16
一つの、大きな国が滅んだ。
とても大きな国だ。
これから、世界の中心になったであろう国。
だと言うのに。
「不気味なくらい、普通」
廃墟となった国。
たった一日、いや、数分の出来事だった。
大きな力が膨れ上がって、消えた。
たったそれだけ。
そのほんの数分の出来事で、国が滅んだ。
それは、大事件だ。
本当なら、他国が調査に乗り出したり、領土の問題で国同士の喧嘩が起こるかもしれないほどの、大事件だ。
しかし、世界は平和だった。
昨日までと何も変わらない。
思えば、数週間前に魔王が討伐される前後と、本当に何も変わらないくらい普通だ。
あまりにも、普通すぎる時間が流れている。
「勇者さんはタンパクだね~。もうちょい何かないの?」
「わ~、こわぁい、お化けがでそう。
面倒臭いし、昼寝したいから帰る~」
勇者と呼ばれた少女は、廃墟を見回した後、棒読みでそんなことを言った。
「寝言は寝てからどーぞ」
「勇者勇者言うけどさー、自分落ちこぼれよ?
運もないし?」
なにせ、現代の魔王を倒すことは叶わず、ただ新人勇者の称号だけが残ってしまったのだ。
その魔王を倒したのは、あのいけ好かない幼馴染みかと思いきや、里の出身でもない、見知らぬ女性だった。
幼馴染みの方は、なにか犯罪を犯して賞金首になり、処刑されたはずだった。
そう、いま、彼女たちが足を踏み入れた広場で。
「……本当なら、勇者さんは運命に出会うはずだった」
勇者である少女へ、同い年くらいの聖女はそう答えた。
「運命、運命ね。でも、そんなのただの占いでしょ」
聖女はそこで、悔しそうに首を振った。
「違う、決定事項だった。
それを、あの男が歪めた」
あの男ーー幼馴染みのことだ。
「でも、その歪みはもっと禍々しいモノを呼び寄せた」
「禍々しいモノ?
邪神?」
「わからない。でも、とても気持ち悪い存在。
生きてるのに、死んでる。
ヒトの形をしてるけど、うん、なんて言うのかな?
心が、ない」
「心が無いと何か問題があるの?」
「違う。心はあるけど中身がない。
それこそ、化け物。
そう、化け物」
「化け物、ね」
「その化け物が、勇者さんの運命と一緒にいる」
「それが何か問題なの?」
「この世界を救うには、勇者さんは運命と出会わなければならない」
「いや、別に世界を救う気なんてないし。
そういう救世主は他の誰かがやるよ。
あとさー、その勇者さんって言うのやめて欲しいな。
だって、里出身なら誰でも勇者さんでしょ?
名前で呼んでよ、名前で」
勇者の言葉に聖女ーーエリシアは続けた。
「……リリアさんは、運命に会わなければならない。
化け物から運命をーーユウヤさんを救い出さなきゃならない。
彼のこれから持つ能力、【神々の双眸】は絶対に誰にも渡しちゃいけない。
あれは、この世界に必要だから。
でも、あの男はそんなこと知らなかった。
ただ、貴女を出し抜くためだけに全てを歪めてしまった」
「……さてさて、化け物はどっちだろうね?」
エリシアへ、リリアは唐突にそんなことを言った。
「これだけの大きな国が滅んだのに、世界は何も変わらない。
魔王が倒されて以来、それこそ平和、平穏。
これだけの大きな国が、いきなり消えたのに、誰もそのことを騒がない。
まるで、最初からそうであったかのように。
誰も、不思議におもわない。
怖くない?
見える化け物より、見えない不気味の方が怖いと思うけど」
そして、こう呟いた。
「いま、この世界で何が起きてる?」




