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 けもの道をひたすらにすすみ、やがて魔王城へと続く隠し通路のある場所へと四人はやってきた。

 そこは、天然の洞窟のように見えた。

 入口に、サイの魔族がいなければ、そして地図がなければまず間違いなく通り過ぎたであろう場所だ。

 そもそも魔王城が天然の要塞なのだ。

 空を飛ぶか、それこそ命懸けの山越えをしなければたどり着けないようになっている。

 少し離れた場所の木々に隠れつつ、四人は様子をうかがっていた。


 「あいつ強そうだから、俺行ってくる!!」


 はいはい! と手を上げながらエステルが宣言した。

 

 「え、ジュリの方がいいんじゃ」


 戸惑う、ユウヤにジュリが言う。


 「こういうのは、ゴリラに任せた方が確実だから」


 「ご、ゴリラ?」


 「そ、ゴリラ。ピンクゴリラなんてあだ名がついてるくらいだし、エステル」


 オオグもそれに同意する。

 

 「まぁ、見てろって」


 とか会話をしているうちに、エステルが飛び出した。

 そして、まぁ、慰みものにでもしようと思ったのかセクハラ発言を大声で笑いつつ口にしたサイの魔族を、ワンパンで倒したのだった。

 頭だけ狙ったので、隠し通路の洞窟にも脳漿が飛び散った。

 サイの魔族の巨体が倒れ、それを足蹴にしてエステルはこちらに手を振った。


 「な?」


 オオグの声に、一瞬の沈黙のあとユウヤは叫んだ。


 「って、オイイイイ!!?

 な? じゃねぇぇえええ!!」


 「??

 なにが?」


 「なにが、って。ほんとにワンパンで倒すか普通!!」


 「エステルも頑張ってワンパンで倒せるくらい強くなったんだぞ?」


 「いや、そういうことじゃなくて!!」


 叫びながら、エステルの方を見る。

 ジュリがすでに近づいてエステルとなにやら話していた。


 「お前だって頑張れば、あれくらい行けるだろ」


 「イケてたまるか! この人外ども!!」


 「人を外れるって書いて人外だからなぁ、道を踏み外したわけじゃないし、褒め言葉だな!」


 そしてオオグのこの笑顔である。


 「あーのーなぁ!!」


 「なんか悪いのか?

 魔族と敵対してるんだろ?

 で、この世界だと魔族を倒すのはいい事で、悪いことじゃないだろ?

 お前、なにがそんなに気に入らないんだよ?

 嫌がらせするのが嫌なら、もしくは、俺の遊びに付き合うのに抵抗あるなら、お前はここで帰るかそれこそ勇者のとこに戻るかした方がいいぞ。

 俺は楽しそうだから、エステル達を呼んだだけだし。

 お前とバカ騒ぎするのも楽しいかなって思って付き合わせてるだけだし」 


 「魔王退治を嫌がらせとか、遊びとか言うなよ。

 そうじゃないんだよ。

 あまりに非現実すぎて、頭がついて行かないんだ」


 「非現実的って、お前、そもそも魔法だの勇者だの魔王だのスキルだのが普通な世界での現実的なことってむしろなんだよ?」


 「それはーー」


 「元々の世界には獣人はいないし、魔族だっていないし、もちろん魔法だってないだろ」


 それは、その通りだった。

 その通りなのだ。

 ただ、ユウヤがこちらに来て見聞きしてきたものから、彼らが逸脱してるだけなのだ。

 ユウヤが勝手に常識だと、そう思っていたことがぶっ壊されただけだ。


 言ってしまえばそれだけの事でしかないのだ。


 「かたや【在る】世界。かたや【無い】世界。

 でも【在る】世界に【無かったモノ】が現れたら戸惑うだろ、普通」


 「それは無かったんじゃなくて、今まで遭遇しなかっただけだろ。

 なんつーか、もう少しこの状況を楽しめって」


 その言葉に、エステルが倒したサイの魔族のグロテスクな光景が広がるそちらへ視線を、もう一度やる。

 動画だったら確実に、モザイクが入る光景だ。


 「無理無理無理、無理」


 むしろ、ユウヤはオオグが何故そこまで【楽しむ】ことにこだわっているのか、不思議だった。

 いや、不気味なのだ。

 勇者のいきなりの暴力と豹変にも驚いたが、それ以上のなんとも言えない気持ち悪さがオオグにはある。

 まるで。

 そう、まるで。


 「オオグ、お前、なんか道化師(ピエロ)みたいだな」


 「なんだ、突然。手品も大道芸も出来ねーよ?」


 理解できない存在。

 ここが、サーカスや何らかのイベント会場ならなんの違和感もなかったのだろう。

 居る場所を間違えた、そんな感じがする。


 「ナタでデカいトラの化け物の首を落とすのは、十分に大道芸だろう」


 皮肉だ。

 そんな残酷なショーは、正直御免被りたい。


 「俺のが大道芸なら、エステルやジュリさんのはどうなるんだよ?」


 「チートと無双だろ」


 「無双はいいとして、チートなんて狡ってことだぞ。

 気持ちはわかるけど、あいつは気にしないだろうけど本人には言うなよ」


 「なんで?」


 「なんでって、お前、それ相手の今まで(努力)をバカにすることになるかもしれない言葉だぞ」


 たしかに、頑張ってそれなりの苦労をして手に入れた力を馬鹿にされたら、そんなに気にしないタイプだろうと気分を全く害さないとは言えないだろう。


 「お前でも、正論言えるんだな」


 ただ、オオグの言葉を認めるのは悔しいので、ユウヤはそんな憎まれ口を返した。


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