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地球の植民  作者: でうく
第Ⅱ章:『マーシャル』の秘密兵器
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Ⅱ-Ⅱ.敗者の科学者・ポーラー=ランダー

「・・・サーベス、置いて来てよかったのでしょうか・・・?」


人面岩を尻に敷いて、オポは湯の入ったカップをゆらゆらと揺らしながら言った。

男はほっけの頭と尾を親指と人さし指で持って、珍しそうに見ている。

リコネスは自分の掌を見つめていた。

「・・・いい悪いってか、ムリ。あいつ重いもん」

リコネスは指を折り曲げ拳を作った。もう一方の手でほっけを掴む。

「えっ!本当に重いんですか!?」

その様な事柄ですら喰いついてくるオポ。それが自分と同じ情報収集なのか、其とも単に興味が有るだけなのかは、さすがのリコネスでも知るところでは無かった。

オポが再び目を伏せる。しゅんとした顔をして、口を窄めて小さな声で呟いた。


「・・・・・・どうしたのでしょうか・・・・・・」

「・・・・・・」


リコネス、ほっけをそのまま口に入れると、串だけスーッと引き抜く。もぐもぐと言わせながら、だが視線はオポの方をきちんと視ていた。

オポは体育座りの立てた膝に、顔を埋める。

ほっけに飽きた男は心配そうな顔をして、オポの所へ寄って来た。頭を撫でてくれる。

「ランダー・・・」

「嬢ちゃん、先ず自己紹介しようや。嬢ちゃんもだろうが、そちらさん(ランダー)だって不安だろ」

オポはきょとんとした。リコネスから「不安」という言葉が出てくるとは思いもしなかったからだ。そんな単語は彼の辞書には無いと。

だからまた少し安心した。笑って気分を盛り上げてみせる。

「・・・そうですね。初めまして、マーズ=ポーラー=ランダー。私はコード‐ネームオポチュニティ。あなたの御友人のマーズ=パスファインダーより依頼を受けて“緋色(ひしょく)の空”の目撃者を只今集めております。パスファインダーは現在地球探査を行なっていますが最終的には火星に帰還した彼女の元へ“緋色の空”の目撃者を送り届けるのが私の役目です」


ポーラー=ランダーと呼ばれた男が目を大きく見開く。


リコネスは2匹め、オポの分のほっけを口に含みながら、彼の変化を観察している。リコネスの見解では、少なくとも彼は今の長台詞は理解している様に思えた。


「本当は、あなたの御世話になるつもりは無かったんですが、昨日、アキダリア平原でプラズマが発生した事は御存知ですよね?あの現象に依り、火星は多大なダメージを受け―――」




【どちらにしろ、応急処置をしなければなりません――サビウス国立研究所に勤めていた私の知り合いが、現在シドニア地方にいます。彼の元へ向かってください。彼ならば今のこの状況を打開できる筈―――】




ランダーの身体がガクガク震える。


元々血の気の無い顔が、恐怖でひきつり益々血の気が引いてゆく。



「お願いします!火星のこれからの為にも、私達に協力してください!!」



「い・・・嫌、だ・・・・・・!!」



ランダーがオポを見て恐がる。

ヨロヨロと抜けそうな腰を持ち上げると、歩行も侭ならなかった脚に鞭打って逃げ出した。


「!どうしたんですか!?待ってください!!」


オポが愕いて彼を追おうとする。走れば容易に彼に追い着く事が出来るが、リコネスにコートの裾を引っ張られ止められた。

「リコネッサンス=オービター・・・」

「逃してやんな。そちらさんにも事情が有んのよ」

「でも・・・!」

リコネスはコートの裾をぎっと握りしめ更に引く。オポはリコネスと正面で向い合った。

「サーベスの件に関してもそうだけど、アンタ、ちょっと強引すぎんじゃない?アンタに足並合わせる事で、皆何かしら失うもんが有ったりすんのよ。幾ら火星の危機でもね」

オポにはそれが理解できない様子だった。納得のいかない顔で

「・・・でも、火星が亡びてしまったら、失うものなんて基も子も・・・・・」

「それでもよ。墓まで持って入るってコトバがあるっしょ?似た様なもんよ」

オポはコートの下で、己が手をきつく握りしめた。

「墓まで持って入るのは、個人の自由ですから構いません。でも、そんな・・・一人一人の事情ばかり尊重しては、関係の無い大勢の人達まで理不尽な末路に付き合わせる事になります」

「・・・・ごもっとも」

リコネスは素直に同意した。肯定されるとは思わなかったから、オポは意外そうに目を見開く。口に咥えていた串を抜いて、リコネスは後ろへ(ほう)り投げた。

「・・・・・・でも、本人達も望んでこっちに回った訳じゃ無いと思うけどね・・・・・・」

串は風に吹かれて水平に飛んでゆき、刺さるという本来の役目を果す事無く、遠い地面をぎこちなく転がって、やがて、止まった。




はぁっ・・・はぁっ、はぁ・・・っ・・・・男は力の限りに走った。併し其でも、一般人と較べると著しく遅く、すぐに息を切らしてへたり込んでしまう。

―――・・・冗談じゃない。男は胸を押えてうずくまる。あの頃に、戻りたくなんてない。自分をあの頃に引き戻す者がいる。

常に囁かれた。協力しろと。そうすれば此処から出して()ると。

併しそうすれば―――結果は見えている。有能な科学者ゆえに、彼は一時の快楽の為に全体に目を瞑る事が出来なかった。

あの女は常に怖いと思っていた。敵に回さない様にしようと、常に神経を張り巡らせていた。其でも、敵対する事は必然だったのだ。彼と彼女とでは、目的とするものが根本から違っていたのだ。この分野は、彼の譲れない分野でもあった。

やがて如何(どう)しても避けられない衝突が起きた。ザ・ブルー・マーブルが撮影された時期からか。

彼女が地球に魅入られて、彼は非常な危機感を覚えた。彼女が有人探査機に乗り込むと聞いて、彼はすぐに反対した。彼女は、国立航空宇宙局で重要なポストに就いているという訳では無かったが、最も国立航空宇宙局に染まった思想を持っていた。其こそ、上官よりも深く染み込んだ、偏った思想を。

女はある種のカリスマを以て、男を地に堕とした。併し今度は自ら捨てたものを拾うと云う。次は私を使って何をしようと云うのか。そして少女は知っているのだろうか。あの女が何をしようとしているのか―――

男は嗚咽を漏らした。




片や、国家刑事警察機構。ボロ=マーシャルが鑑識の如く毛布を捲って、包れていた予期せぬモノに一瞬、片眉を上げる。

「―――ほう・・・」

だが其は、不愉快なモノでは無い様で、顎をもう片方の手で摩ると、フム・・・と興味深げに頷いた。

「之は叉――懐かしいモノを拾ったものだな、カウンティ」

彼の背後に、カウンティ=マーシャルが控えている。カウンティは相変らずの無表情・無機質な声で、事務的な手続を淡々と行なった。

「・・・これで、スパイ・オポチュニティを(おび)き出しますか」

「―――そうか。憶えていないか。お前は」

マーシャルは乾いた声でそう呟くと、その呟きを気にも留めないカウンティの質問に答える事にした。

「・・・いや、いい。此奴は人質にしても役立たず―――いや」

マーシャルは笑みを浮べる。慄いている様にも見えた。毛布をたわみをつけて持ち上げ、勢いよく剥す。引き剥された毛布が部屋の反対側まで飛行し、落ちた。カウンティがもぞもぞと毛布から這い出て来る。

「人質こそが此奴にとって、役不足かも知れないな」

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