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「へぇ、それが魔法か」
金棒で魔法を殴って防ぎながら、オオグの体を乗っ取ったソレは呟いた。
「妖術の類だとは思ったが、西洋のモノを子供向けの物語に登場させたやつに似ているな」
「なんの話だ?」
「気にするなこっちの話だ。
それよりクリスマス、だったか?
お前の名前」
「イヴリースだ」
「あぁ、そうそうイヴリース。凄いな、お前。
誰かもわからない奴に名前名乗るなんて。
個人情報は、大切にしろよ【イヴリース】」
意味ありげにオオグが言うと、イヴリースの動きが止まった。
まるで、見えない何かに拘束されたかのようだ。
「な? こんな簡単に動きを止められるんだ。
一つ、賢くなったな?
まぁ、でもまさかこんな方法がこっちでも使えるなんてな。
少し驚いた」
そして、本来のオオグでは決して浮かべない、ニタァという笑いを浮かべるとイヴリースの頭へ思いっきり金棒を叩きつけた。
首の骨が折れ、頭がひしゃげる音がした。
金棒を、彼は引っ込めた。
落ちない。
普通なら死ぬはずの状態なのに、死んで落下しているはずなのに、イヴリースは落ちることなくそのまま同じ場所に留まっている。
「ふむ、やっぱり俺と同じ化け物だな。これくらいじゃ死なないか」
オオグが言った直後、イヴリースの再生が始まった。
その光景を下から見ていたユウヤは、あまりにグロテスクな展開に、思わずカエルが引き潰された時のような声を漏らした。
「うげ」
逃げようと思えば逃げられるだろう。
でも、逃げたところで何が変わるわけじゃない。
問題を先延ばしにするだけだ。
それがわかっているから、ユウヤは動けずにいた。
何故こんなことになったのか、頭が追いついていかない、というのもあったが見なければならない、と思ったのだ。
脳裏にそれは声として、ユウヤに囁いてきた。
自分の考えが、声として聞こえたのだ。
見なければ、最後までこの成り行きを見続けなけらばならない、と。
どんどんイヴリースは再生していく。
オオグは手を出す気は無いようだ。
と、再生が終わったイヴリースの視界に、目的の人物が映った。
眼前の男と遊ぶことになり、意識から外れていた存在。
あの存在へ復讐しなければならない、とイヴリースは強く感じた。
「そこか」
興味の対象がオオグからユウヤへ移ってしまう。
いきなりユウヤに向かって勢いよく降下していくイヴリースへ、オオグがきょとんとしてしまう。
「おいおい、先約はそっちかよ」
オオグが呟くのと、あっという間にユウヤの目の前まで迫ったイヴリースが彼を殺そうとその腕を振るったのは同時だった。
ユウヤはユウヤで、いきなり目の前まで距離を詰められたことに驚いた。
何も出来ない。
そんな暇が無かった。
「お前を、殺す」
ユウヤの瞳は映した。
イヴリースの手に、死が宿るのを。
そして、理解する。
この手に貫かれて死んでしまうのだ、と。
逃げようとするが、体が動かない。
怖くて、死が怖くて。
ユウヤは瞳を閉じて、来るであろう衝撃と痛みを待った。
しかし、打撃音、のようなものが聴こえただけでいつまで経っても、衝撃も痛みも、そして、死も訪れない。
恐る恐る、ユウヤが瞳を開けるとそこには初めて見る背中があった。
それは少年のようにも、青年のようにも見えた。
黒に近い、紺青の髪の少年だった。
「え?」
ユウヤが事態を把握しきれずに、呟いた瞬間。
紺青の髪の彼が振り返ったかと思うと、
「邪魔」
そんな呟きと共に思いっきり蹴飛ばされてしまった。
転がって、近くの木にぶつかる。
蹴られた箇所を擦りながら見れば、紺青の少年は鞘に収まったままの刀でイヴリースの拳を受け止めていた。
その刀に、ユウヤは見覚えがあった。
魔王城からの刺客を薙ぎ払った、ジュリが持っていた刀だ。
「ジュリ、さ」
すべて言いきる前に、ユウヤは気絶してしまった。




