を、サーベスは強く揺すった。

「大丈夫だよサンさん。人間は過ちを犯して成長する生き物だって、神さまはちゃんと知ってる。これから食べる様にすれば、ルルバラ様の怒りも治まるよ」

優しく話し掛ける。何処の宗派の教祖であろうか。周囲(というが4,5人)の温かな視線が、つみびとバジリデに注がれる。


「頑張って!」

「私達がついているわ!」


声援を浴びせ掛ける女性達。二人を除いて食堂には女性しか居ない事は、どうか気にしないで欲しい。もはや調理の人達しかいないのではと突っ込まないで欲しい。

「みんな・・・・・・」

バジリデが民衆の声援に応え、立ち上がる。振り返って見れば、民衆は数人しか居ない。だがその声は、100人の雑談に優るとも劣らなかった。つい、涙が出そうになった。

「みんな・・・・ありがとーーっ!!」

サーベスが、うんうんと頷きながらウメボシの手配をする。彼が食べ易い様に、ウメボシの周りに別の食べ物を巻いて。

「兄さん・・・・!」

盛大な拍手に包まれて、ゆうしゃバジリデは再び椅子に座った。向い合うと、じゅうしゃサーベスが丁寧に両手で小皿を渡した。


そこでバジリデは気づく。


「兄さんも、支那竹(メンマ)食べたんだね!」

サーベス側にあったメンマの皿が空っぽである。どんどん無邪気になってくるバジリデに、サーベスは苦笑しつつ言った。

「サンさんが、ちゃんと食べるって言ったからね。負けてられないと思って」

おぉ~! サーベスに黄色いエールが行き渡る。バジリデも感動して、手が痛くなるほど沢山の力強い拍手を彼に贈った。

「さぁ、次は君の番だ!」

サーベスがカッコよくポーズを決め、真直ぐに伸ばした人さし指で、何気にウメボシの小皿を前に押し出す。意を決して覗き込んだ。


バジリデは更に気づく。


「兄さん・・・コレは・・・・・・」

「ん?」

サーベスが有無を言わさぬ笑みで返してくる。それでもバジリデは頑張って胸を張った・・・大体、悪いのは俺じゃなくてあっちだ。

ひかえめに、小皿を指す。



「梅干に支那竹って、合わない様な・・・」



サーベスが急に立ち上がる。椅子がガタリと音を立て、行儀わろし!!と泡つきの庖丁が飛んでくる。くねって尻ごみするバジリデ。サーベスが小皿を掴み、中の食べ物を箸で突き刺す。作法に反す!!とおばちゃん乱入。愕きで口を半開きにするバジリデ。


サーベスがウメボシのメンマ巻きをバジリデの口にダンク!毎度あり!!とおばちゃん仏の笑顔。卒倒するバジリデ。


「ひ・・・他人(ひと)に喰わへるのは・・・・いいんれふか・・・・・・」

それが、彼の最期の言葉だった。マーズ=サン=バジリデ・享年25。嫌なモノは他人に押し付ける。警察訓練よりリアルでシビア・・・バジリデの勝負はココで終りだったが、サーベスの勝負はココからだった。


ごちそうさま、と言って去ろうとすると、武器は庖丁しか無いだろうという位に庖丁ばかりが飛んで来て、食堂の壁という壁を蟻の巣状に開けた。それも、一瞬の所行。


「御勘定まだだよーーー!!!」


ココらへんのサーベスは面白くない。慣れた調子で庖丁と庖丁の間を潜り抜けていくと、何故か出口の方では無く穴だらけのガラス窓に向かった。其処にはリコネス似の彼女が居る。彼女は色気を意識した、上擦った声で叫んだ。


「此処に!此処にMARTY STUが居るわー!」

「マーティーじゃ無いサーベスだ」


どこかで聞いたことのある様な台詞を言って疾走すると、彼女が取っていたメモを掠め取る。


「あ!」


口角をイジワルく上げて微笑うと、誇らしげにそのメモを口許(くちもと)に当て、テーブルの上へ片脚跳びする。しゃがんで彼女に視線を合せた。

「口外されたら困るから、このメモは回収させて貰うよ。お詫びにコレを」

きれいに紙に包まれた、直角の美しい黄土色の角柱。彼女は受け取った。飛んで来る庖丁が、二人の仲を引き裂く。また窓が割れた。

「行儀わろし!!」

「・・・・・・・・・じゃ;」

流石に命の危険を感じ、彼女に手を振り髭眼鏡を掛け、別れを告げるサーベス。


窓を抜ける庖丁について、ガラスを突き破る!



バリーン!



「きゃー!!」

女性客の悲鳴。だがその後に、ありがちなてんか~い!とか、だけど現実には有り得な~い!とか、カレ多分血だらけよ~!とか、やけにリアルなコメントが続く。黄色い悲鳴を上げても全く可愛さを感じられない。

片や、リコネス似の彼女は可愛らしくもドキドキした顔つきで封を開け、角柱の正体を視る。

直角の美しい黄土色の・・・

メンマ。

「・・・・・・」

しかも2本。そういえば、ランチのラーメンにメンマは3本載っていた。

「・・・・・・血だらけになればいい」

彼女はサーベスの厚意を握り潰した。




こちらグローバル=サーベイヤー。5階の食堂から、只今落下中である。

何故食堂が5階に存在するのかは(あえ)て触れない事として、火星は地球と較べて重力が弱く、空気抵抗も強くない。()って、結構上の階から落下してはいるが、速度は地球の(それ)と較べるとゆっくりとしたものである。だからここで彼が死んで物語が打ち切りとか、そのオチは無いので心配は無用だ・・・・・・お望みならするが。

だが、そうはならないが彼はやはり後悔していた。何をって、あのガラス窓から飛び降りて逃げた事をである。

「・・・・・・あーーっ」

サーベスは服の袖で額をごしごしとさせた。行為の後の袖は、白から紅へ。

彼は彼女の願い通り、血だらけ・・・と迄はいかないがそれなりに痛い目に遭っていた。腕に突き刺さった細かいガラスを抜きながら思う。

(ファンタジーのくせに何で妙なトコでリアルかなぁ・・・この小説)

セーターに血が滲む。腕をだらんと下ろしたら、指先を血が伝って自身より早く墜ちて往った。腕を再び上げ、サーベスは叉も思う。

(・・・感覚が鈍ったか・・・)

地上が近づく。砂色の地面の見える面積が大きくなる。そして金色の面積も増える。


「・・・・・・え?」


金色がくるっと振り返った。碧眼。碧眼は愕くがそののちげらげらと大笑いを上げてその場からなかなか動こうとしない。サーベスは叫んだ。


「シェリフさん!どいて!!」


やはり落下する側の軌道変更は火星でも無理らしい。でも、地上に立つ方は何mでも避ける事が出来ただろうに・・・何故しなかった。そして、何故笑う?

サーベスは髭眼鏡を外した。

そう、髭眼鏡を。


シェリフは目を見開いた。

「わああぁぁっ!!」

どさっ!


・・・この後、ありがちな展開になったのかどうかはご想像にお任せする。




「くろかみ・・・・くろめ・・・・・・?」

オポは不安そうに開いた眼を一層大きくした。

「サー・・・ベスじゃないですか」

リコネスはオポを見ない。何も言わず、廃墟の更に向う側へと進んでゆく。オポは慌てて彼を追った。

「待ってください!リコネッサンス=オービター!!」

オポが走って追い着き、リコネスの腕を両手で掴んで引き留める。彼の首筋を見上げて叫んだ。

「じゃあ、サーベスは絶滅したサバ人の末裔だっていうんですか!?それをあなたは知っていたと!?」

「・・・・・・は?」

・・・・・・かなりの間を置いて、リコネスは逆に驚いた様に言った。

「サーベス、サバ人なの?」

え、と今度はオポが驚く。みるみる顔から不安げな要素が消えてゆく。彼の腕を強く引張り、いつもある強気な表情で訊き返した。

「だって、黒髪・黒眼っていったらそうじゃないですか!しかもあなた、妙に意味ありげに言いますし!」

「黒髪・黒眼は別にサバ人だけの特徴じゃない。それこそ亡命したとかいうアルギュレ平原の民族も黒髪・黒眼だし」

オポは顔が紅くなった。何であのひとのコトばかりイシキしてるの・・・!


「それなら、サーベスよりランダー(学者サン)の方が気になる」

「え・・・?」


リコネスが珍しく自分の考察を述べる。やはりいつものリコネスではない・・・だが非常に重要である事はオポにも解る。耳を傾けた。


「ランダーも黒髪・黒眼・・・」

「加えて、身体に宿る母斑(ブルー・スポット)・・・・・・黒髪・黒眼の民族の中でも、母斑を持つ民族はサバ人だけ。ランダーがリスカしてた時、腕に蒼い大きな母斑があった様に視えたのは気のせい?」

あ・・・オポはホスピタルへ潜入した時の事を思い出した。その時は、単に血管が浮き出ているのかと思ったが。

リコネスは叉、暫く黙る。そして、先程はあれほどせかせかと歩いていたのに、その行動が徒に思える位、その場から動かなかった。この街だけで無く、遂にリコネスの時間まで止ってしまったのかと思った。オポは焦って彼の身体を揺らす。

「オービター・・・?オービター!」

「・・・あれ?サーベスにも母斑てあんの?俺、あいつの肌なんて見たコト無いわ。見たくもないし」

・・・知らない。そういえば、顔以外・・・と謂っていい程全身をすっぽり蔽っている。オポはブランコの様にゆらゆら揺れ続けるリコネスを網膜に映しながら思った。

「・・・・・・見てみたいわー」

実に際どい発言をするオポに、リコネスは背筋をゾクリと伸ばす。心からのサーベスへの同情、標的が自分で無かった事に安心した。

「あぁー・・・・ヘンタイが此処に・・・」

「ヘンタイとは何ですか!!」

オポは顔をまっかっかぁーにして、廃墟のニヒルな雰囲気を引き裂く様な大きな声で言い訳をした。

「しょうが無いじゃないですか!!私はもうすぐ齢15の乙女ですよ!思春期なんです!だから少~し位口走っちゃったっていいじゃないですか!!」

「思春期ネタでそんな偉そうになれるなんて乙女じゃねぇよ・・・」

リコネスがゲンナリする。思い出した様に重い一歩を踏み出すと、またサクサクと廃墟の奥へと歩き始めた。オポが走って付いてゆく。

「でも、それならもう此処にはサバ人は居ませんよね。なら、一体何の取材で・・・?」

「別に、サバ人に用がある訳じゃない」

リコネスは無機質な声で言った。だが、ツッコんで貰えた為か先程よりはオポも心配していない。ただ、首を傾げて

「では何を・・・?」

とリコネスに訊いた。

リコネスが振り返る。オポは息を呑んだ。何と無く、眼が潤んでいる様に感じられたからだ。

リコネスは廃墟を越えた遠くに見える、ぽつんと建った白い塔を指さした。

「・・・・・・アレ」

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