表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/24

 魔王城、玉座の間。

 勇者でも魔族でもない、しかし、禍々しい気配が二つこの世界で観測されて、数日。

 すぐにその気配の正体を確かめようと、魔王軍は調査を開始した。

 しかし、その報告が上がって来る前にそれらしき人の形をした者達が、この魔王城のすぐ近くまで来ていることがわかった。

 排除するために飛竜部隊を派遣させたのだが、落とされた。

 そのままの意味である。

 まるで雷神の化身とでも言わんばかりの雷撃。

 その直撃を受けて、勇猛な部下達が一瞬でその命を散らしたのだ。


 空中に映し出されている光景。

 たった今起こった信じられない光景に、魔王はおろか、その側近である二人も言葉を失ってしまっている。

 映るのは、事前に把握していたどの勇者でもない。

 黒髪の人間の女だ。

 その近くに立つのは、別の勇者に仕えていたはずの【導く者】だ。

 勇者を、文字通り英雄へと成らせるために、導くために、異界から召喚された聖なる存在。

 別の勇者を立てたのか、それとも他に理由があるのか。


 「…………」


 ただ、この強さを屈服させることが出来たなら、とても魅力的だと魔王は考えた。

 こちらから出向くことも考えるが、しかし向こうはこちらに向かってきているようだ。

 なら、いくらでも手はある。

 魔王以外の、他の者達は怒りに震えていた。

 映し出された光景の中、黒髪の人間の女もそうだが、他の仲間達が笑っていたのだ。

 そう、楽しそうに笑っていた。

 これを、魔族への侮辱ととったのだ。

 たしかに同族を殺されて、その殺した張本人たちが楽しそうに笑っている光景など不愉快極まりないものだ。


 殺気立つ部下達へ、指示を下す。

 

 こういった一部の幹部はともかく、こういった場合は好きにやらせるのが良いだろう。

 相手の手の内は、情報は多い方が良い。



***


 「でもさ、1回ちゃんと確認しておきたいことがあるんなだけど」


 ジュリがユウヤを見つめながら、続けた。


 「ユウヤさんの、その【英雄の導き手】って何?

 スキル? それとも職業?」


 「はい?」


 ユウヤは首を傾げつつジュリを見返した。

 そして、気づいた。

 ジュリはユウヤを見ているようで、見ていなかった。

 視線が微妙にズレている。

 ユウヤを見ているのは確かだが、彼の目ではなく喉元から下、胸辺りを見つめていた。

 丁度、名札でもみているかのような視線の位置だ。


 「あたしらにはね、相手の能力値が見えてるの。

 ユウヤさんは、ゲームのパロメータ画面、あー、ステータス画面は知ってる?

 あんな感じで個人情報が筒抜けになってる。

 こっちには、身分証として記載される形式なんだっけ?」


 「あ、はい、そうだけど。見えてる?」


 「そう。って言っても、能力値と、今言った取得スキルとか職業くらいだけど。

 さすがにプライベート過ぎる内容は書かれてないけど」


 その言葉に、オオグがエステルを見た。

 オオグの顔には、説明していないのか? と書かれている。


 「いや、見た方が説明するより早いかなって思って」


 エステルが悪びれずに返したのが、聞こえた。


 「うーん、君、勇者にパワハラされて追い出されたんだよね?」


 「あ、はい」


 「その勇者さんは、君のスキルとか、今言った【英雄の導き手】についてどれくらい知ってたの?」


 「えっと、スキルに関してはほぼ把握されてて。

 その【導く者】は、最初から、そう言われてたんで称号というか役割り的なものかなと思う」 


 ジュリが、その返答に眉を顰める。


 「把握してた?」


 「えっと、魔族の幹部や大規模な軍勢なんかを相手にした後に、チェックをされてたというか」


 「身分証を見せてたの?」


 「はい」


 「ちょっと、その身分証見せて」


 言われるがまま、ずっと身につけていたそれを渡す。

 それは、魔法によって特殊加工された羊皮紙だった。

 それこそ、レベルなどが変化したら自動的に上書きされるようになっている。


 「ふむ、なるほどなるほど。

 君、カンストしてるよね?

 それは、勇者は知ってたってことでいい?」


 ユウヤはうなづいた。

 いったいなんだと言うんだろう?


 「君、今【導く者】って言ったけど、確認なんだけど君には、身分証(これ)、どんな表記で見えてるのか詳しく教えてくれる?

 プライバシーもあるから、言える範囲内で良いからさ」


 聞かれるまま答える。

 オオグとエステルも不思議そうにしている。

 あらかた話を聞いて、ジュリは三人へ説明する。


 「エステルとオオグも、相手のステータスは見えないんだよね?」


 「見えてたら、最初にジュリに勝ち譲ってない」


 「……そもそも興味ない」


 順に、エステルとオオグである。


 「「いや、お前はもう少し興味もてよ、このサバイバル馬鹿」」


 ユウヤとジュリの声がハモった。


 「いや、こんなチートスキル持ちよく冷遇できたなってほんと不思議だったんだけどさ、道案内も含めて使えるスキルとか加護とか多いのに育ててないし、無効になってるし。

 わかりやすく言えば、初期設定、初期装備のまま高レベルになってる」


 「え?え?」


 ユウヤは戸惑うばかりだ。


 「とりあえず、うーん、あ、これなんて使えるかも。

 オオグ、あんた地図持ってるでしょ?

 それをユウヤさんに渡して、ユウヤさんは地図を装備したまま、手に持ったまま【現状把握】使ってみて?」


 言われるがまま、やってみる。

 すると、地図に青い四つの点と、あちこち動き回っている赤い点が浮かび上がった。


 「敵と味方の位置情報が出るってわけ。他人とこうして共有できる索敵スキルってわけ。

 んで、ここで【見抜き】を使ってみて」


 さらに地図に隠し通路と、宝の在り処などが表示された。


 「おおー、めっちゃ便利!」


 オオグがテンション高めに地図を覗き込んでくる。

 と、少し離れた場所に紫色の四つの点を見つける。


 「これは?」


 エステルがジュリとユウヤを交互に見た。

 ジュリが気遣わしげに、ユウヤを見る。

 ユウヤの顔色が悪くなった。


 「俺を追い出した、勇者の一行だ」

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ