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地球の植民  作者: でうく
第Ⅱ章:『マーシャル』の秘密兵器
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Ⅱ-Ⅸ.アリンの爪と砂嵐

かれは想っていた。我々を取り巻く環境総てが、そっくり其の侭他の処でも続けばいいと。

こう()って、破壊され滅するのならば、そして其で終りなのであれば、何故神は我々を創造したのか。


かれにはかれなりの根拠が有って、正義が有った。別に責める事では無い。

我々は生きるべきだ。かれは強くそう想った。我々だけでは無い。我々と共に生きる(もの)総てだ。


かれは科学者では無かった。偉大なる哲学者であった。かれには、何かを創造するという技術は持ち得なかったし、先ず数学や物理学といった数式的な学問が理解できなかった。

(それ)に、科学者といえば法則が只理解できただけで神になった心算(つもり)でいる。只実験に成功しただけで、神を演じる・少なくとも演じようとする・或いは自ら神にならんと欲する。

我々は我々だ。神に創られた身で、神に取って代ろうとしてはならない。

何かを創造するという考えさえ烏滸がましい。だが、我々は神に創られた身。神の被造物である以上、神の作品である以上、壊れてはならないのだ。

我々は生き残らねばならない。其の為ならば科学者をも使う。全ては我が神の為。

かれがこの職に就いた理由は、まさに此処にあった。人間の脳など、少しの揺さ振りで幾らでもコントロールが利く。



―――――さあ,始めようか―――――



髪の長い、如何にも科学に酔っていそうな男。かれは先ず、其を仕留める事にした。

其は意外にも、音を上げるのが早かった。元々、生活が生活だったのだろう。栄養は不足気味で、睡眠も殆ど摂っていなかった様だ。その主要素が二つ欠けただけでも、人間というものは情緒不安定に陥り易い。

其は手を打たずとも最初から、統合失調症の気はあった。そのうえ、科学者は慨して頭がいいので、刻印づけ(インプリンティング)が非常に有効だ。忘れる事も得意ではない。其は脳に混乱を生み、頭を抱え天井に向かって大声を張り上げる姿が散見された。


この侭では狂ってしまう。狂わせる事が目的では無いのだが、出てくる言葉は了承では無く「嫌だ」とか「出せ」だという否定的なものばかりだった。もう半ば狂っているのに、感情だけは侵されない。治療者としてはそこが厄介で、また危険でもあり、何度か本気で突き飛ばしたり、殴ったりした事もあった。そうしなければ、こちらの命が危ない。


外に出す事が、一番の治療法と思える時もあった。だが、強く反対する者がいた。其は彼の身内とも()えるべき存在であり、彼を此処へ送り込んだ者だった。

併し其が近頃になって解禁された。この言葉を聞いて、私は素直に彼を癒せる存在が外に現れたのだと嬉しく思うが、科学者と哲学者の脳のつくりは違う。どういったニュアンスでこの言葉を遣い、外へ出る事を許可したのか、何通りもの答えは用意できても、正確な答えを私が選ぶ事は出来ない。

若しかしたら、私の用意したもので無い答えを、あちらは“創造”しているのかも知れない。


哲学に答えは無い。何通りもの答えを自らが用意するのみである。私の仕事も、結果から過程を遡る事しか出来ない。

答えを出すのは科学者の仕事だ。過程を経て、たった一つの答えを自ら見つける。そして必ず答えは在る。万国共通の答えが。



適材適所。だから私は彼を求めた。



だから、解禁された時は素直に嬉しかった。また、新たな人材が見つかる。




「うわ・・・ひどい砂嵐」

オポはフードとベールで完全防備し、飛ばされそうになりながらも風に逆らって頑張って歩く。リコネスは上空を指さした。

「でも・・・空は晴れてるよね」

「え・・・」

オポはベールを纏った黒い顔をリコネスに向けた。でも簡単に、その下に潜む表情の想像はつく。

()えないんだ」

リコネスは然して表情や声を変える事無く坦々と言う。まるで視力がいいか悪いかの、些細な違いであるかの様に。

「青いよ。上空の方砂が舞ってないのはわかる?」

「それはわかりますけど・・・」

不安げな声を出すオポ。リコネスははっとした顔をして

「あ。もうすぐ止むわ」

と、表情の割にとてもテンションの低い声で呟いた。表情が変るさまを見てフライングするオポ。声を聞いて気抜けする。だが

「・・・帰りは引っ掛るかもなぁ・・・」

と、少しトーンを落して言ったのを、彼女は聞き逃さなかった。オポは首を傾げて、リコネスのシャツを引っ張った。

「ヘラス地域に用があったんじゃ無いんですか?」


突如、ゴオォォという強い風が吹き、オポの声はリコネスには届かなかった。


「何て!?」

リコネスが叫ぶ。オポの口にベールの布が風圧を掛ける。風が止むまで、オポはお喋りはしない事にした。

「!!」

黄色い砂が突き上げて、銀色の太陽を目指し登竜す。風力に因ってオポの身体が宙に浮くのを、リコネスは間一髪で引き摺り下ろした。


黄色い粉塵を抜けると其処は『アリンの爪』であった。夜の底が黄色く輝く。リコネスとオポは立ち尽した。


「此処は・・・・!?」

オポがフードとベールを取り、特徴あるその容姿を露す。遠くに見える土地は知らないはずなのに、模様には何故か見憶えがあった。

其処はマリネリス峡谷よりも細長い一本道だが、典型的な砂漠地帯だった。


リコネスがアリンの爪に向かって、サクサクと音を立てただ一心に前へ進む。勝手を知らないオポは、小走りで付いて行く他無かった。


やがて、まるでバミューダ・トライアングルにでも遭い、その残骸の様な解体された航空機の部品や、30年ほど前に造られたものであろう旅客機や戦闘機が、全く変らない状態で置いてある地域へ出た。

オポは不気味に思った。だって、此処へ来るまで誰とも顔を合わせていない。

思えば、リコネス・・・とも・・・


リコネスは何も言わず、サクサクと奥へ突き進んでゆく。オポは怖いと思う気持ちを噛み殺しながら、やっとの事で彼に質問をした。

「あの・・・これ・・・撮影、しないんですか・・・?その、ポケットの中にあるカメラで・・・」

オポは違和を感じていた。いつものリコネスならば、いいネタだなどと言って、不躾に写真を撮ったり、観察をしたりするであろう。だが、今回は写真どころか散乱する部品を見向きさえしない。場所に()っては大切な部品(情報源)を踏みつけようともする。

「あ・・・あの・・・・・・?リコネッサンス=オービター・・・?」

「コレはあんまいいネタになんない」

冷酷な程にぶっきらぼうな声が、オポの胸に響く。その声はこの旅客機と同じ様にがらんどうで、坦々と言えば言うほどよく響いた。オポは胸を押えた。


バミューダ・トライアングルを抜けると、次はゴーストタウンだった。刻の全て止ってしまった、廃墟だらけの街。鉄筋コンクリートの縁がぶら下がり、今にも二人に直下して来ん危さだ。

生温い、黄砂の雑じった風がゆっくりと吹く。併し上空の風は強く、螺旋階段の踊場に数年間乗っかった侭の小石が、コロコロと転がり階段を下る。その小石が段と段を踏み外し、風に吹かれて宙を舞い、重さに耐えられなくなって地面に投げ出された時、オポもそのねっとりとした雰囲気に耐えられなくなった。


「リコネッサンス=オービター!」

オポの張り裂ける様な大声に、リコネスは珍しくびく!と肩を震わせた。


「・・・なに・・・・・・」

「此処は何処ですか!?」

何故か偉そうに、両手を腰に当てて顔を突き出すオポ。リコネスは(ようや)く普段のリコネスらしい表情に戻り、リコネスらしく先ず訊いた。

「・・・来た事無いの?」

オポが力強く大きく(うなず)く。

「此処はヘラスの戦争地帯じゃ無いんですか!?」

「ヘラスならもう越えたよ」

リコネスが淡々と答える。彼のバックに廃墟が立ち、彼らしい表情や言動が、叉も消えてゆく。

「此処はサビウス―――サバ人湾。エトルリアに拠って滅ぼされた、かつてサバ人の住んでいた地域」

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