Ⅰ.サーベイヤーとオポチュニティ
――われわれは一体、何処から来たのだろうか
――われわれは一体、どうやって生れて来たのだろうか
――われわれは一体、何故生れて来たのだろうか
―ワレワレハイッタイ、コレカラドコヘイクノダロウカ―
地 球 の 植 民
宇宙移民、とりわけ火星の植民が頻繁に話題に挙がる中、私は一人ぶすっとして、何一つ発言をしなかった。
地球人はもう諦めている。やれ環境問題だ、エネルギー問題だ等と騒いではいるが、誰も己の生活習慣について改めようなどとはしない。科学技術の進歩により、人類の他惑星への移住が可能となりつつある現代、人々は地球さえも使い棄ててしまおうとしていた。
冗談じゃない。私は地球を愛している。宇宙船地球号と言って手を取り合ったあの日は、何処へ消えたのか。
『フラーレン先生は旧いですからねぇ。それは30年前に言われていた事ですよ』
うるさい、若僧。70数年生きてきて、これだけは判る。最新の考えが正しい訳じゃない。昔の人間は、自分が生き延びれる為にと少々利己的な考えに転換し始めてはいたものの、地球を守ろうというキャッチ‐コピーを掲げて頑張っていた。
『歳を取るとね、皆言うんですよ。昔はよかったーって』
思い出すだけでも腹が立つ。私はフライド‐エッグを頬張りながら本日の講義に必要な資料を眺めていると、妻のアンがキッチンから声を掛けてきた。
「バッキー、ドリンクは何を飲みますか?」
「ホット‐ミルク」
私は一言そう答えると、資料に没頭した。今回のテーマは・・・『火星、生命を育む運河(Mars, Canal cherishes a life)』・・・くだらない。私はトーストに手を伸ばすと、もさもさとビーバーの如くそれを食べた。水分が少ないので喉を通り難い。
私は食べ終るのが早い。いつもドリンクは食後になってしまう。今日も叉、食べ終って一服しつつ資料を読んでいると、テーブルにホット‐ミルクが置かれた。
「待たせてごめんなさい。はい、どうぞ」
「うむ」
我ながら小想も無い返事だと思う。アンの顔すら見ない。だがそれは、私がアンの顔を見る事が出来ないからだった。
アンは私が研究者となってすぐの頃から共に連れ添って来た、最愛の妻である。アンの美しさは式を挙げた時から変っていない、というのは私が親バカならぬ夫バカだからであろうか。その時から私はアンの顔を直視できないでいた。
元々無口、世渡りも下手な私が研究者としてここまで頑張れたのも、アンの癒しがあってこそだと自覚している。
(火星そのものには興味があるのだが・・・)
移住計画が気に入らない。火星と名の付くものは、今やイコール移住が世間の一般認識であった。
(人間も薄っぺらくなってきたものだな・・・「バッキー」
己の思想に酔っていたら、ふと現実に引き戻された。アンが驚いた顔をして、キッチンから此方を見ている。
「もう講義へ行かなければならない時間ではないのですか?バッキー」
アンの締めた蛇口から、水の滴る音がする。あ、そうだ。火星には、大量の水が存在していたとか――
「バッキー?」
火星について、急に調べたくなった。
火星―――太陽系の、太陽に近い順から4番目の惑星である。地球型惑星に分類され、地球の外側の軌道を公転している。太陽系惑星の中で唯一、微惑星の衝突を経ずして現在の大きさになったものと云われる。
火星人の地球に対する意識は、研究者の中では高まっていたが、一般人には火星と同時期に生れた星としての知識しか無かった。
と、想像されている。
「やっぱ多すぎたかなぁ・・・」
チャプチャプと音がし、両のバケツから水が零れ落ちる。青年はふぅ、と息をついて腰を下ろした。
「・・・・・・重っ」
服の袖で、額の汗を拭う。両手を後ろの地面に着けて身体を反らし、遠くにそびえ立つ山を見つめた。
「高いなー。オリンポス山」
てか暑っ! 青年は一人うるさく騒いで寝転がった。否応無しに空が目に飛び込んでくる。
わかり切った事ではあろうが、皆さん。空は何色だろうか?恐らく『青』という認識は皆さんにあると思う。いやいや、青とは限らないと言う方もいるで有ろうが、理論としてそう言っても、見え方としては変らないだろう。何故当り前の事を訊く時がヒトにはあるのか?それは当り前が覆される時があるからである。
青年はびっくりして起き上がった。空を見、続いて腕時計を見、そして再び空を見た。
「・・・っ今、夕方じゃないよなぁ・・・」
青年の顔が引きつる。ただいま午後2時30分。快晴で太陽はプロミネンスが見えん勢いで照りつけている。だが
「空が赤い・・・・・・」
火星は現在、赤く見える。何故ならば地表に大量の酸化鉄が含まれているからである。しかし誕生時から赤かったかというと――そうでもなくはないか――もしかしたら火星には大昔、海があって、大気もあって、酸素だって存在していたかも知れない。地球の外側を公転しているので気温は違うであろうが、実は現在の地球と似通った環境だったのではないか――そう考えると面白くはないか――私は娯楽追求でそう解釈してみた。移住して、火星を第二の地球にしようとする輩よりはましだろう。
3時。青年がテレビをつけると、早くも赤い空の報道がなされていた。
「おー早っ。もうかよ」
青年が水のたっぷり入ったバケツを、どんとテーブルに置いた。勢いで水が零れる。
「ちょっと!あなた水をムダにし過ぎ!!今水不足深刻なのに!」
「おわっ!?」
バンッ!とドアを開けられ、突如招いてもいない客に家に押し入られ、びっくりする青年。
急いでテーブルを拭く変った客。木製のテーブルは生きた植物のように零れた水をぐんぐん吸い取っていき、殆ど拭き取ることはできなかった。
「もったいない・・・まだまだ取り返せたのに」
客は雑巾のような布をバケツの上で絞る。何をしてくれるこの不法侵入者。バケツの中の水全てが飲み水に使えなくなったではないか。
「あなた・・・“赤い空”の光景に居合わせた者ですね」
えらく決め付けたような態度だ。その割に素顔は見せない。分厚いコートにフードまでもれなく付いており、体格さえも判らない。
「ん?ああ。まだ夕方でもないのに赤だったな。てかピンク。何か不気味だよなぁ」
そんなナリの如何にも怪しげの来訪者なのに、気にもならず早くも寛いでいる青年。ソファに横たわるようにして凭れかかって、ん、と口に入れていた煎餅を吐き出して言った。
いや別に吐きまでして急いで答えなくても・・・と、青年のよだれ塗れの煎餅を見て不憫に思う客。青年は再び煎餅を大口に入れると、はぐはぐと口を動かした。
「へは、このほひなんはははふへ?」
「何て言っているのか判らないんですケド・・・」
口に全部押し込んだ煎餅を吐き出そうとする青年。来訪者は慌てて両手を突き出し、ぶんぶんと左右に振った。
「いや!食べてからでいいから!!」
青年が、ぐ・・・と呑み込もうとした。呑んだ・・・?と客が聞き耳を立てるが、青年は一向に話し出す気配が無い。
「・・・・・・どうしたの?」
客が心配になって青年の顔を覗き込むと、青年は急に真蒼になって、空を掴もうと客の顔のすぐ横から両手をニュッと伸ばした。
「え?え?「み・・・・ふ・・・・・・」
水!客はかなり焦っていた。テーブルの上のバケツをひったくるようにして取り上げると、窒息している青年に向かってぶっかけた。
「・・・・・・・・・・」
青年はゲホゲホと咳き込み止らなかった。
「ねー。ごめんてばぁーー」
客が貌に見合わぬ猫撫で声を出して青年を宥める。しかし青年は、ソファに座って腕と脚を組んだまま、ずっと黙っている。
「んもっ!危ない食べ物なのね、コレっ!」
日本(Japan)にありそうな木で作られた渋めの菓子箱から煎餅を出し、めっ!と両手で握って平面側と向き合って叱る来訪者。青年は、そっち!?とツッコミを入れると、物珍しそうに煎餅を見る客に話し掛けた。
「ん?知らない?煎餅」
「はい・・・こんな堅いの初めて見ました・・・・・元々こちらの人間では無いので・・・・」
一体何処から来たんだか・・・と少々呆れ気味の青年。客も恥らいがあるのか、段々と声が小さくなってゆく。だが、客が然して気にする程、青年も無知を気にするタイプでは無かった。
この頃の火星には海が存在し、直径は地球の半分ほど、表面積は地球の約4分の1、 質量は約10分の1に過ぎない。現在、海は地球上の地表の70%を占めるので、火星にこれを当てはめると生命は地球の半分以下、つまり現在66億人いる世界人口の半分以下、20~30億人が火星の世界人口と考えられる。しかし実際は大きな気候の変動から、それより減少していたのではないか。
と、いう訳で、地球と較べて人も少ないが土地は更に少ないので、伝聞もし易く例えば己が地域で煎餅を食べる風習が無くても、情報として煎餅を食べる地域がある事は知っておくべき、という地球にも通ずるマナーが、この狭い火星では色濃くあったのだと仮定しよう。気の優しい青年がこんなきつく思うのも、ある種仕方が無いといえよう。
「あげるよ。記念に何枚か」
青年が言うと、客は子供のように飛び跳ねて喜んだ。胸にぎゅっと抱きしめて、満面の笑みで礼を言う。
「ありがとうございます!ありがとう!」
「あっ、そんなに強く持つと・・・」
バリバリバリと音を立てて煎餅は粉々に砕け、客の手に欠片も残る事無く床に散ばった。
「・・・・・・・・・・」
「こっち来るの初めてだって?タルシス火山群は見て来た?」
青年が緑茶を客に渡しながら声を掛ける。客はありがとう、と受け取った後
「え、ええ・・・」
ぎこちない返事をした。
「きれいだったろう。特に、世界一高いオリンポス山!自然の雄大さを感じるね」
頬を染めてオリンポス山を語る。客は緑茶も初めて見るようで、青年が飲むまで口を付けようとはしなかった。
青年が口を潤す。客も緑茶の緑を穴が開くほど見つめて、恐る恐る飲んだ。
「でも何年か前撮った写真と比べて、赤っぽくなってる気がするんだよなー」
―――!客の眼の色が変る。急に変る客の雰囲気に、青年は「?」と怪訝そうな顔をしてフードに隠れた眼を見ようとした。
「―熱っ!」
「だっ、大丈夫!?熱い茶だって事も知らなかった!?」
青年が慌ててコップに入れた氷を持って来る。客は氷をモゴモゴさせて唇を押えながら言った。
「ほれへふ!」
「は!?」
客は突如フードを取り、まだ幼さの残る少女の顔を露出させた。
「私はコード‐ネームオポチュニティ!国立航空宇宙局の情報を盗むスパイです!!」
「俺はマーズ=グローバル=サーベイヤー!この家で一人暮しをしています!!」
「一人暮し!?」
オポチュニティが驚く。サーベイヤーの顔をまじまじと見ると、首を竦めて恐る恐る訊いた。
「あの・・・失礼ですがお幾つで・・・「22デス」
オポチュニティは瞳孔も口もいっぱいに開くと、思わず感嘆の声を上げた。
「幼・・・「ホンットマナー知らないね、キミ・・・」
優しい優しいサーベイヤーの優しい設定が、脆くも崩れようとしている。懲りずに叉も煎餅に手を伸ばし、ソファに腰掛けた。
「ちょっ・・・何で座るんです!!」
ソファにはオポチュニティが座っている。サーベイヤーはオポチュニティの隣に座るという形となったのだった。そりゃあドキドキ。
「ソファが1つしか無いから仕方無いだろ?俺だって座りたい!」
オポチュニティは顔を紅くして緑茶をブクブクいわせた。サーベイヤーはオポチュニティの赤みがかった長い髪を見つめて言った。
「で、小さな小さなスパイさんが、僕に一体何の用かなー?」
子供に話し掛けるような幼稚な喋り方。オポチュニティは甘く見られていると思い、ムキになって言い返した。
「小さくなんか無いです!私ももう15。歴とした職人ですよ!!」
「へぇーすごいな。15っていったら俺は引きこもってたよ」
これには素直に感服するサーベイヤー。ん?とオポチュニティの顔を見直す。グリーンの眼。思い出すあのテレビ映像。
「――!キミ、もしかして――」
『ストロベリー‐ブロンドに森色の瞳のまるで童話に出てくるような女の子。珍しいのはその髪と眼の色だけではありませんでした』
「『メリディアニのEOS学院を12歳で卒業した天才少女』――」
イメージの中で、当時のニュース‐キャスターが原稿を読む。サーベイヤーは想い返す。サーベイヤーとキャスターの声が重なった。
「『マーズ=エクスプロレーション=ローバー』――!!」
バレた―――!!それだけでもうオポチュニティはパニックである。
「EOSを卒業して国立航空宇宙局とはね。ホント、絵に描いたような・・・「国立航空宇宙局じゃありません!!」
オポチュニティが両手を突っ張って否定した。声が大きい。
「国立航空宇宙局の情報を盗む“スパイ”です!!」
「・・・・・そんなコト、大声で公言しちゃって、いいの?」
あッ、とオポチュニティは取り乱し、泣きそうな顔をしてサーベイヤーを睨む。何か言いたげだ。
「え、何、俺のせい?」
サーベイヤーはいよいよ面倒になってきた。
「で、ローバーちゃん。何?」
「その名で呼ばないでくださいー!バレるー!」
半分ヒステリックのローバー。オポチュニティはひっくひっくとしながらも、ようやく己の目的について語り始めた。
「現在、国立航空宇宙局で頻繁に話題になっている事柄があります。それは・・・」
ガタ、と音がし、突如家の戸が蹴破られた。同時に硝煙を撒かれ、一気に何も見えなくなる。
「待ちな!スパイ・オポチュニティ!抵抗すれば撃つ!!」
この気配・・・・ざっと10人は居るか。メガホンを使った女性の声が、嫌に大きく響く。
「あたしは国家刑事警察機構のマーズ=ステート=シェリフ!!今日こそ貴様を逮捕するーー!!」
国立航空宇宙局の次は国家刑事警察機構。己の日常とは無縁の単語が次々と出て来る。サーベイヤーは直感した。
「こっちです!」
世界、いや火星規模で何か大きな計画が興っている、と―――
手を引かれてタルシス高地に上り、白い煙の立ち込める我が家を見下ろす。ステート=シェリフが脚を広げ、銃を構える。
「其処までだ」
意外にも追手は来るのが早く、いつの間にやら囲まれて、背中には雄大な青い空。詰りは何も無い、崖だという事。
「早いなー。あーあ」
「フッフフ・・・お偉いさんから拝借して、盗撮にも使う最新式赤外線装置を使わせて貰ったのさ。貴様等の行動なんてお見通しだよ!」
せっかちにも遊底をいっぱいに引いている。あれは確か、ハイスタンダード‐ソユーズ。非力な者は引金を引く事すら出来ないという使い手をかなり選ぶ拳銃。
「さぁ、選びな!あたしに逮捕されるか、それとも、崖に墜ちて死ぬか――尤も、スパイ・オポチュニティともあろう者に、捕まるという選択肢は無いだろうけどねぇ・・・?」
「最早“死ね”と言ってるようなものですよね・・・」
ぎすぎすするオポチュニティ。サーベイヤーは自分の肩ほどの身長も無い少女を背後から包み、湿っぽい声で、急に告白をした。
「・・・・・・死のうか」
「・・・え?」
ステート=シェリフが引鉄を引く。サーベイヤーがオポチュニティの前面に出て彼女を庇う。銃弾に撃ち貫かれる前に飛び降りて、2つの魂は大空に散った。
ガラガラと崩れる小さな音と、風の吹き荒ぶ音だけが聞える。他は誰も、何も音を立てず、張り詰めた空気のみ凪がれた。
「・・・フッ。崖から墜ちて、生きてはいまい」
フラグ通りの台詞を言って、ステート=シェリフが崖を覗くと、彼等の姿は跡形も無い。崩れた大きな岩が後を追うようにして墜ちていった。
「さすが地元の方ですね。正直私、飛び降りて大丈夫なのか、迷ってたんです」
サーベイヤーの腕の中で、オポチュニティが恥しそうに頬を染めている。顔を埋める辺り、己の世間知らずには自覚が有る模様。
「そうですよね。峡谷ですから飛び降りても、水がクッションの役割を果してくれるんでしたよね・・・」
「・・・・・・え?」
サーベイヤーは言葉に詰った。と共に、心の中では何年前の情報!?と密かにツッコんでいる。溜息をつくと叉も説明役に回った。
「マリネリス峡谷はね。こんなに大きな峡谷だから、昔は確かに海並みに沢山の水が流れていたんだけど、近年は水不足でこの峡谷もちょろちょろとしか流れないんだよ」
え、とオポチュニティはサーベイヤーを見る。なお、猛スピードで落下する中で会話が成立しているのは、火星が地球と較べて重力が弱いので空気抵抗も強くなく、よって風が邪魔をしないので聞き取れるというあくまで都合のよい仮説である。
「・・・・じゃあ、このままだと死にます?」
「おぉ、死ぬ死ぬ」
何だか楽しそう。オポチュニティは極々自然に事態を受け入れると、サーベイヤーの顎をアッパーした。あうっと悲鳴のサーベイヤー。
「何て事をしてくれるんですか!!」
更に我が身からサーベイヤーを引っぺがす。ぎゃっと潰れた音のするサーベイヤー。オポチュニティのコートがひらひら広がる。
サーベイヤーは気が付いた。
「そのコート・・・もっと広げて」
「え・・・?」
「ボタン外して!」
オポチュニティは顔を真赤にして、広げるどころかコートで身を隠す。泣きそうな顔をしてサーベイヤーを睨んだ。
「あなたがそんな人だとは思いませんでした!」
「どんな想像してるの?キミ・・・・・・」
サーベイヤーが頬をポリポリ掻きながら言う。彼は己のボタンを外すと、オポチュニティの眼前でばっ!と服を脱いだ。
「ななな、なんて事を・・・・・・!!」
オポチュニティが指で顔を隠して口をぱくぱくさせる。しかし指と指の間隔は広く、怖いモノ見たさで薄目は開いていた。
「下にもう1枚着てるんだよ。残念だねぇ、むっつりすけべさん」
本当だ。タートル‐ネックで首筋さえ見えない。サーベイヤーは上着を広げて空気を含み、四端を結んでパラシュート風にした。
「年々、身体が軽くなっていっているから、上手く着地できるかも知れない」
「え?」
極めて現実派に見える理性的な顔から、ファンタジーじみた台詞が出てくる。同じく現実派のオポチュニティは、咄嗟にはその意味を理解できなかった。
地上が近付く。スピードが落ちる様には思えない。
「・・・んもぅ!」
一か八か、オポチュニティは彼の真似をしてみる事にした。コートを脱いで、四端を結ぶ。でもスピードは、緩む気配が無い。
(やっぱりーーっ)
激突する!サーベイヤーもオポチュニティも歯を食い縛った。只、オポチュニティは見た。サーベイヤーの身体が一瞬宙で止り、衝撃を和らげてから着地したのを。
(之は・・・パラシュート(コート)の作用なの―――!?)
死ぬ――!ぎゅっと目を瞑るオポチュニティ。しかし、自分も浮いているかのようにふわりと着地した。
「―――え?」
オポチュニティが目を開けて、下を見上を見びっくりす。下を見ると宙ぶらりんで、上を見るとサーベイヤーの顔が近くに在る。サーベイヤーがキャッチし、叉も包んで助けてくれた。
赤い空を目撃し、重力を計算して火星に護られる者―――間違い無い。オポチュニティは確信した。
「グローバル=サーベイヤー!!」
「はい!?」
彼女を下ろし、上着の結び目を解いている時呼ばれたフル‐ネーム。オポチュニティはずずずいっとサーベイヤーにくっつくと、小さな背を更に小さくして叫んだ。
「お願いします!!」
「―――――」
「私に、協力してください!!」