19
力と力がぶつかりあって、その衝撃で木々が揺れる。
地面が抉れる。
ユウヤは何も出来なかった。
ただ、そんな光景を見ているしか出来なかった。
オオグじゃない何かと、褐色の肌の青年のぶつかりあいを見ているしかできない。
と、そこで、今度は褐色の肌の青年に何かがダブって見えた。
それは、影ではない。
見覚えのある顔立ちが、ぼやけて見えた気がした。
「リーダー?」
ユウヤを、理不尽な理由と暴力によって追い出した男の面差しが見えたのだ。
オオグとは違うが、何かしらに乗っ取られたのだろうか。
わからない。
今目の前で起こっていることは、完全にユウヤの理解の範疇を超えつつあった。
と、そこで思い出す。
「そうだ! ジュリさんに貰ったビー玉!!」
どうして忘れていたのか、悔やまれる。
しかし、いまはそんなことを気にしている場合ではなかった。
オオグは、オオグでは無くなった。
そして、彼の相対している存在のこともある。
この事態をなんとかできる希望は、これしかなかった。
ユウヤは、思いっきりビー玉を叩き割った。
すると、目の前の空間が歪んで、このビー玉をくれた人物が現れた。
「ふむ、君は中々気遣いができるみたいで良かったよ。
それで、なにがあった?」
「それが、それがっ!」
ユウヤはジュリに何が起きたのか捲し立てた。
そして、ナチの死体を指差した。
ジュリは、そちらに歩み寄る。そして、手を合わせた。
それから、戦う場を空に移したオオグ達を見た。
「なるほど、地雷を踏み抜いたわけか。
この子の事も知ってるよ。
とりあえず、あの二人をって、ん?」
ジュリは違和感に気づいた。
自分の手のひらを見つめる。
ノイズの入った映像のように、消え始めたのだ。
「ユウヤさん、悪いけどダメだわ。
でも、信じて待ってて!」
「え?」
ユウヤが返した直後、ジュリの姿が完全に消えた。
「嘘だろ」
呆然とユウヤは呟いた。
天使がクスクスと笑う。
「あぁ、なるほど、やはり禁忌に触れていたか」
どこか満足そうに、天使は言った。
ニンゲンは簡単に。
そう、それはもう簡単すぎるほど簡単に一線を越えてしまう。
たとえば、蛇の甘言。
たとえば、嫉妬からの殺意。
たとえば、他者への愛。
そして、好奇心。
たったそれだけ。
興味を持つ、感情を覚える。
それだけ。
たったそれだけなのだ。
それだけでニンゲンは呆気なく禁忌をおかす。
そして、他者への愛を持てば持つほど、執着すればするほどにニンゲンは狂っていく。
「死者の国のモノを収穫した、のだろうな」
彼の犯した禁忌。
触れてはいけないものに触れたのだ。
おそらくそこには、甘い誘惑があったのだろう。
天使や、まして神ですら手出しが出来ない場所。
特別な場所。
それが死者の国だ。
死者の世界で、彼は禁忌に触れた。
禁忌をおかした。
だからこそ、面白いと思う。
だからこそ、楽しいと思う。
「だからこそ、ニンゲンは侮れない」
と、そこで天使は世界の揺らめきを感じて空を見上げた。
満天の星空が広がっている。
一見しただけでは、普通の星空だ。
綺麗に見えるかどうか、あるいは見えている星の違いはあるだろうが、そこには普通の星空が広がっている。
「さて、今度は何が起こる?
今度は、何が現れる?
異界の神か? それともまた魔神か?」
その疑問に答える者はいない。




