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 ーーこんな堕ち方をした勇者は、初めてだーー


 処刑場。

 殺せ、殺せと声が響く中。

 今まさに首を落とされようとした元勇者に、その声は届いた。


 ーー勇者、いや、元勇者。復讐したくはないか?

 その憎悪と怒りをぶちまけたくはないか?ーー


 目隠しをされ、処刑人が大きな斧を振るい上げる。

 その瞬間、猿轡されていてもなお、元勇者は叫んだ。

 叫ぼうとした。

 その声はくぐもって、観衆には聴こえない。

 これだけの騒ぎなのだ、そもそも聴こえるはずもない。


 ーーふふ。あはは。いいよ。君に力を与えようーー


 

 復讐したい。

 それには力がいる。

 より強い、力が欲しい。


 あの、オオグとかいう少女よりも強い力。

 あの、ジュリとかいう女よりも、なお強い力。


 全てを蹂躙して、世界そのものを屈服させることのできる力が欲しい。


 その力でアイツを、アイツらを殺してやる。


 自分以上に貶めて辱めて殺してやる。

 ユウヤとその仲間たちを殺してやる。

 その元勇者の感情は、声の主にとってとても甘い、まるで極上のそれこそ神々の世界にあるという酒のようだ。


 斧が振り下ろされる。

 斧が振り下ろされる。

 

 と、その斧が弾かれてしまう。

 黒い稲妻が元勇者を中心に巻き起こる。

 処刑人も国主も、観衆もなにもかもを巻き込んで、黒い稲妻はその命を喰らっていく。

 並んで処刑を待っていたかつての仲間の女達の命も喰らう。


 怒号が響く。

 怒号が響く。


 悲鳴が上がる。

 悲鳴が上がる。


 そして、やがてその広場の命を全て喰らい尽くして、()()は産まれた。

 

 この世の終わりなんじゃないかと言う、耳が痛いほどの静寂の中、()()は生まれ落ちた。

 生まれ落ちた()()には名前が無かった。

 あるのは、憎悪と殺意。

 それだけ、ただ、それだけ。

 ()()は白髪の髪に金色の瞳、褐色の肌をした、ところどころ破けた囚人服を纏った青年の姿をしている。

 勇者の面影もあった。


 「やぁ、おはよう。いや、ハッピーバースデーと言うべきかな?」


 まだ名前のない()()に、声を掛けるモノがいた。


 純白の衣に身を包んだ美しい女性だった。

 ウェーブのかかった金色の長髪に、蒼天の瞳。

 頭上には光輪、その背には一対の白い翼。

 もしも、ここに生きている者がいたなら、こう口にしたであろう。


 【御使い】と。


 もしくは天からの使い、【天使】と呼ばれる存在に、女性は酷似していた。


 「…………」


 「あぁ、名前がないから存在が曖昧なのか。

 そうだなぁ、いくつか候補があるけど、さてどうするかな」


 しばらく考えたあと、天使は()()に名前を与えた。


 「よし、勇者から産まれた新たな魔族の王。

 お前の名前はーーイヴリースだ」


 イヴリースは、天使を見た。

 そして、口を開いた。


 「お前は誰だ?」


 「ん? そうだなぁ。かつては君と同じ魔族と呼ばれたこともあったし。

 神様、天使、御使い。悪魔、魔神、魔王。

 さて、君はなんて呼ぶのかな?

 この私を、なんて呼ぶのかな?

 好きに呼んでくれていいよ。

 新しい世界。新しい時代の幕開けだ。

 この私を楽しませてくれ、イヴリース。


 次の千年、私を飽きさせないでくれよ、魔王(イヴリース)


 これからの千年、そのハジマリはより楽しいものになるはずだ。

 なにせ、今までに無かったものがこの世界に入り込んだのだから。

 異世界から来たニンゲン達。

 それも、召喚されたのではなく自ら来たのだ。


 「まずは、君の好敵手候補に挨拶に行こうか」


 天使の言葉に、イヴリースは首をかしげた。

 それを見て、天使は言い直した。


 「いや、今はまだ復讐相手だったかな?」




***



 その日、呆気なく一つの時代が終わったのです。

 

 そして、新しい時代が人知れず始まりました。


 そのハジマリは、憎悪と殺意と復讐からでした。


 新しい魔王が生まれました。


 新しい時代の幕開けとともに、新しい魔王が生まれました。


 そして、異世界からやってきた異物達を巻き込んで、やがてその世界はとても騒がしくなっていくのでした。




 「めでたしめでたし?」


 幼い女の子の声に、大人の男の声が応える。


 「まさか」


 声の主である女の子の赤い髪を指で優しく梳きながら、父親である男は続けた。


 「続きは、また明日だ」


 「えー!!」 


 「ほら寝た寝た。明日は母さんのお見舞いに行くんだからな」


 「ブーブー!ブーブー!」


 「お、赤い豚なんて珍しい!」


 「むー! レジナ豚じゃないもん! 豚みたいに美味しくないもん! お父さんの意地悪!!」


 「はいはい、じゃレジナは明日留守番な。

 お医者さんが、明日は母さんお出かけしてもいいよーって許可出たから、父さんと二人で遊んでくるかー。

 まぁ、仕方ないよなー。【レジナ】は言う事聞かない悪い子だもんな」


 「…………」


 「いい子の名前はなんて言うんだったかなぁ」


 「アストラは、いい子だもん」


 「そっか、じゃあいい子ならもう寝ような。

 おやすみ【アストライア】」

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