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 オオグと遭遇して、数日が過ぎた。

 この数日の間に、全裸でこそないがユウヤは気づいたらサバイバルのやり方を何故かレクチャーされていた。

 鰻の蒲焼ならぬ、蛇の蒲焼を焼けるまでには身についていた。

 しかし、ナメクジはダメだった。

 いくら、火を通してもそのままの丸焼きは食べることが出来なかった。

 もちろん生なら良いとかそういう話ではない。

 ちなみに、生で食べたら腹を壊す所の騒ぎでは済まなくなるので、絶対にやらないが。

 ちなみに、カエルもダメだった。

 蛇も本当は嫌だが、やるしかなく捌けるようになった。


 「ツボぬき、マジ無理」


 血の臭いにはそれなりに慣れていたつもりだったが、魔物をただ倒すのと、食べるために解体加工するのは精神的ダメージが段違いだった。

 昨夜は、面白半分にオオグがクマの魔物の胃袋を割いたら、消化中だった人型のなにかが出てきた。

 検分こそしなかったものの、胃袋から出てきたのは成人した人間の可能性が高いのは確実だった。


 思い出したら、吐き気が込み上げてきた。

 しかし、吐き出すことは無かった。


 「お前よく、今まで旅できたな」


 オオグが、あの被り物全裸姿で、ウサギの魔物を解体しながらそんなことを言った。

 と、その声に被るように別の声が近くでした。

 それも、二つ。


 「お、やってんな!」


 「すごい、こんな本格的な解体作業初めて見た」


 一人は桃色の髪の美少女。

 人形のように整った顔立ち、その瞳も桃色だ。

 ユウヤと歳は同じくらいか少し上。もしかしたらオオグと同い年のようにも見えた。

 もう一人は、二十歳半ばくらいの平凡な顔立ちの短い黒髪の女性。瞳も黒。ユウヤやオオグと同じ日本人のように見えた。

 二人の視線は今朝オオグが捕らえ、今まさに本人が解体作業をしているウサギに集中している。


 「でも、まぁ、なんていうか、怪しい集団にしか見えないなぁ。でも、まさかこんな懐かしい馬鹿なこと実践する馬鹿が他にもいるなんて驚いた。

 あたし、エステルから事前に全裸の話聞いてなければ確実に石投げつけてわ」


 と言いわれてしまう。

 馬の被り物を全力で拒否して良かったと、改めて思う。


 「お、来たな!」


 もうほとんど作業が終わっていたらしいオオグは、一旦手を止めて二人を紹介してきた。


 「こっちのピンクがエステル。

 もう一人の黒髪さんがジュリさん。どっちも異世界転移とか知ってるから。

 んで、二人ともめちゃくそ強い」


 その紹介に、ジュリが眉をひそめる。

 エステルの腕を引っ張って、少し離れた場所でなにやら問い詰めているようだ。


 それを横目に、ユウヤはオオグを見る。

 勇者達よりも先に魔王を倒して、彼らの鼻を明かす。

 とか言いつつ、結局数日も遅れを取っている。

 今頃、もしかしたら勇者達は魔王を倒しているかもしれない。

 でも、オオグは余裕そのものだ。

 まるで、彼らが倒せないと本気で思っているようだ。


 「こんなんで、魔王が倒せんのかよ」


 呟いた声が、やはりジュリの耳に届き彼女はさらにエステルを問い詰めている。


 「大丈夫大丈夫。慌てない慌てない」


 「…………」


 水や食料の確保の仕方を、拙いながらも教えてもらったのでおそらくユウヤ一人でも勇者パーティを追いかけようと思えば何時だって追いかけられるだろう。

 しかし、このままでは勇者を殺すことも、オオグの計画のように鼻をあかすことすら出来ないのは、わかっていた。

 だから、オオグと行動を共にしていたのだ。

 色々思うところ(主に全裸とか全裸とか全裸とか。ほぼ全裸での奇行のこととか)はあったとしても、少なくともオオグといれば食いっぱぐれることはなく、寝込みを襲われる危険も減るからだ。

 

 「わかった、ようく、わかった。

 とにかく、ワンパンで終わらせれば良いってわけだ」


 少しイラついたようなジュリの声が聞こえた。

 エステルがそれに飄々と返す。


 「ストレス発散には丁度いいだろ?」


 くつくつと笑うオオグの呟きも聞こえてきた。


 「こりゃ、ほんとにワンパンで終わるかもな。魔王退治」


 咄嗟に、ユウヤは言い返した。

 

 「そんな簡単に倒せるなら誰も苦労しない」


 「ま、たしかにそうなんだけど。パワハラ勇者は何度も魔王を倒したことがあるのか?」


 「は?」


 「無いだろ?

 せいぜい、時折襲ってくる幹部クラスをズタボロになりながら倒してたんじゃね?」


 「それはーー」


 その通りだった。

 魔王を倒す経験なんて、そう何度もするようなものでもないし、できない。

 ゲームのような世界ではあるが、ゲームでは無いのだ。

 

 「それと、ユウヤは知らないみたいだけどな。

 他にも勇者はいるらしいぞ。この世界。

 でも、魔王にまでたどり着けるのはさらに勇者より希少な【道案内係】えっと、【導く者】がついてなければならない。

 魔王を倒すためには、一人ではダメなんだよ。

 ナビがなければ、城の場所はわかっても中に入れない。全く入れないわけじゃないけど、運が必要になってくる。

 あと、逆に言えばナビさえ居れば一般人だろうと魔王城に不法侵入できる。

 お前の役割りはそれなんだろ?」


 ゾクッと背筋が寒くなる。

 導く者のことなんて、オオグには説明していない。

 しかし、彼はそのことを知っている。

 身分証を見た?

 それともーー。


 「お前は、お前らは何者なんだよ?」


 魔族なのだろうか?

 いや、それだったら勇者より先に魔王を倒そうなんてアホなこと言い出さないだろう。


 わからない。

 わからないからこそ、オオグ達が不気味に見えた。


 「んー、お前と同じ異世界人。

 ただ、お前と同じ時間軸かは分からないけどな」


 いつものごとく、サバイバルが趣味だとでも返ってくるかと思えば、普通の返しだった。


 「まぁ、俺たちの事情よりお前の事情だわな。

 あとは、ジャンケンで決めるか」


 「ジャンケン?」


 何を決めるのか分からず、ユウヤは訊ねた。


 「誰が勇者役になるか、ジャンケンで決めるんだよ」


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