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「おっすー!」
ユウヤが元勇者パーティにいた頃支援を受けていた国。
その国から気ままな旅に出て数日後。
ユウヤは、オオグに観光ガイドを頼まれたこともあり、魔王討伐の時は通り過ぎたり、ただ滞在するだけというのが普通だった。
観光なんて頭には無かった。観光をする余裕も無かった。
つまり、ユウヤもそこまでーーガイドをするような知識なんて無いのだ。
オオグの提案したガイドとと言うのは、つまりは大義名分、いや、建前みたいなものなのだろう。
国境付近にある温泉が有名な町、アーミントの片隅にある喫茶店。
そこでお茶と食事をしている時に、その少女は現れた。
動きやすさを重視した旅装束。頭には鳥打帽を被っている。
健康的に焼けた小麦色の肌が印象的な少女である。
肩からは少し大きめなショルダーバッグを斜めに下げていた。
「よっ!」
オオグも片手を上げて返す。
「久しぶり、レイ」
レイ、と言うのはオオグの事だろう。
と、言うことはオオグ・レイか、レイ・オオグというのが彼の本名なのだろうか?
苦いのはあまり得意では無いので、甘いホットミルクをちびちび飲みながらユウヤはオオグから少女の紹介をされた。
「ユウヤ、こいつはナチ。
俺のサバイバル仲間で、色々教えてくれた先生だ」
「まぁ、馬鹿仲間ってことでよろしくユウヤ」
そうして手を差し出してくる。
「あ、こちらこそよろしく」
軽い握手を交わして、ナチはオオグの隣りに座った。
メニューを見て、軽食にサンドイッチとジュースを頼む。
「ありがとなー」
隣に座ったナチへ、オオグがそんなことを言った。
「いいよ。いいよ。お前のお陰でこっちもいい汁吸えてるし。お陰で長期休みも、バイト減らしてこうしてのんびり出来るわけだし」
「えっと、学生さん?」
「そ、去年まで専門行ってて、今年から大学生やってる」
「その、歳は?」
「ん? 俺? 19だよ。
飛び級もしたからさ、高等部は15歳で卒業出来たし。
ただ、専門は飛び級制度が無くてみっちり三年間勉強したけど」
ということは、オオグと同じ位である。
「お前も資格取って、大学受ければ良かったのになー。そしたら、他にも仲間が出来ただろ?」
ナチはそんなことをオオグへ言った。
「俺、勉強嫌いだし」
そもそも、オオグは資格取得に興味が無さそうに見えた。
「つーかさ、お前彼氏くらい出来たのか?」
「アッハッハッハッハッ。
喧嘩売ってる?」
オオグの返しに盛大に笑って、ナチは言った。
「…………」
こんなふうに話してはいるが、油断は出来ない。
なぜなら、ジュリやエステルですら、あんなだったのだ。
このナチという少女も、ひょっとしたら蹴りだけで魔王とかをひき肉にしてしまうくらい強いのかもしれない。
「でもひっさしぶりだからさー。道具も色々集めてきたさ。
普通のカバンには入りきらなかったから、お前からもらった四次元カバンに突っ込んできた。
後で、確認な」
「了解」
と、そこで、彼女が注文した料理が運ばれてきた。
おいしそうに、そして、豪快にナチはサンドイッチにかぶりつく。
その光景を、少し離れた席で観察している者がいた。
元勇者パーティの面々である。
一応、魔王を倒し元勇者に成り代わった黒髪の女や、ユウヤの能力もそうだが、その他の仲間を警戒して気配を消していた。
彼、彼女らの目に映るのは憎悪だった。
自分達を貶め、犯罪者に仕立てあげた張本人。
本来なら、ああやって笑いあっているのは自分達だったはずなのだ。
それを、ユウヤは下らない被害妄想で台無しにしたのだ。
せめて一矢報いなければならない。
そして、ユウヤ達の不正を明るみにしなければならない。
観察していてわかったことがある。
ユウヤの戦闘能力は、そんなに変わっていない。
能力ーースキルの使用も街中では無効にしているようだ。
つまり、たとえばだ。
あくまで、たとえばの話だが。
例えば、今の状態でユウヤにぶつかりに行って、ナイフで刺そうとしてもきっと気づかれない。
そう、ユウヤにはきっと気づかれない。
しかし、厄介なのはあの茶髪の少女だ。
レイとかオオグとか呼ばれている、少女。
彼らに成り代わっただけはあり、実力は計り知れない。
隙があるようで無いのだ。
いまさっき合流した少女、ナチと呼ばれている彼女は、見たところユウヤより弱そうな感じである。
どこにでもいる一般人のように見えた。
警戒すべき黒髪の女ーージュリと桃色の髪の少女ーーエステルはユウヤの元から離れたらしい。
なら、あのオオグという少女さえなんとかすれば復讐は果たされる。
元勇者パーティの面々は、もういいだろう、と席を立つ。
そして、堂々とユウヤ達が座る席を通り過ぎた。
ユウヤもそうだが、オオグも彼らに気づくことはなかった。
通り過ぎる時、元勇者が少しだけ嘲るような視線をユウヤ達へ向けた。
と、その時。
ふっ、とサンドイッチを美味しそうに食べているナチと、元勇者の目があった。
しかし、それは一瞬ですぐにナチはサンドイッチに集中する。
これは、べつによくあることだ。
なんとなく、見た先にいた他人と視線が合って逸らす。
頻繁、とまではいかないが、そこまで珍しくもない出来事だ。




