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 一つの、大きな国が滅んだ。

 とても大きな国だ。

 これから、世界の中心になったであろう国。

 だと言うのに。


 「不気味なくらい、普通」


 廃墟となった国。

 たった一日、いや、数分の出来事だった。

 大きな力が膨れ上がって、消えた。

 

 たったそれだけ。


 そのほんの数分の出来事で、国が滅んだ。

 それは、大事件だ。

 本当なら、他国が調査に乗り出したり、領土の問題で国同士の喧嘩が起こるかもしれないほどの、大事件だ。

 しかし、世界は平和だった。

 昨日までと何も変わらない。

 思えば、数週間前に魔王が討伐される前後と、本当に何も変わらないくらい普通だ。


 あまりにも、普通すぎる時間が流れている。


 「勇者さんはタンパクだね~。もうちょい何かないの?」


 「わ~、こわぁい、お化けがでそう。

 面倒臭いし、昼寝したいから帰る~」


 勇者と呼ばれた少女は、廃墟を見回した後、棒読みでそんなことを言った。


 「寝言は寝てからどーぞ」


 「勇者勇者言うけどさー、自分落ちこぼれよ?

 運もないし?」


 なにせ、現代の魔王を倒すことは叶わず、ただ新人勇者の称号だけが残ってしまったのだ。

 その魔王を倒したのは、あのいけ好かない幼馴染みかと思いきや、里の出身でもない、見知らぬ女性だった。

 幼馴染みの方は、なにか犯罪を犯して賞金首になり、処刑されたはずだった。

 そう、いま、彼女たちが足を踏み入れた広場で。


 「……本当なら、勇者さんは運命に出会うはずだった」

 

 勇者である少女へ、同い年くらいの聖女はそう答えた。


 「運命、運命ね。でも、そんなのただの占いでしょ」


 聖女はそこで、悔しそうに首を振った。


 「違う、決定事項だった。

 それを、あの男が歪めた」


 あの男ーー幼馴染みのことだ。


 「でも、その歪みはもっと禍々しいモノを呼び寄せた」


 「禍々しいモノ?

 邪神?」


 「わからない。でも、とても気持ち悪い存在。

 生きてるのに、死んでる。

 ヒトの形をしてるけど、うん、なんて言うのかな?

 心が、ない」


 「心が無いと何か問題があるの?」


 「違う。心はあるけど中身がない。

 それこそ、化け物。

 そう、化け物」


 「化け物、ね」


 「その化け物が、勇者さんの運命と一緒にいる」


 「それが何か問題なの?」


 「この世界を救うには、勇者さんは運命と出会わなければならない」


 「いや、別に世界を救う気なんてないし。

 そういう救世主(ヒーロー)は他の誰かがやるよ。

 あとさー、その勇者さんって言うのやめて欲しいな。

 だって、里出身なら誰でも勇者さんでしょ?

 名前で呼んでよ、名前で」


 勇者の言葉に聖女ーーエリシアは続けた。


 「……リリアさんは、運命に会わなければならない。

 化け物から運命をーーユウヤさんを救い出さなきゃならない。

 彼のこれから持つ能力、【神々の双眸】は絶対に誰にも渡しちゃいけない。

 あれは、この世界に必要だから。

 でも、あの男はそんなこと知らなかった。

 ただ、貴女を出し抜くためだけに全てを歪めてしまった」


 「……さてさて、化け物はどっちだろうね?」


 エリシアへ、リリアは唐突にそんなことを言った。


 「これだけの大きな国が滅んだのに、世界は何も変わらない。

 魔王が倒されて以来、それこそ平和、平穏。

 これだけの大きな国が、いきなり消えたのに、誰もそのことを騒がない。

 まるで、最初からそうであったかのように。

 誰も、不思議におもわない。

 怖くない?

 見える化け物より、見えない不気味の方が怖いと思うけど」


 そして、こう呟いた。


 「いま、この世界で何が起きてる?」 

 

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