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 話が通じてるようで通じていない、この全裸ウサギことオオグに『やりたい事は?』と問われて、どうせそんなのを気にするような仲でもないので、吐き出しておくことにする。


 「復讐だ」


 残っている串焼き。

 それにかぶりつくためにウサギの被り物を取ったオオグへ、ユウヤはそうポツリと漏らした。


 オオグの素顔は、ユウヤと同じ日本人のようだった。

 中性的で全裸でなければ、男女の区別が出来なかったと思う。

 髪は黒ではなく、茶髪。

 肩まで無造作に伸ばされているそれを、金糸の入った紅いリボンで乱雑に束ねている。

 歳は、ユウヤよりも五つほど上、二十歳前後くらいに見える。


 「ふくしゅう? お前も大変だな、前もって勉強するなんて」


 「それは予習、復讐だ復讐」


 「あぁ、その日の授業の内容を振り返る方か」


 「字が違う!!」


 ほんと、疲れる。

 なんなんだこいつは。


 「仕返しの方! 報復の方!」


 「怒ると疲れるだろ? ほれ、あんぱんとチョコあるけどデザートに食え食え。

 疲れた時は糖分だ、それとイライラにはカルシウムだ」

 

 何故かパックの牛乳を出してくる。

 この世界では見たことの無い値引きシールがあんぱんと牛乳パックに貼られている。

 

 「ほんと、なんなんだよ、お前」


 「趣味でサバイバルしてるだけだけど」


 「いやいやいや、そもそもそれがおかしい。

 魔族の本拠地の魔大陸だぞ!

 なんで、普通の人間が生きてられるんだよ!」


 と、そこで今更過ぎることにユウヤは気づく。

 そう、ユウヤの目の前でオオグはチームプレイでしか倒せないこの大陸の魔物を倒してしまったのだ。

 倒された魔物は、ユウヤとオオグの胃袋におさまった。

 勇者ですら、仲間がいなければ不可能とまではいかないが骨をおる様なことを、オオグは全裸とウサギの被り物をしたまま、それもただの鉈でやってのけた。

 魔法加工されていない、農家の者が使うどこにでもある鉈で、だ。

 それなりの時間を、ユウヤもこちら側で過ごしたお陰で簡単な鑑定くらいなら出来るようになった。

 だからこそ、すぐ側に置かれている鉈が本当に普通の鉈であるとわかってしまった。

 それは、とても異常なことだった。

 そもそも全裸でサバイバルしているのも、異常なのだが、それも含めてこのオオグという人物の存在はおかしい。


 「そりゃ、お前、頑張って強くなったから!」


 ユウヤの疑問にサムズアップで、オオグは答えた。


 「頑張っただけで強くなってたまるか!!

 はぐらかすなよ、お前は何者だ?」


 「何者って、だから言ってるだろ。

 ただ、趣味でサバイバルしてるだけだって。

 でも、そっかー、復讐かー。

 俺ってその辺の感覚ないからわかんねーんだよなぁ」


 こんな阿呆なことをしているやつには、一生無縁なことだろう。

 わからない、理解できないのも無理はない。


 「でもさー、お前。

 復讐するってことは、そのパワハラ勇者を追い掛けなきゃだろ?」


 「当たり前だろ!」


 「ってことはだ。

 お前、武器や回復系のアイテム無くても追いかけられるくらい強いってことだよな?

 勇者には負けたけど、それこそ一人で魔物倒せるんだろ、ってどうした?」


 「んなわけ」


 「ん?」


 「んなわけねーだろ!!

 そもそも、ここの魔物を一人で倒せるのがおかしいんだよ!」


 「だって一匹だけだったし」


 「そういう問題じゃなくてだな」


 「じゃー、お前、どうやって勇者に復讐するんだよ?

 ちゃんと計画立てないと返り討ちにされるぞ?

 その前に武器もアイテムも、そして水や食料すらないっぽいけどな」


 グサグサと痛い所を突いてくる。

 思った以上にバカではないのかもしれない。


 「なんだよ?

 その言い草、手伝ってくれんのか?」


 「は? なんで?

 ただ、不思議に思ったから聞いただけなんだけど」


 「…………」


 「でもさー、お前も物好きだな。

 復讐とか仕返しとか疲れるだけじゃね?

 なんで、そんなことすんの?」


 「お前みたいな頭のおかしい奴には、俺の気持ちなんて理解できない!」


 「え、なに、理解してほしいの?」


 嫌味でもなんでもなく、きょとんとした表情で返されると反応に困る。

 どうやら、このオオグという人物は本当に憎しみや恨みという感情が理解できないようだ。


 「同じ疲れるなら、楽しく遊んで疲れた方が良くね?」


 「そんな簡単に割り切れるなら、良かったんだけどな。

 やられたらやり返さないと、俺の気が済まないんだ」


 「つまりは、自己満足のためか」


 自己満足。

 そうなのかもしれないし、違うかもしれない。

 痛めつけてスッキリしたい、というのはある。

 しかし、やりたいということと、出来るかどうかは別の話だ。


 「あとまぁ聞いてると、とどのつまり勇者達にギャフンと言わせたいんだよな?

 なら、もっと手っ取り早い方法があるだろ。

 本人に復讐するより、確実な嫌がらせになる上に精神的ダメージを与えつつ、社会的に這いつくばらせることも可能なやり方」

 

 オオグの別方向からジャブに、ユウヤは目が点になる。


 「…………は?」


 「先に魔王倒しゃいいんだよ。んで、その首級(しるし)もって勇者パーティを支援してる国王(スポンサー)のとこまでさっさと帰って、このパワハラ追放のことも報告ついでにチクれば一発で終わるだろ」


 「無茶苦茶言うなよ。魔王を勇者より先に倒すなんて出来るわけないだろ!

 たしかに、俺もこっちの世界に来てそれなりに戦えるようになった。でも、魔王は勇者が、勇者だけが倒せる存在なんだぞ?

 無理に決まってる」


 「いや、やって見なきゃわかんねーぞ?」


 言った直後、オオグの顔にイタズラ小僧のような笑みが浮かんだのを、ユウヤは見逃さなかった。


 

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