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 紺青の髪をした少年。

 その登場に、イヴリースは驚きつつも口を開いた。


 「今度はなんだ?」


 その問いに、少年ーーミコトは半眼で返す。


 「それはこっちのセリフだ。

 もう少しちゃんと確認してから来るんだった」


 鞘に収めたままの刀で、ミコトはイヴリースの拳を止めたまま馴染みの気配を探り当て、そちらーー空に浮かぶ義理の弟を見た。


 「あの野郎、やっばり問い詰めておくべきだった」


 ミコトの目には、ユウヤでは影としか認識出来なかった存在がくっきり見えていた。

 その呟きを無視して、イヴリースが言った。


 「邪魔をするな」


 「邪魔? なんの邪魔をしてるって?」


 「お前は御使いと同族だろう?」


 「御使い?」


 質問を質問で返され、ミコトはさらに疑問を口にしてすぐに合点がいった。

 

 「あぁ、血を引いてるのかって意味か。

 うっすいけど、たしかに天使の血は入ってるな」


 淡々とミコトは言って、一旦イヴリースと距離を取る。

 そして、イヴリースをじぃっと見つめる。

 何もかもを見通すように、見つめる。


 「そういうお前は、なるほどこちらの【勇者】を材料に造られた新世代の魔族か。

 で、お前のママはあそこでニヤニヤしてるやつだな」


 ミコトは刀で視線を感じる方を指し示す。


 「本当なら、関わるのはどうかと思うんだが」


 今度は刀を肩でトントンとやりながら、ミコトは続けた。


 「とりあえず、逃げるなら今のうちだぞ。

 俺とお前じゃ、勝負にすらならない」


 「戯れ言を」


 「はい、一度忠告はしましたー。ここからは自己責任でーす」


 少しおどけたように、ミコトが言った直後。

 ミコトはイヴリースへ仕掛けようとした、が、そこにもう一つ声が掛けられた。

 御使い、天使の声だった。


 「たしかに、君と彼では分が悪いようだ」


 天使はいつの間にかイヴリースの横に立っていた。


 「君の瞳は、なるほど彼の瞳と同じか、いやそれ以上の精度を持っている。

 更に、おそらくこの世界で勇者とは別の意味で魔族の天敵のような存在みたいだ」


 「さっすが、世界を渡ることの出来る神族は違うな。

 話が早くて助かる

 そう、こっちの世界の文明レベルがどれくらいかは知らないが、戦車にニンゲンが生身で特攻かけるようなもんだからな。

 ちなみに、俺が戦車でそこの魔族が生身のニンゲンな。

 新品の玩具を壊したいなら別だ。

 ジュリさんのようにスマートにはいかなくても、格の違いくらいは教えてやれる」


 天使は困ったような、そうでもないような微妙な笑みを浮かべると、イヴリースと共に消えてしまった。

 しかし、ミコトの脳裏にほかならない天使の声が響く。


 ーーまぁ、たしかに、君は本来私のような存在を殺すために、滅ぼすために造られた存在みたいだからね。

 うん、怖いから尻尾をまいて逃げてあげるよ。あー、怖い、怖いなぁーー


 そんな馬鹿にしたような声も、しかしすぐに消えた。

 ミコトは気にせずに、こちらの様子をうかがっていた弟を見た。

 息を一つ吐き出して、ミコトはまるで足場でもあるかのように弟の元へ跳んでいく。


 「よぉ、久しぶりだなお兄ちゃん?」


 目の前までやってきたミコトに、オオグの体を借りた何かはそう言った。


 「お前は俺の弟じゃないだろ。引きこもってるんならさっさとあのバカを表に出せ。言いたいことが二千ほどあるからな」


 「まぁ、たしかに()はあんたの弟じゃないからな」


 「師匠の封印が解けるなんてな、想定外だった」


 そこでミコトは言葉を切って、転がっている顔馴染みの少女の死体へ視線をやる。


 「確認だが、アレはお前がやったのか?」


 「()()()()()

 なら知ってるだろ。時間稼ぎはやめろよ、童貞非処女のお兄ちゃん?」


 「……口の悪い怨霊だな。それと、もう一度言ってみろ。ぶっ殺すぞ」


 「やれるもんならやってみろよ。

 この童貞非処女のお兄ちゃん」

  

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