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数分前。
「なんで俺なんだ?」
腕組をして、ホットミルクを入れている父親を睨みながらミコトは聞き返した。
「どの理由がいい?
どんな理由なら、ミコトは仕事をしてくれる?」
砂糖たっぷりのホットミルクの入ったマグカップを、カウンター席に座った息子へ置いて、店主である父親はその隣に座って頬杖をついてミコトを見た。
「……お前が、長男だから。
いや、お前が兄だから」
「兄、ね。兄だから弟を助けろってか」
「弟と、まぁ未来の妹を助けなさいってとこかな」
「…………アイツらは、何に巻き込まれた?」
「さぁ? そこまではわからない。
ただ、とても良くないことだろうけど」
「嘘だ」
「うそ? 何が?」
「父さん、あんたは全部分かってる。
全部知ってるんだ。
だって、あんたはーー」
「わからないよ。さすがにわからない。
だから、お兄ちゃんであるお前に頼んでるんだ。
兵器ではない、兄であるお前に。
それに父さんは、世界を渡れない。
でも、お前達にはできる。
だって、お前には、お前達には可能性が、未来があるから」
「……世界を渡るなら、俺じゃなくても良いだろ。
それこそ妹でも」
「いや、ダメだ。
お前じゃないとダメなんだ。
お前だからこそ、きっと拳が、声が届くはずだ」
そこで、程よく覚めたマグカップにミコトは口をつけた。
飲みながら、ミコトは思考を巡らせる。
世界を渡る行為は、原則すら設定されていない。
基本、それは神族の業だからだ。
そして、世界が既定路線をなぞるために用意された方法だからだ。
この父親と義理の弟の故郷である世界から、この世界へ、あるいはその逆はできる。
そう、正確にはそっちでの世界渡りは、この父親でもできる。
でも、全く違う世界に行くことは、出来ない。
この父親はもうそれが出来ないのだ。
だから、父親はミコトに頼んでいる。
断ったらどうするのだろう?
他の手を考えるだけだろうが。
「ジュリさんでも行けないのに、俺が行ける渡れる根拠はなんだ?
エステルもダメだったんだろ?」
そう、これがミコトに白羽の矢がたった一番の理由だ。
ジュリさんは、渡ろうとした。でも出来なかった。
彼女に出来ないことが、ミコトにはできる理由。
それが、謎だった。
兄だから、なんて理由は通らない。
ルールはシビアだからだ。
「お前をそういう風に作ったから。
って言えば、納得してくれるか?」
父親の言葉に、ミコトは中身を飲み干したマグカップを置いて父親を見た。
少しだけ、楽しそうに目元が笑っていた。
これは、本当のことを教えてくれる気はないのだろう。
それがわかってしまったから、ミコトは大きく息を吐き出した。
「わかったよ。とりあえず連れ戻せば良いんだな?
でも、一方通行だったらどうする?」
「もし、そうならそれには別の意思が関わってるはずだ。
それを解決しろ、そうすればこちらに、帰ってこれるはずだ」
「わかったよ。それじゃ、行ってきます」
どこか諦めたようにミコトは言って、席を立った。
「あ、ちょっと待って。
はい、コレも持っていきな」
そうして渡されたのは、ジュリからの餞別である刀と、携帯端末だった。
「武器はわかるけど、携帯は電波が届かないだろ」
「大丈夫。特別仕様だから。それに、これはレイを最初に救った人達がいる場所に繋がってる。
助ける人数は多い方がいい。
万が一、億が一にもお前の声が届かなかったらその人達に助けを求めろ」
「あぁ、なるほど。わかった。それじゃ、改めて行ってきます」
受け取って、ミコトは
その背に、父親の優しい声が届く。
「あぁ、行ってらっしゃい」
ヒラヒラと手を振ってその声に応え、ミコトは店の地下倉庫に降りていく。
そこには転移用の魔法陣があるのだ、術式を少し弄ればそれこそ何処にだって行ける魔法陣があるのだ。




