ずっしり
健吾は斜め下を見ながら、それでもときどき顔をあげてわたしを見つめていた。
そうやっていままでのこと、本当にすきだったと、
ありがとうって気持ち、これからも一緒にいたかったこと
でももう、気持ちがもどらない。
ちょっとつらそうに、でもしっかりと言葉を連ねる。
わかる、わかってる、
だからことばにしないで
ことばにできるのは
終わってしまったことだけ。
わたしは顔をあげない、何もしゃべらない、なみだもでない。
「な、まゆ。なんか言って」
こんな「まゆ」にまでドキドキするとかどうかしてる。
それでもわたしは顔をあげた。
あと何回呼んでくれるかわからない「まゆ」をしっかりむねにしまって。
「やだ」
吐息といっしょにつぶやく
そうして目を、見てしまった
やさしいやさしい目
ずっと一緒にいようって、だいすきって、俺のものだって言ったでしょ
階段のキスも、雨の日の相合傘も、髪を耳にかけてくれる指も
すねたくちびるも、ちょっとくるっとしてるえりあしも
痛いくらい覚えている。
好きな食べ物 色 髪型
嫌いなことばに苦手な先生
なにも言わなくたって
あ、今日は疲れてるな
今日は寂しいんだな
わかるよ
だって2年も一緒にいたもの。
でも、それ以上何も言えなかった。
分かっちゃったんだもん
目に、わたしを見る目に、すきって気持ちがないこと。
それに気づかずに、
うそでしょ考え直してよ、わたしはこんなにこんなにだいすき
そうすがって泣けたらどんなに楽だろう。
でもわたしにはできない。
だって、2年も、2年も一緒にいた。
ことばにしていないときでも、あなたは目であんなにもすきって伝えてくれてたんだね。
「ま・・・」
「でも、だめなんでしょ?わたしがいやって言ってもだめなんだよね」
すき、
「・・・うん。もうかわいそうとしか思えない」
いたい、ことば。
本当はわかってる。
ここでわたしが泣けないから、健吾が離れるってこと。
一回も健吾の前で泣いたことない。
強がって強がって、いつもかっこつけて、かわいくなくて。
うん、わかってるよ。
それでもわたしは泣けないから。
黙り込んでしまったわたしを見ながら健吾は立ち上がる。
いつものくせで右手がわたしの頭をなでようとして、空をにぎりしめる。
「部活に、行くな」
それでもうつむくわたしに背をむける。
「っ・・・ばいばい!」
「ばいばい」
右手をあげるのが、目のはしにうつった。
彼は、健吾は、振り返らない。
扉がしまる音がして、でもわたしには自分の心臓の音のほうがうるさくて
思わずしゃがみこんで膝をぎゅっとかかえこんだ。
いまごろになって、なみだはとまらない。