罪からはそう簡単に逃げられませんよ~
とある世界の王国で貴族と一部の優秀な魔力をもった者が通う王国学園の卒業パーティが行われていた。
来賓者はこの国の王をはじめ隣国の王家も父兄として我が子の卒業を祝うために来賓席で温かいまなざしで式の進行をご覧になっている。
卒業生代表の挨拶、父兄の挨拶や学園長の挨拶、そして王の挨拶が終わると社交界の場と化した。
そしてパーティも終わりに差し掛かるころになると壇上に学園長と宰相があがった。
「パーティもお開きの時間となった。
諸君はこれをもって社会人となる。
ここで学んだことが今後の糧になっていることだろう。
諸君のこれからの一歩に幸あれ。
おめでとう!」
拍手と歓声が上がる。
「それともう一つ重大は発表がある。
では宰相様おねがいします。」
一瞬のうちに厳粛なムードとなった。
「みなさん、おめでとうございます。
そして国からも正式なお知らせがあります。
一か月後に第一王子が立太子となられます。
では王子からも挨拶をおねがいします。」
拍手に押されるように第一王子が壇上に上がると再度大きな歓声と拍手が起こる。
王子が会場を見渡しながら胸に片手を置きそれに答えた。
そして見はからうように片手をあげて歓声を鎮めさせた。
「皆さん、ありがとうございます。
現王にはまだまだ活躍をして頂くなかで少しでも近づけるよう日々見習い努力をする所存です。
そしてこれに伴い私の方からも発表をさせていただきたい。
ランドル公爵令嬢ナタリアとの婚約を発表するとともに婚姻は立太子の1か月後に行うことが決まりました。
彼女との婚約は子供のころから内定していたのだが王家とランドル公爵家のみの扱いとしていました。
彼女と二人まだまだ未熟ではありますが暖かい目で見ていただきたいと思います。
そしてこれでパーティはおわりです。
皆さんにも幸あらんことを願います」
歓声と一部悲鳴が聞こえていたがお祭りムードは変わらない。
だがただ一部は呆然としているものが居た。
「どうしてよ!なんで第一王子と婚約なのよ。意味わからない!
それになんでいじめられたことを訴えたのにあの女が幸せになってんのよ!
いじめられ損じゃないの!!許せない!!!」
ナタリア令嬢に詰め寄ってまくしたてたのはゲードル子爵令嬢だ。
確かにこの世界は乙女ゲームに酷似していてそのヒロインと同じ立場がこの人なのだが現実世界だと全く気が付いていない様子だ。
「申し訳ありませんが、あなたはどなたですか?
おっしゃっている意味が分かりませんが?
もし、いじめを受けて居るのでしたら学園の方に訴えたらよろしいのではないでしょうか?」
「何をしらじらしく言ってるのよ!
私が転入してからいたるところで友達を作らせないように仕向けていたじゃないの。
クラス内で無視させたり、トイレで水を掛けたり、階段からだって落としたじゃないの!
それにあることないこと先生に言ったりしてたじゃないの!」
「私あなたのことを存じ上げません。
飛び級して今年卒業のクラスになりましたけれどあなたの姿を見たことはありませんし、
私はここ3か月間は学園にも行っておりません。
もし気が付いていたらお力になれたと思いますが申し訳ございません。」
「ナタリア嬢、君が謝ることもなければかなりの言いがかりだ。
君は下がっていたほうがいい。」
「でもミハエル様、わた、「大丈夫ですよ、ね、兄上」」
「ナタリア、ここは俺たちに任せてくれたらいい。」
ナタリア令嬢をかばうようにアーサー第一王子と弟のミハエル第二王子がゲードル子爵令嬢の前に出た。
「アーサー様には何度も私お伝えしたではないですか。
ミハエル様もお聞きになってないのですか?
この方に、いえ、この方の取り巻きたちに質の悪い嫌がらせを受けていると。
どうしてそれなのに断罪されないのですか?
私のことなぜ守ってくれないのですか?」
目をウルウルとうるませながらアーサー王子に歩み寄りしなだれかかるが、それを軽く払いのけられる。
「君に名前で呼んでもいいとは許したことは一度もないし何度も注意したよね。
それよりなんでいじめの主犯がナタリアっていうんだ?
証拠を出せと言ったときに明確なものはなかったじゃないか?」
「それは。。。でもそれ以外に考えられないんです。」
「確かに君はいじめを受けて居たのは知っているし調べたよ。
でも本当の黒幕に踊らされていたのは君なんだよ。」
アーサーの言葉に驚いた表情を見せる子爵令嬢だが近寄ってくる王子の微笑みに頬を赤く染めたがすぐにそれは青白いものに変わる。
「でもね、前世で散々いじめて自殺に見せかけて殺しておいてさ、いじめられたからって騒ぐのっておかしいよね。
もっとえげつない事してたくせにもう少し痛い目見ないとわからないのかねいじめっこって」
ささやかれた言葉に放心状態になってしまった子爵令嬢。
追い打ちをかけるようにそのままアーサーは言葉を続ける。
「常にカーストをつくってトップに君臨していじめることで優越感に浸ってた人生だったようだけれど今世は君が罰を受けるんだよ。
カーストの底辺でね。」
立って居られなくなったゲードル子爵令嬢はその場にしりもちをついていた。
アーサーは支えることなく、ちらっと横目で見ると会場全体に響くように話し始めた。
「彼女は気分が悪いようだから控室に誰か連れて行ってくれないかな?
冤罪を着せようとした罰は受けてもらわなくちゃいけないから帰すわけにいかない。
ただ実際にいじめていた犯人も逃がすわけにはいかないんだ。
逃げようとしているがボルーナ侯爵令嬢。
あなたがいじめの主犯なのは調べてわかっている。
俺はねゲードル子爵令嬢から相談を受けて調べさせてたんだよ。
ナタリアを陥れようとしている犯人をね。」
「何をおっしゃっているのか王子ともあろうお方がどうされたのですか?
私がなぜナタリア様を陥れようなどとしなくてはならないのでしょうか?」
逃げようとしていたくせに開き直っている侯爵令嬢だ。
実際なぜこのようなことを起こそうとしたのかというのには疑問が残るところなのだが残念ながらアーサーは逃がさない。
「それが君の言っている通り動機は不明なのだが証拠があるんだよ。
学園は常に防犯システムを向上させているんだよ。
映像録画機が寮の各部屋以外すべて付いているんだ。
それと魔法を使うと履歴も残る。
そこまで言えばわかるよね。
君は階段から落とすように自分の執事に命令したことやトイレに閉じ込めたり泥水を掛けたりとまあ色々嫌がらせをしていたのは明白なんだ。」
会場中のざわつきが先ほどよりも大きくなった。
ボルーナ侯爵は真っ青になって倒れてしまい付き添っていた使用人に抱えられるように控室に運ばれた。
アーサーは真っ青になったボルーナ侯爵令嬢の隣に移ると先ほどと同じようにささやき始める。
「前世では取り巻きでいじめに加担してただけだったのに今度は自らが実行犯になるとはね。
やり方が姑息なところは前から変わってないようだ。
質が悪いね。
今世ではその分これから報いを受けてもらわないとね。」
驚きのあまり大きく見開いた目はアーサーに向けられているがほぼ焦点が合っておらずガタガタと体が震え始めていた。
にこやかに微笑みを浮かべるアーサーだが全く目だけはわらっていなかった。
「理由はこれからゆっくりと聞かせてもらうとして君にもしっかりと罪を償ってもらわなくちゃね。
歩けそうにないようだから誰か彼女を先ほどの令嬢と一緒の場所に連れて行っておいてくれないか?」
すぐにボルーナ侯爵令嬢は支えられてその場を後にした。
「皆さんの晴れの舞台を邪魔してしまって申し訳なく思いますがこれですべての問題が片付きました。
お時間を取らせてしまって申し訳ないが今日のこの出来事はどこでも起こりうることだし
魔がさして起こしてしまう人間もいるかもしれない。
だが必ず悪事はばれると肝に銘じてほしい。
ではこれでパーティはお開きとする。
本当に卒業生のみんなおめでとう」
アーサーが無難に締めくくり卒業パーティは無事に幕を下ろした。
だがここからが本番だ。
先ほどの令嬢たちは特別室という名の監禁部屋に連れていかれ互いを罵倒しあっている。
「なんであんたが私のことをいじめたりするのよ!意味わからないわ」
「はあ?身分をわきまえなさい。あなた平民上がりの子爵のくせに不敬に当たるわよ」
「何言ってるの?ここにいる以上あんたは罪人だってことなのをわかってないの?
絶対にあんたのことは許さないんだから」
「平民が何を言っても痛くもかゆくもないわよ。
本当に下品ね。。目障りなのよ全く。ただの駒だったはずなのになんでこんなことになったのかしら」
この状態を目にして呆れる気持ち半分にクズのままでありがとうという気持ちが半分のアーサーが二人に向かって話し出す。
「あんたらさ、前世の記憶があるんだろう?
下村真昼と加藤あおい。
なあ、いじめられる側ってどんな感じだったか?
さんざん罪もない奴をいじめてきて殺しておいてのうのうと生きてたあんたにはこれくらいは生ぬるいよな。
あんたは主犯じゃないが、一緒になってストレス解消してたんだよな。
まあ結局無難に人生は終えたようだが、殺人現場を見ておきながら黙っていたのは同罪だよな。
まあこの世界で少しはまともな人間になっていたなら何もする気はなかったが、
変わらずクズで良かったよ。
俺の手で始末できるからな!」
「どういうことよ!あんた!じゃあ松栄あやねなの??
王子に転生したってこと!!」
「ちょっと誤解よ、私は彼女にやらされてただけで私だって被害者だったんだから、
ほら、今回あなたの代わりに手を下していじめ返してあげたじゃないの。」
「ちょっとあんた!何言ってんのよ!だれが命令下っていうのよ、喜んでやったのはあんたでしょ!」
「はあ??仕切ってたくせに何言ってんの!!」
「うるさい、だまれ! 悪いが俺は彼女じゃない。
彼女は俺の幼馴染だった。
学校も違ったし、たまにあっても何も話してくれなかった。。。
でも調べたらすぐにわかったさ!
あんたらの親がもみ消したこともな!
悪いがお前らは同罪だ。
そしてこの世界でも罪を犯したんだからな。
魅了のスキルを使うのは大罪なんだよ。
国に申請しないだけでも禁錮刑でそれを貴族相手に使えば処刑と決まってる。
そして陰でこそこそいじめという名の傷害事件というより殺人未遂だな。
それに窃盗、器物破損、名誉棄損などいろいろありすぎてお前もこの国で十分罪を犯したからな。
二人とも処刑は免れないが簡単には殺さない。
死にたくなるほど辛いものだと覚悟しとけ!
それとこれ以上騒がれると迷惑だからこの後すぐ声を出せないようにして置く!
牢屋に連れていけ!」
すぐに魔法により声を奪い。そのまま地下牢に直行させた。
これで少しは彼女に対する罪滅ぼしができただろうか、、
あの世界では何も助けることができなかった。
元気のなくなる彼女に問い詰めても疲れているだけと言われるだけでそれ以上聞けなかった。
なんであの時と思うが、それは今となっては後の祭り。。
この世界に転生できた時は王子として自分のできることを国のために尽くそうと、それが贖罪だと思い勉学に励み公務も他の兄弟たちより励んだ。
そして12歳になった時に引き合わされた婚約者候補に彼女が居た。
ナタリア、、彼女も転生していた。
神様に感謝した!彼女に会えたこと、そして彼女だとわかる能力をもらえたこと。
俺には魂の情報が読み取れる能力があり、前世の情報を少しだけ覗ける。
その後侯爵家の方では娘の行いは親の責任だと爵位返上を申し出たがそれを拒否し、娘だけ籍から抹消し、なかったものとする手配をした。
この事で王子にいや、王家により強い忠誠を立ててくれたのはこちらとしてもよかったと思う。
子爵夫婦は娘の魅了のことは知っていたことが判明したのですぐに爵位、領地や資産を取り上げ、平民とした。
市井でなどで生きていけるわけがない。
まだ小さい子供たちは親とは縁を切る条件で子供のいない貴族の家庭に引き取られたり、性格に難ありは修道院行となった。
跡取りとなる大きな子供はいないため、ほぼ温情ということになる。
逸る気持ちでナタリアの待つ執務室に飛び込むと不安そうにこちらを見る彼女の姿があった。
「もう終わったよ、もう大丈夫!
何も心配することはないよ、これからもずっと俺がナタリアを守っていくからね。」
「そうですのね、でも私ばかり守られるのはダメですわ。
私もあなたのことを支えますね。
それにこの国のために、国民が幸せになるように私も微力ながら全力で頑張りますわ!
貴方の隣にいられるように」
ここにいる彼女は姿は変わっても志は何も変わっていない。
その後二人が国を治めるようになると市場は潤い、犯罪も減り、スラムと言われる地域は姿を消した。
同盟国はこの国の発展とともに潤い、周辺国で参加していない国からは狙われるようになるが逐一怪しい動きがあると国に被害が及ぶ前にその火種は消されていった。
3男2女の子供に恵まれ、それはそれは仲睦まじい王家が代々と続いたそうだ。
ちなみに二人の犯罪者は詳細は控えるとして声をあげることができないうえ、命を絶つこともできず30年以上も地下牢で処罰が行われていたという。
二人とも無駄に丈夫な体を持ったおかげで死ぬこともなく生き抜いたようだ。
本人たちは許してほしい、死なせてほしいと声を出せないまでも口で訴え、壁に文字を刻んだりしたが、
許されることはなく永遠と心臓が自然と停まるまで続けられたそうな。
因果応報、、、なのかもしれない。
なんとなく書いてしまったものです。
今更遅いですが、悪役令嬢系の話、まだまだチャレンジしたいな。。