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洞窟の中は、それなりに手が入っていた。
「ここは、あれだね。従業員用通路だ」
洞窟の中は等間隔で松明が焚かれ、それなりに歩きやすく整備されていたのだ。
「最近パワハラ問題で話題になった某夢の国も、見えないとこに従業員用通路があるらしいし。
あ、そういえば、ずっと不思議だったんだよねー」
キョロキョロと洞窟の中を興味深そうに観察しつつ進みながら、ジュリは言った。
それに答えたのは、エステルである。
「なにが?」
「魔族ってさー、悪って割になんて言うか見た目でイキってるやつ少ないというか」
「というと?」
「ほら、リーゼントだったり、奇抜なカラーリングしてたり、あとタトゥーいれてる魔族少ないなぁって」
不良や極道な人達と混同するのもどうかと思うが。
「タトゥーは、ファッションの1つだと思うんだけどねー。
それに遠山の金さん見てたからか、あんまりマイナスなイメージないし。
あ、でも元の世界でも色を入れてる人の方が少ないんだよね~。
黒は多いのに」
ジュリはやはり、ユウヤと同郷のようだ。
ユウヤ達のことは、気にせずにジュリとエステルは話し続ける。
「必要がないんじゃね?」
「あるいは、それを流行らせれば知識チートで稼げると思うけどね」
「魔族相手に?」
「そ、魔族相手に。あと、こっちの世界だと法整備も未熟だから、やろうと思えばそれこそ化粧品やハンドクリームとかで貴族相手に荒稼ぎもできる」
「なんで化粧品?」
「安全性とかの問題が考えられてないから、そういったルールが曖昧。
元の世界だと薬事法に抵触するから許可取らないと販売できないんだけど、こっちなら例えばちょっとのお小遣い稼ぎのレベルの知識持ちが転移なり転生なりしてハンドメイドでハンドクリームとかを作ったら馬鹿みたいに売れると思うよ。
ただ、その後がこわいけど」
「何が怖いんだ?」
「いや、肌に合わなかったら荒れるでしょ」
「あ、そっか」
と、そこでエステルが立ち止まる。
同時にジュリの手を引っ張った。
「警戒しすぎでない?」
ジュリの呟きに、エステルは返す。
「巻き添え喰らうと面倒」
それによって、オオグとユウヤが先行する形になった。
数歩進んで、エステル達が遅れていることに気づいたユウヤがそちらを振り返った時。
げしっ!
思いっきり蹴飛ばされた。
そして、壁に激突する。
次の瞬間、ズンっという重たい響きが木霊した。
「おー、筋肉ムキムキ。
ああいうの相手にしたいんじゃないの?」
ジュリがエステルへ、どこか楽しげに言う。
洞窟の先では、オオグが、現れたサイクロプスの棍棒を片手で受け止めている所だった。
「いや、ユウヤのやつにあいつの変身を見せた方が良いかなと思って」
「変身? なにライダーとかみたいになるの?」
「そうそう」
ちなみにオオグは今はサバイバルではないため、ちゃんと服を着ている。
少し着古した、ジャージ姿である。
オオグは一度、サイクロプスと距離を取る。
そして、
「変身!」
ポーズなんぞをキメながら、変身した姿にジュリが条件反射で飛び蹴りを食らわせた。
現れいでたその姿は、ユウヤはもちろんジュリも初めて見るものだった。
股間には天狗の面。頭には馬の被り物。
それ以外は、裸である。
どう見ても見間違えのないほどに、変態である。
魔族と言われたら信じる程度には気持ち悪い外見である。
「馬面ビンビン仮面、久々だなぁ」
ただ、エステルだけが笑いながらそう呟いた。
一方、オオグはジュリの飛び蹴りによって派手に転んでしまう。
この展開に一番戸惑っているものがいた。
サイクロプスである。
え? なに? 攻撃していいの? 仲間割れ?
と、どう動いて良いのかわからずにオロオロしている。
「アホか!! 全裸ウサギよりタチ悪いもの見せんな!!
そもそも、お前そんなにチ〇コデカくないからって、天狗の鼻で盛るな!!」
そこで、ギロりっとジュリは今度はサイクロプスを睨む。
「あんたも何戸惑ってんの!!?
せっかくスキを相手が見せたんだから、そこを狙ってぶっ殺すくらいやれ!!
そもそも変身を律儀に待つな!
仕事しろ、仕事!!」
説教が始まったかと思ったら、戸惑うサイクロプスから棍棒を奪う。
瞬間、ほぼ木の幹のような棍棒をジュリはぶん回し、サイクロプスの頭を粉砕した。
「あー、たく、イライラする。仕事サボんなや」
「勇者にあるまじき言動だなぁ」
実に楽しげにエステルは言いながら、鼻血を出して倒れているユウヤを回収する。
もはや魔王城に侵入を試みる強盗である。




