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天使は、言った。
「よし、異物の理性を壊してみよう!
きっと、もっともっと面白くなるはずだよ」
イヴリースは首を傾げる。
「なんの話だ?」
「ん? この世界をもっと楽しく、面白い方向に導こうと思ってね」
天使はその美しい顔を、笑みに変える。
そして、続けた。
「この世界には色んな、本当に様々な種族がいる。
竜人、森人、鬼人、獣人、そして、ニンゲンだ。
あぁ、稀に現れる変異体のことを神人、英雄、勇者なんて呼び方もするっけ。あと、そうそう、魔人。魔族なんて呼ばれ方をしているね。
この中で一番下等なのはどの種族だと思う?」
「ニンゲン」
「正解!
うん、思ったよりイヴリースは優秀だ。
そう、魔族のことを毛嫌いしているニンゲン。
そして、魔族も嫌っているニンゲン。
変異体を除いて、ニンゲンの大多数は弱い。
魔族や竜人、鬼人のような強靭な肉体は持っていない。
森人のような長寿でも不老でもない。魔力も弱い。
でも、この世界で一番侮れないのは他でもない、ニンゲンなんだ。
いや、この世界だけじゃない。
他の世界でもそう。
ニンゲンは罪にまみれて、弱く、そして愚かしい存在だ。
でも、彼らは絶対に滅びない。
仮に世界が終わっても、また現れる。
それこそ、雑草のようにね。
そして、ニンゲンはあまりにも愚かで、すぐに狂ってしまう。
愛に狂ってしまう。
壊れるのが先か、狂うのが先が。
ただ、彼の場合は既に壊れている。
心が、壊れている」
まるで歌をうたうように、天使はそう言った。
「だからこそ、とても興味がある。
たとえば、彼が愛している存在を壊して殺してめちゃくちゃにしたらどうなるのか?
特別枠を粉々にしたらどうなるのか?
すでに心は壊れていて、それでも最後の糸で理性が残っている。
その理性を壊したらどうなるのか?
とても、興味がある」
そして、二人はそこへやってきた。
満天の星空の下、火が見えた。
森の中で、燃やされている焚き火だ。
とても楽しそうな声が聞こえてくる。
「彼らだ。君の復讐相手もいる。
さぁ、遊んでくるといい。
あぁ、そうだ、こういう勝負はフェアでないと、いいや、最初は魔王が蹂躙するのが常だ」
天使はそんなことを言ったかと思うとパチンっと、指を鳴らした。
たったそれだけだ。
しかし、世界は何も変わらなかった。
「何をした?」
イヴリースの疑問に、天使はやはり美しく微笑した。
そして、
「ん? いや、狡が出来ないように舞台を設定したんだ。
勇者だった頃の君も、この条件でなら勝てたかもしれない。
でもそれは過去の話だ」
そんな事を言いながら、天使は異物の片割れ、帽子を被った少女を見つめた。
イヴリースが殺そうと、強襲する。
それを楽しそうに眺めながら天使は呟く。
「何より、壊れて狂ってそして禁忌に触れる。
ニンゲンは呆気なく、簡単に、禁忌に触れる。
それがたまらなく愛おしいんだ。
ほんと、造物主には感謝しかないよ。
さぁ、彼は狂うかな?
狂ってくれるかな?」
天使の視線の先で、少しの抵抗の後、戸惑いがあった直後、異物の片割れの首が体から離れた。
それはもう、本当に呆気ないほど簡単に、帽子を被った少女はその命を散らしたのだった。
***
ガッシャン!
「おや」
とある喫茶店の店長は、落ちて割れたガラスのグラスを見た。
「…………ミコト、箒とちりとりと、掃除機持ってきてー」
店の手伝いをしていた長男を呼びつける。
長男ーーミコトは、音が聞こえた時点ですでに動いていた。
「お、ありがとう」
「…………父さん、それ」
「馬鹿弟子達の専用グラス。新しいの買わなきゃなー」
「…………割れたんだ。と言うか割れるんだ」
「不吉だなー」
言いながら割れて、欠片になったそれを掃きとって掃除機をかける。
「やっかいなことに巻き込まれてなければ良いけど」
ミコトが呟いた。
それが聞こえていたらしい。
掃除機をかけ終えると、店主は息子を振り返って言った。
「弟のことが心配か? お兄ちゃん?」
「家族を大切にしろって育てたのは、父さんじゃん」
「ま、そうなんだけどさ」
「アイツを養子にしたのも父さんじゃん」
「…………いや、だってさー、リオちゃん以上に危なっかしいからさー。
少しでもなんつーの? 楔というか鎖で繋いで置かないとかなーって」
そう店主が言った時、彼の携帯端末が震えた。
出ると、わりと最近常連になった同郷の女性ーージュリの相方である神族の少女、アルズフォルトの焦った声が響いてきた。




