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結果だけを言うなら、ジュリが勇者役になった。
ジュリは恨めしそうに、自分の出したチョキを見つめている。
「なんて、皮肉だ。ド畜生!」
そう吐き捨てる彼女に、なんとなく同情してユウヤは頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「あぁ、いえいえこちらこそ微力ながらお手伝いさせていただきます」
社交辞令だろうが、とりあえず丁寧に返された。
捕った獲物でとりあえずバーベキューパーティーをして、親睦を深めたあと、四人は魔王城へ旅立った。
さらに数日後。
「うわぁ、絵に描いたような禍々しさ。デザインは真似できるかな?」
四人の視線の先には、黒雲が掛かった山。
そこに建つ、いかにもな城。
さらにジュリは続ける。
「外観はいいね。あとは中身か。ほかの世界の魔王城見学なんてそうそう出来ることじゃないし、参考になりそうなとこは写真取っておこう」
言いつつ、初日の不機嫌さはどこへやら、オオグと同じようにカメラを指を振って出現させると、ジュリは写真を撮り始めるどうやらデジカメのようで、何枚か撮ったら、画像を確認していた。
「あ、どうせなら記念写真もとろっか!」
この人が、一番観光気分のようだ。
いや、実際エステルに旅行に行こうと誘われて、半ば騙される形でここまで来たらしい。
それもどうかと思うが。
「ほら、並んで並んで!」
「ジュリ、自撮り棒は?」
エステルに言われ、ジュリは苦笑する。
「忘れた」
魔王城をバックに、記念撮影。
ガチの観光だ。
とりあえず、言われるがままユウヤを中心にして3人ずつ写真を撮る。
撮り終えて、画像を確認する。
「ユウヤさん、携帯電話は?」
問われて、ユウヤはこちらの世界に召喚された時にほぼ着の身着のままで、携帯電話をたまたま所有していなかったことを説明した。
「そっかー、んじゃ、現像したらオオグ経由で渡してもらうわ」
そして、また魔王城へカメラを向けた。
その時、ジュリは何かに気づいた。
「でかい鳥が来る」
「鳥?」
エステルが同じ方向を見た。
ユウヤもつられて、そちらを見ると。
たしかに、鳥のような何かが大群でこちらに向かっているのが見えた。
「おー、こちらの魔族さん達か。
気づかれたかな?
エステル、先手必勝のご挨拶すれば?」
「えー、こういうのは、勇者の役目じゃね?」
「役目ねー、王道だけど試しに雷でも落としてみようか」
そんな物騒なことをジュリが口にすると、カメラを消して今度は剣を出現させる。
「まぁ、ごっこ遊びだと思えばいっか。一度やってみたかったしライ〇イン」
さては、竜で探求するゲームが好きだな、この人。
ユウヤは、しかし、確認することは無かった。
ジュリが出現させた剣は、所謂両刃の剣ではなく、刀だった。
日本刀のように見えた。
「おっ、初めて見るな、それ。
また、巻き上げたのか」
「否定はしないけどね。
知ってる? 刀は確かに切ることに特化した武器だけど、弓と同じで魔を祓うための武器でもあるらしいんだよ。
地域によっては、ナイフや小刀を亡くなった人に持たせたりする、死後の旅の護身用だ。
そして、この刀は元々献備ーーとある神殿に献上されたもので、その後、その神殿で旧世界の神の力を受け続け、神通力を宿した特別なものらしい。
こんなん、絶対効果抜群でしょ」
白い、雪のような純白の鞘から刀を抜き放つと、スラリとした刀身が現れた。
その持ち手ーー柄に近い部分には、神々しい龍が彫ってある。
それをジュリはかかげ、振り下ろした。
「てぃやっ!」
瞬間、空気が揺れ。
龍の形をした稲妻が、こちらへ向かってきていた郡勢へ襲い掛かる。
そして、眩く光ったかと思うと轟音と衝撃波が起こった。
ぼとぼとと、群れだったそれらが山に落ちていくのが見えた。
「おおー」
「たーまやー」
エステルとオオグが、それぞれ声を出した。
一方、ユウヤは言葉を失うしかなかった。
勇者が持つ聖剣よりも、強力だ。
武器と言うよりも、兵器だ。
「あー、なるほどなるほど、こうなるのか」
ジュリは、それこそゲームで初めて手に入れた武器の試運転のような反応だ。
「て、ちょっと待て!! なんなんだよ、その武器!!?
そんなの、この世界にあるわけないだろ!
どうやって作った!?」
「どうやってって、言うか、あたしらの話聞いてなかった?
これ、巻き上げたというかペナルティとして奪ったんだけど、欲しけりゃあげるよ?」
いる? とまるでジュースか何かのように言われてしまう。
「…………いや、そんな簡単に手放そうとすんなよ!!」
「だって、なにげに似たようなのいっぱいあるし」
なんで、いっぱいあるんだ、というツッコミは流されてしまった。