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名もなき怪鳥  作者: くるねこ
3/8

出会いは中央から北へ

  出会いは中央から北へ



 新幹線に大きな荷物も持たずに一人制服を着た女子高生が乗っている。


それはとても目立つ事で何度も駅員に止められた。


「引っ越しなんです。親は先に行っていて、私は部活に行っていたから一人なんです。」

「そう、気を付けるんだよ。」


家出少女に見えるのは仕方がない。


今までも何度か聞かれたこともあった。

その時のために嘘は用意している。


 前髪で目を隠すようにして新幹線で仮眠を取る。

電車に乗継、目的地は海側だときいている。


 電車からさらに電車に乗り換え神小路村へ向かう道中、窓の外はどんどんと雪深くなっていった。

強化プラスチックの窓から見える少し歪んだ風景は小さなトンネルをくぐる。


その瞬間強い耳鳴りがした。


トンネルの為仕方がないがスピードを落とせばいいものを、間もなく旧悪食村というテロップがドアの上に流れる。




 小さな駅に来たもののそこは学生が多く利用していた。


「部活休みになったけどどうする?」

「あたしの家来なよ。」


そんな話をしているのが耳に入る。


 駅前は商店街が栄えていて村とは思えない空間。


「翼ちゃん」


突然名前を呼ばれる。


「こっちだよ。」


周りの人間が遠目で見る私を真っ直ぐ見つめる四十代ぐらいの男性。


「荷物はそれだけかい?」

「あ、はい…」


「私は神小路聡(さとし)と言います。宜しく。」

「宜しくお願いします。」


と、話しているところに


 「あら、先生。どうしたのその子?」


近所の人だろうか。

目の前の人を先生と呼び、近づいてきた。


「この子は悪食翼ちゃん。今日からウチに来る子です。」

「悪食…って巫女様が戻ってこられたのね!」


巫女様とは何だろうか。

話しかけてきた女性の声が大きかったせいか、

初老の男女が私をどんどん囲んでいく。


「何かあったら何でもいうんだよ。」

「みんな、貴方の事を待っていたのよ。」

「めでたい。役場で宴会だ!」


おかしなところに着てしまったようだった。




 雪降り積もる中、聡さんの車に揺られること十分。

大きな西洋風の建物に着いた。


「ここがこれから私たちと住む家だよ。マリ子はもうすぐ戻ってくるから」


そう話す聡さんの携帯が鳴る。


 「私だ。……分かったすぐ行く。」


電話を切ると


「すまない。急患は入ったんだ。病院に戻らないと、マリ子が帰って来るまで部屋で待っていてくれ、君の部屋は二階の東廊下の奥だから」


そう言って車に乗り込むと颯爽と走って行った。


「鍵は?」


と、呟くも田舎は大抵鍵が掛かっていない。

この家もその様でドアノブを回すと簡単に開いた。


 中は西洋建築と言った感じで細かい装飾がいたるところに施されていた。

その中に日本建築が混ざった様な大正ロマンの雰囲気のある建物だった。


 「二階の東廊下?」


エントランスの様に広い吹き抜けを見上げると方位磁石の様なステンドグラスが合った。


「こっちか」


階段を上がり右に進む。

この家は南玄関の様だ。


 廊下の奥という事だったが左右に部屋がある。

この場合両方開けて確かめる。

と、いう事をしなくてはいけない。

でも、両方開けてみるも


「どっちも同じ部屋…」


だった。


 「翼ちゃんは南向きの部屋よ。ごめんなさいね。まだ、お片付け終わってないの。」


マリ子さんが帰宅したようだった。


「いえ、お構いなく」

「そんなこと言わないで、翼ちゃんは何色が好き?」


何処からその話に発展するのだろうか。

と、考えつつ


「赤が好きです。紫とか青も」

「分かったわ。付いて来て」


私が使うという部屋の隣の部屋に入った。


 「その恰好じゃ寒いでしょ。これを着て行きましょう。」


確かに、雪積もる所を制服で、

しかもセーター等は着ないで、

ローファーで動き回るのには限界がある。

すでに足元濡れている。


「あらあら、大変。暖かい服に着替えましょうか。」


マリ子さんに数着の服とブーツを渡される。

ハイカラな柄ではあるがそれはコートで隠れてしまうから気にしない。


 この家は車が二台あるようでマリ子さんの車に乗り込んだ。


「この村はね。数十年前まで地主さんの名前で悪食村って名前だったの。今は村長に聡さんが付いて、病院の名前もあるから神小路村に名前が変わったのよ。その地主って言うのが翼ちゃんの曽お祖父さんね。」


「え?」


つまり、ここは昔、私の先祖の村だったという事だ。


「でも、なんで巫女様なんですか?」

「どこで聞いたの?」


マリ子さんは少し困った顔をしていた。


「駅前で聡さんと話ていた時に村の人に言われました。」

「そう、悪食の娘は特別でね。昔、今のあたしたちの世代より上の人には浸透しているこの村の文化よ。」


特別な娘。


それは今の私には関係のない事だ。


でも、


「だから、私を養子にしたんですか?」


つまりはそういう話に繋がるのではないだろうか。


「違うわ。あたしは貴女のお母さんとは親友だったの。それで、子供にもしもの事があったらって話をされていたのよ。」


嘘の様な本当の様な。


いつからだろうか。


人を信じる事を止めてしまった。


 駅前の商店街に戻ってきた。

そこで若い女性向けの服屋に入った。


「おや、先生じゃないの。どうしたのその子?」

「今日からうちの子になるのよ。それで、洋服が欲しいの。可愛い物出してもらえる?」


そう言えば自分の財布の中にいくら入っていただろうか。


 マリ子さんがどんどん服を進めてくる。


「翼ちゃんは黒も似合うわね。」

「モデルさんみたいな体系だから何でも着れるわね。」


と、お店の人と話しながらレジをどんどん通って行く。


「あ、お金…」

「いいのよ。これは家に来てくれたお祝い。次のお店行きましょう。」


楽しそうなマリ子さんだ。


 その後、服屋をもう二件、靴屋や鞄屋、布団屋にも寄った。

車の後部座席は荷物でいっぱいだ。


「聡さん急患だって言ってたけど大丈夫かしら?」


そう言って携帯を耳にあてる。


「お二人とも医者なんですか?」

「聡さんはね。あたしは学校の先生よ。」


それでみんな二人の事を先生と呼んでいたのか。


 電話に聡さんが出たようで話を始める。


「そう、駅前に居るの。今日は外食にしましょうか。」


と、いう話をしているようだった。


 電話は終わり車が動き出す。


「レストランで良いかしら?」

「はい。」


村にレストランがある事が意外であった。

村とはもっと過疎的な地区のことを言うものだと思っていた。

ここは下手すると地方の中心地と並ぶ劣らずの街並みをしている。


 レストランに入ると繁盛しているようでほぼ満席のようだった。

因みに今日は土曜日だ。


「三人なんだけど開いているかしら?」

「こちらへどうぞ」


若い女性の店員と目が合う。

すると驚かれた顔をされる。


「若い子や村の外には浸透していないの。」


先ほどの巫女の話だろう。


 席に案内されてしばらく聡さんがやってきた。


「買い物をしてきたのかい?」

「そうなの。ついはしゃいじゃって買い過ぎちゃったかもしれないわ。」

「翼ちゃんは若いし、あって困るものでもないだろう。」


聡さんとマリ子さんは仲がいい。

こういう夫婦の元に来たのはいつ以来だろうか。

仲がいい夫婦が養子に取ってくれた場合、罪悪感から養子縁組を解消できずに数か月面倒を見てくれる。

だが、最終的には壊れてしまう。


 「あの、養子の話なんですけど…」


話をしているところに突然話しかけてしまった。


「どうかした?」

「養子には入れないでください。」


そう言うと凄く残念そうな顔をされた。


「そんなこと言わずに、しばらく考えてくれないか。私たちには子供がいないんだ。」

「今まで、そう言って養子にしてくれた人は沢山いました。でも、みんな私が壊してしまうんです。だから」

「大丈夫。」


マリ子さんが私の手をつかんでいう。


「大丈夫よ。あたしたちは翼ちゃんを捨てたりしないわ。」

「でも、今までの人達の事は聞いているんですよね。なら、」

「全部、翼ちゃんのせいではない事を私たちは知っている。何があっても私たちが守るから、養子の話はしばらく先でもいいの、考えて頂戴。」


話はここで切り上げられた。

注文した料理が運ばれてきて静かな夕食となった。






 日曜日、


「今日は家の中を案内するわ。」


昨日のうちにお風呂場とトイレ、リビング等、一階にある物は聞いていたが、二階より上は解らない。


この家は土足で生活するようで靴も部屋から履き一階に降りた。


「一階にはキッチンがあって、地下倉庫への階段があるのだけど、長年使っていなくてね。鍵がなくなっているの。危ないから近寄らないようにね。」


地下への階段の前から玄関に戻る。すると


「郵便です。」


と、まるでシベリアにでも行くような服装の郵便配達員が来た。


「ご苦労様。お茶飲んでいく?」

「ありがとうございます。」


歳はマリ子さんと変わらないぐらいだろう配達員。

彼は私を見つけると何故が凝視してきた。


「何か?」

「…え、あ、いえ、知り合いに似ていたもので」

小羽根(こはね)ちゃんに似ているのよ。娘だもの。」

「娘⁉」


郵便配達員が驚き、

お茶を飲み干すとしょぼくれたと、

いうより暗い顔で帰って行った。


 「あの人、母を知っているんですか?」

「あたしたちが学生だった頃の先輩よ。小羽根ちゃんはみんなのアイドルだったからね。」


母の顔は写真で一度、見た事があった。

父の亡くなった祖父母の家に合ったと親戚の家に届けられた事があった。

そこには赤子の兄が写っていた。

産まれながらに片目を失っていたという兄と私にそっくりな今の私に母。


 「さ、次は二階よ。」


マリ子さんの案内について行く。

二人の部屋は西廊下にあり、私とは真逆の部屋の作りだった。


「夜遅くまでお友達が来ていても大丈夫なようにね。周りの部屋はお泊りする時に使っていいから」

「はい…」


そんな友達が出来るだろうか。






 月曜日がやってきた。


「翼ちゃん、朝よ。」


優しく起こされたのはいつ以来だろうか。

そう考えながらふと、


「おはようございますマリ子さん、今日から学校ですよね?」

「そうよ。制服は無いから買った服着ていらっしゃい。」


と、いう為、出来るだけ目立たない黒のワンピースを着ていくことにする。


「今日は車で一緒に行きましょうか。」

「いいんですか?」

「今日だけね。明日からは歩いて行って、あたし、中学と高校の両方を見ていて、午前中は中学校に居るの。」


こういう処は村と言える話だ。


 朝食後スクールバックを持ち、車に乗り込んだ


 学校に到着する。

そこもまた大正ロマンの空気漂う校舎だったが中はいたって普通の高校だった。


「さすがに古い建物は寒くてね。あたしが卒業した時はまだ木造ったのよ。」

「それは寒いですね。」


校舎に入るなり暖かく、暖房が付いている事が解る。


 校長室へ行き、担任を紹介される。


「それじゃあね。」

「はい。」


倉庫に教科書を取りに行き、その後教室に向かった。


 「ここで待っていて下さい。」


男性教師はドアの前で私を待たせた。


「入って来て下さい。」


その声に教室に入る。

慣れているざわめきを耳にしながら気にしない。


「悪食翼です。宜しくお願いします。」


それ以外特にいう事もなく、窓側の一番後ろの席をあてがわれた。


北条(ほうじょう)、隣だから宜しくな。」

「わかってまぁす。」


軽い返事を返す隣の席の生徒はなぜか背中に亀がくっついている。

妖である事は間違いないが取り付かれていてまったく気にした様子が無い事に驚いた。


 「俺、北条賢(けん)()。宜しくな。」


そう言って差し出された右手の小指には黒い指輪が付けられていた。




 休み時間。


多くの生徒に避けられる中、何故か


「悪食って昼何?」

「お弁当です…」


北条君だけは話しかけてきた。


「一緒に食おうぜ。」


断る理由も浮かばず、

でも、

これと言って机を合わせる等の行動もなく、並んで食べていた。

この学校は食堂や購買もあるようで生徒の半数はそういったものを利用している。

お弁当を持って来ている生徒も食堂へ行く生徒について行き教室には人が少ない。


 「あのさ、今日暇?」


突然北条君が言って来る。


「暇と言えば暇ですが、それが何か?」

「北ノ山に遊びに来ねぇか?」

「興味ありません。」


バッサリ切り捨てる。


「そう言わずにさ、キツネとか、野ウサギとか、テンとかもいるぞ。」

「興味ありません。」


お弁当から視線を外さない。


「……お願いです、父さんと兄ちゃんにお前を連れてくるように言われてるんです…」

「何でですか?」

「大事な話があるんだとよ。俺はこの通り力を封じられているから見えてないけど、お前には解るだろう。俺の背中に亀がいる事」


小指の指輪を見せながらいう北条君。

私は立ち上がり、お弁当を持って教室を出た。


 適当に移動し、屋上へのドアに手を掛け回すも、さすがに開いていなかった。

仕方なく階段に座る。

お弁当をひざに乗せ、携帯を見ながら箸を進める。


 いつの間にか登録のされていたメールアドレス。

そこから毎日の様にメールが来る。


『今どこだ!』

『いい加減返信しろ!』

『GPS使ってそっちに向かう。』


そんなメールが来ているためGPSを確かめるもスイッチを切っていた。


「東馬先生あきらめ悪いな。てか、何でそんなにかまってくるのよ。」


なんとなく着信拒否もメールをブロックする事も出来ずにいる。




 放課後、雪すべり防止のブーツを履きながらも転びかけ、イライラしていた私。

ふと、山を見ると


「鳥居?」


山の上に鳥居が見えた。

近くの小高い丘にも、雪の白に混じり緑色の鳥居が見える。


「気にはなる。でも、あの山に登る勇気は無い。」


こんな雪深い地で、こんな時期に山に入るなんて死にに行くようなものだ。

だが、私の記憶が正しければあそこが北ノ山だろう。

名前の通りなら、そこに、


「お前…」


人間では無い声に走り出す。


「都心よりも多い!」


雪に足を取られながら走る姿を下校する生徒が不思議に思う。

そんなことはお構いなしに走り続ける事数十分。


寒さか、

疲労か、

足が震える。


近くに寺でも神社でも、なんだったら教会でも何でもいいから何かを探す。

適当に走っているためここが何処かもわからない。

気が付けば少し地面が傾いている。


「鳥居!」


緑の鳥居が目に着く。

後を追って来ていた妖が間近まで迫っている。


 ほんのタッチの差だろう。

指先が鳥居に触れる直前にマフラーをつかまれた。

だが、それはすぐに手放され、妖の姿は消えた。

私の手が鳥居に触れたからだ。


「あ、ここ凄い……。」


神主のいなくなった神社や護摩を上げなくなったお寺ではこういった効果は薄れてしまい、役に立たない事がある。

この緑の鳥居が導く神社では毎日欠かさず祈祷が挙げられているのだろう。


 とにかく助かった。

だが、どの方向に進めばいいのかわからない。


「携帯。」


と、思い開くも


「充電が!」


寒さに充電を持って行かれたようだ。

仕方なく歩き出す。

運がいいのか神小路家を知らない人はいないらしい。

最悪駅の方向を尋ねれば何とかなるだろう。




 そう、高を括って体感的には一時間は立っているだろう今現在。


「寒い」


いつの間にか緑の鳥居もなくなり、雪まで降り始めた。

しかも、人は全くいない。


「学校にあんなに生徒いたのに村に住んでる人少ないの?」


と、ぼやくも、実際は皆、駅近く、離れていても学校周辺に住んでいる。

山側は急激に人が減り、海側等に分布しているようだ。

その他近隣の村から電車で来ている生徒も多い。


「こんな所で迷子の挙句凍死なんてしたら世間の笑いものじゃん…」

 「独り言が多いなあんた。」


あたりを見渡しても誰も居ない。


「ここ、ここ。下、下。」


言われた通り下を見ると


「……オコジョ?」

「テンだ!」


雪に同化した細長い小動物がいた。


「妖?」

「違う。お前に流れる血が俺と話せる類のモノなんだ。こんな所でどうした?」

「道に迷った。ひとまず、ここから一番近い民家とかない。人のいる所だよ。」

「案内してやろうか。」

「いや、結構。方向だけ教えて」


今まで経験上、案内を頼んで真っ直ぐ到着した事は無い。


「用心深い雌だな。ここからなら玄武神社の神主の家が近い。ここら一帯北ノ山では民家はそこぐらいだろう。」

「ここ北ノ山?」

「そうだぞ。」


先ほどまで東の丘に居たつもりだったがずいぶんと歩いたようだ。


「いいか、ここを真っ直ぐだ。そうすればこの時期凍った川がある。そこを渡れば明かりが見えるだろう。」

「川ね。ありがとう。今度お礼に来る。」

「その時は木の実でも持って来てくれ」

「分かった。」


テンは良い奴だった。


 言われた通りに真っ直ぐ進み、川に出た。

厚みはそれほどでもない為渡れないだろう。

橋を探す。


「私ついてる。」


直ぐに橋は見つかった。

そこを渡ると


「北条?」


と、いう表札を見つける。


「親戚かな。小さい村だし」


インターホンが無い為玄関前で声を掛ける。


「すみません。」


反応がない。家の明かりはついているため人はいると思われるが


「すみません!」

風の音で消えてしまっているのだろうか、仕方なくドアを開け


「すみません!」

「はい。」


やっと返事が返ってきた。


 「あ、やっと来た。」


そこには母親だろう人物と、やはり、北条君がいた。


「もう限界、疲れた…」

「どうした?」


話をする前にお風呂を借りてしまった。


 居間の囲炉裏でコートとブーツを乾かしながら北条君がお茶とおせんべいを持って来た。


「それで、来るの遅かったじゃんか。どうした?」

「どうしたも無いよ。妖に追われて道に迷って、テンがしゃべったから道教えてもらって、やっと人にあえたよ。村に来て三日目で遭難する所だった。」

「案内すれば良かったな。」


お茶をすすりながら話をしているとふすまが開いた。


「あ、兄ちゃん、こいつが転校生。」

「どうも」


二十歳ぐらいだろうか。

北条の兄がやってきた。


「こんにちは。来たばっかりで弟が悪かったね。」

「いえ、それで、話があるって何ですか?」


来てしまったら仕方がない。

不本意だが、話は聞いて帰ろう。


「悪食家の娘が帰って来てしまった。これは一大事なんだ。」


いきなり歓迎できないと、言われているようなことを言われる。


「巫女だからですか?」

「それは村人があがめてそう呼んでいるだけで、悪食家はとても重要な家であり、災いの現況でもあるんだ。」




 北条君の兄政一(せいいち)さんの話によると、ここ、旧悪食村の元地主、悪食家は村を災いから守り、富を恵む、神の家だったらしい。

だが、それは次期に災いを身に溜めてしまい邪悪な妖を産んでしまった。

妖は悪食家を呪った。

自らを生み落しておきながら醜いと罵り、穢れを恐れ捨てた親。

その一族を呪い続けた。何年も、何年も…。


 男児は短命、女児は自ら女児を出産すると死んでしまう。

そんな呪いを掛けた。

それは今現在も続いており、悪食家は村から一歩も外に出られないのだ。

村の人間が妖に襲われればそのケガを身に写し、災いを身に溜めていっている。


 「君が、外の世界で何度も不幸な目にあっていたのはこの村で誰かが妖に襲われた反動なんだ。村の外ではそれが何倍にもなって君に襲い掛かる。」

「そんな変な話、信じると思うんですか?」


まるで日本の昔ばなしを難しくした様な話だ。


「僕らは君を守る立場にある。この村に戻って来てしまった以上、現実を受け止めてくれ、ここからはもう出られない。その代り、君に訪れていた不幸な出来ごとは減るはずだ。」


信じがたい話だった。

でも、マリ子さんや聡さんに何かが起きないのであれば、それに越したことはない。


 「神小路です。」


聞き覚えのある声に名前、聡さんだ。


「はい。」


ふすまの向こうで声がする。


「父さんと村長は同級生で仲がいいんだ。でも、今日はお説教だろうね。」


政一さんが何処か困った顔をしつつも楽しそうにいう。


「そうだ。君のお祖父さんだけど、まだどこかで生きているよ。」

「へ?」


突然の話におかしな声を出してしまう。


「何時か、会えるといいね。」

 「翼ちゃん来ていたんだね。」


話の途中で聡さんが入ってくる。


「はい。道に迷ってしまって」

「そうか。なら家まで送らないと帰れないね。」


窓の外を見るとすっかり暗くなっていた。


「ありがとうございます。」


 生乾きのブーツに足を通し、コートを着る。


「また明日。」

「うん。また明日…」


北条君に見送られ、車に乗り込み、発進した。


 「今日、私の家の事を聞きました。」


「悪食家のことか。翼ちゃんは知っておいた方が良い話だ。」


「でも、信じられない所もあります。」

「彼らは悪い人じゃないよ。翼ちゃんの為にみんな自分の出来る事を探しているんだ。まあ、私はその結果彼らのお父さんに今日は怒られに行くんだけどね。」


「何でですか?」


「誰にも言わずに私たちの独断で村に翼ちゃんを戻してしまった。そのことに西園寺(さいおんじ)家が良い顔をしないらしい。神小路はもともと悪食の親戚の様なものでね。人柱とは、また違う思想を持っている。その話をしにいくんだ。」


「人柱って何ですか?」


聡さんの話も北条家での話も疑問ばかりだ。


「この村の人柱って言うのは東西南北にある神社の家系で産まれ、神主になる人の事だよ。北条家は父親から今は政一君に受け継がれている。」


「北条君の指に黒い指輪がありました。」


「それは婿養子へ行くための準備なんだ。北条家の受け継いでいる力を消して、婿入りした家の力を受け継ぐんだ。」


ややこしい村のようだ。






 翌日、さらに翌日と北条君は休んだ。

周りは


「また北条休みかよ。」

「家の事情だもん。仕方ないよ。」


と、話していた。

どうやらよく休むようだ。




 一月が終わり、二月に入った。


都心ではバレンタインに浮かれているところ、ここではなぜか節分が大々的に行われた。







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