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 桃太郎と鬼嫁!!   作者: ふじい やたく
5/16

桃太郎と犬?


 カーテンの隙間から朝の光が射しこみ、小鳥たちの囀りはまるで森の合唱団のように心地がいい……わけでもなく、部屋に幾多もある壁の穴から冷たい風とカラスのドスの利いた声で叩き起こされたのが現状である。

 桃山太郎の旅の二日目である。

 昨夜の話を整理するに、この村は『篝火村(かがりびむら)』という村らしく、魔獣が住み着く前は商人や旅人の休憩地点、いわく『宿町』みたいなものだという。村の男たちは狩りで生計をたて、女達は茶屋や娼婦として生計を立てていた。

 太郎が泊まったこの宿は実は娼婦宿だったのである。しかし、そんなことも太郎はしらず、のんきなままである。


 村の男共は自分の家族だけを連れて、魔獣から逃げるためにこの村を捨てた。魔獣の噂で旅人や商人はこの村に近づくことはなくなり、この『輪稚屋(わちや)』も客足が遠のき、今では残った身寄りのない女の隠れ家として使っているとの事だ。

 哀れな女達である。明日を約束した仲の女もこの中にいただろう。しかし、その約束は果たされず、取り残された『籠の鳥』である。


 「あっ、太郎さまおはようございます。 昨夜はよくお眠りになられましたか?」


 部屋を出ると女達はすでに起きていて、身支度を整え、朝の仕事をしていた。

 薪を切り、竹林に入り食材の調達。弓を手にとり狩りに出かける者もいる。

 本来なら男の仕事ではあるが、男がいないこの村では全て女の仕事になっている。


 「おはようございます。何か手伝いますよ」


 太郎は会う女達にそう言うが、皆は口を揃えて


 「いいえ! 太郎さまには魔獣退治がありますから!」


 と目を輝かせて言うのだった。


 朝食を済ませ、宿のお婆様に魔獣の出現情報を聞き、とりあえず調査に向かう事にした。しかし、太郎が一番驚いた事はこの村が自分の住まう村とさほど距離が離れていない事だった。けして一日中歩いてやっとの思いでたどり着くような場所ではなく、今からでも昼には辿りつける距離だった。

 片道三日。往復六日で元のニートに戻れると思っていた太郎は膝から崩れ落ちたのだった。


 しかし、漢『桃山 太郎』は女の涙を無碍にはしない! 一度決めたら貫きましょう最後まで! その本心は 『この世界で強靭な身体をもった異世界主人公』になりたかったからだとは誰にも言えない秘密である。


 篝火村を出る時には宿の女総出で太郎を見送った。その女達の目には淡い期待とどこか諦めの影を落としていた。

 太郎はその女達に背中の『天下無双』を指差し


 「天下無双の桃山太郎! 悪鬼羅刹のお調子者を成敗してくるであります!!」


 そう勇ましく言った太郎は後ろを振り返らずに村を出た。

 見送る者達はその姿を黄色い歓声で見送ったと云う。

 いうまでもないがこの時、太郎は顔を赤らめ自分の発言に改めて羞恥したという……。


      ・・・・・


 婆様に教わった道にそり、太郎は足を進めていた。

 竹やぶの中に光る竹なんか無いかな? なんて思いながら歩いているうちに最初の目撃情報の廃寺に着いた。

 その寺は魔獣の現れる遥か昔は『逢引寺』などと言われており、夜な夜な訳ありの男女が逢瀬を重ねたと云われている。ちなみにこの近くの『篝火村』が娼婦の村として旅人に高い人気があったのは、この寺の言い伝えがあったからなのも確かだった。

 もともと廃れていた寺だったので、誰も昼に足を運ぶ者などおらず、魔獣が出てからは誰も近づかなくなった。


 「ちわ~す……だれかいますか?」


 太郎はきしむ扉をゆっくりと開け、そのオンボロ寺に足を踏み入れた。

 時刻はまだ昼前で、お日様の光を遮る遮光物など何も無いのに、やけに暗い雰囲気の寺だった。それが廃寺だからしょうがないという無粋な意見は今はいらない。


 孤児院で育った太郎は夜の不気味なチャペルのようなものには多少の耐性はあるが、日本文化特有の『薄暗く、仄暗い』というのは苦手だった。

 腰の刀に手をかけ、自分に「アイキャンドゥイット」と呪い(まじない)をかけるように何度も復唱し部屋の中に入る。

 暗闇のなかよく目を凝らしてみてみると、部屋の片隅にボロボロの布団が置いてあった。

 太郎はゆっくりとその布団にふれた。


 「ん? まだ暖かい……近くに誰かいるのか?」


 急いで部屋を飛び出し、刀を抜いた。『っしゅ』という音に太郎は快感を覚えそうになりながら寺を一回り、そしてもう一回りしてみた。

 結果誰とも遭遇はしなかったが、地面には所々に『紫の毛』が落ちていた。


 「これは……」


 魔獣の毛であろうか、その毛はやけに張りがなく、軽く引っ張れば千切れてしまうほどの弱弱しい毛だった。

 とにかく、この近くに魔獣がいることが分かった太郎はひとまず寺に身をかくす事にした。ここが魔獣の寝床であるなら、必ずここに戻ってくると判断したからである。寝込みを襲えば楽勝じゃんっ! などとは一ミクロンも考えてはいない。 さすがは『天下無双』を背負った漢である。はいはい。かっこいいかっこいい。


 しかし、太郎はじっと何かを待つのが苦手である。ニートで気楽に自分の時間を使うのは得意だが、学校で早退をするために保健室で一時間寝かされるのが苦手なようなものだ。


 「うん。あきた。散歩しよう」


 薄暗い部屋から開放されて外に出ると、時刻はおそらく昼をすぎ、本来なら飯時である時間だった。しかし太郎の荷物にはあの『きびだんご』しかなかった……。勇気を振り絞り風呂敷に手を当てるが、どうしてか身体の震えは止まらない。あの一口で身体と心は完全にきびだんごを否定していた……。それでも食べるべきか食べないべきか四苦八苦をしていると、少し先の森の中で鼻歌が聞こえた


 「ふーふっふふふ、ふっふっふっふふぅ――」


 ダンディーな擦れた声で謡うその主は小さな橋の向こうに、ぼんやりと空を眺めて座っていた。

 姿形は『人』である。しかしどこか浮世離れした風貌はおそらく、その主の髪の色にあった。この村、いや、世界ではまず見た事のない淡い紫色だった。雨に滴る雫を優しく包む紫陽花のようなその髪色は、太郎が先ほど手にした髪と同一で間違いないだろう。

 太郎は咄嗟に木の陰に身を隠した。こんな魔獣で噂の村に一人で近づく人間など、度胸試しの阿呆か自殺志願者しかいない。しかし、その男にはどちらも当てはまらない感じが太郎にはしたのだった。

 雲の流れに時折り体を合わせ、ふらふらと左右に揺れるその姿は『犬』のようにも見えた。

 しばらく様子をうかがっていると、先に動いたのは紫髪の男だった。


 「……いつまでそうしてるんだ? 飽きないか? 暇なのか?」


 大きな溜息ひとつ男がつくと、面倒くさそうに立ち上がり太郎の隠れている木に向かって声をかけた。


 「……だれもいましぇん……かくれてましぇん」


 太郎は息を止めて無理がある隠蔽術を駆使した。


 「……んっもう! わかったよ! お前はいない。これでいいか? いいなら邪魔だからとっとと帰りな人間」


 「なんだよ……もうちょっと構ってくれてもいいじゃないか……」


 太郎はしぶしぶ木から姿を現すとブツブツと文句を言いながら橋に近づいた。男の隣に太郎も座り空を眺める。


 「なあアンタ。この近くに魔獣が出るのは知ってるか?」


 「……ああ知っているよ」


 「じゃあなんでこんな所に一人でいるんだ? 危ないぞ? 死ぬぞ? 暇なの?」


 男は少し眉間にしわをよせ、怪訝な表情で太郎を見た。


 「お前こそ一人ぼっちじゃないか。俺様に構ってないでとっとと帰れよ。邪魔なんだよ人間」


 「ほら、俺は『魔獣退治』に来たから、倒すまで帰れないんだよ」


 「……ほう……」


 「なあ。魔獣ってみんなアンタみたいに『人』のかたちなのかい?」


 「……」


 しばらくの沈黙が二人に流れる。太郎の胸の鼓動はしだいに早くなり、額には汗が滲む。今まで明るく元気に笑っていたお日様も『あわわわわ! もう見てられない!』と言わんばかりに雲に隠れた。


 「ふっ、ふはははは! 面白い。人間よ、何故俺が魔獣と気付きながら今だそこに座っておるのだ! さっさと下等な人間らしく逃げ回れ小童がぁ!」

 男は目を狼のように尖らせ、低い唸り声をあげて太郎を威嚇した。


 「えっ? ビンゴ!? まじ!? ビンゴか! いやぁ……違ってたら赤っ恥もんだったね! よかよか」


 そんな男の威嚇には動揺せず、己の山勘の的中にひどく喜んだ阿呆だった。そんな態度にさすがに魔獣は激怒し、尖った爪で太郎に襲い掛かる。


 「いやーよかったよか――てっ、あぶねぇっ! いきなりなにしやがる!」


 間一髪の動きで太郎は鋭利に尖った爪を避けた。


 「ほう、ただの阿呆ではないのだな。ならこれなら――!」


 太郎は腰の刀を抜き、素早く動き回りながら襲い掛かる魔獣の攻撃に勇ましく応戦した。素早い動きは目にも止まらぬ速度で、太郎は防御に徹するしかなかった。太郎にとっては初めての命がけの闘いである。今まで自分の力で命を奪ったのは『蚊』くらいしかない桃山太郎。そんな彼の目の前には殺さなければいけない命があった。

 しかし、なにぶん相手との力量の差は圧倒的だった。この世界に来て、強靭な肉体と浅はかな知恵は持ち合わせていても、実践と練習では訳が違った。

 幼いころより施設で『朝の運動』と称しての『軍事訓練』は受けていた太郎であるが、あくまで相手は人間を想定しての訓練だ。魔獣の相手など想定外の事態に太郎は己の浅はかさを呪った。


 「――簡単にみんな送り出してくれちゃって……めっちゃやばいやつじゃん、この戦い……」


 息をきらして体力ももう僅かにしかない太郎。体中は爪の傷跡だらけになっていた。地面に刀を突き刺し、体をやっとの思いで支えている太郎に魔獣は不敵に笑う。


 「しぶといやつめ……その根性に免じて命だけは助けてやる。 わかったらとっとと失せよ人間」


 魔獣の男は髪をかき上げ颯爽と立ち去ろうとした。


 「ま……待てよ……もう行くのか……つれないじゃないか……」


 太郎はその男の足にしがみつき、負けじと不敵な笑みを浮かべた。


 「っ――俺に気安く触れるな人間風情が!!」


 そう男は太郎に言い放つと痛烈な蹴りを太郎あびせた。太郎の体は吹き飛ばされ、先ほどまで隠れていた木にぶつかった。

 

 「……お師匠様から……きつく言われてる教えがあるんでね……『人と仏は信用するな。己の爪は隠しておけ』とね……意味なんか今だ分かっちゃいないが、一つだけ確かなことが分かったぜ。アンタ、もう詰んでるよ」


 太郎はふらふらな体を立て直し、まっすぐに魔獣を見つめた。


 魔獣は激怒し、体を震わせた。それに呼応するが如く木々は揺れ、どんよりとした雨雲が空を漂う。


 「遺言はそれだけか? せっかく拾った命を粗末にするなど、本当に哀れな生き物よ」


 魔獣の男は体に力を籠め、ひどく耳障りな唸り声をあげた。


 「人間よ。これで最後だ。痛みは感じなかろう。一瞬でかたをつけてくれる!」


 その美しい紫色の髪は男の全身をつたい、目と鼻は鋭く尖り、人間の腕は獣の足となり、肩から首がもう二つ現れ瞬く間に男は巨大な獣と化した。


 「うわ! 予想外すぎる! 『ケルベロス』ってありかよ!? 世界観ぶち壊しじゃねぇか! ……あっ、魔獣がいる時点で世界観もクソもないんだけどね……てか詰んだの俺じゃね?」


 太郎はさっきまでの勇ましさとはうって変わり、わなわなと焦りだしていた。


 「こわいよ~こわいよ~。首が三つだよぉ~」


 そんな感じにあたふたしていると、ついにケルベロスが動いた。大きな足を空高く掲げ、思い切り太郎にめがけて振り落とす。地面は大きく揺れ、先ほどまで架かっていた橋は大破した。

 下敷きになってしまった太郎だが、微かに致命傷は外し、今だしぶとく生き残っていた。しかし、魔獣に完全に取り押さえられ、持ち上げられた太郎には為すすべはなかった。愛刀も先ほどの風圧で飛ばされてしまった。もう武器は何も残されてはいなかった……


 (くっそぉ~……武器がなければ戦えねー……もうだめかぁ、かっこわるー……いや、ちょっとまて! あるじゃないか最終兵器!)



 「ふん。こざかしい人間め。これで終わりだ」


 魔獣は大きな口をあけ、太郎を飲み込もうとしていた。太郎絶体絶命の大ピンチである!!


 「ふっ、ふははははっ! 何をたわけた事を! アンタにさっき言ったはずだぜ? 『おまえはもう詰んでいる……』ってな!」


 太郎は威勢よく叫ぶと腰の風呂敷から『最終兵器』をだした! 魔獣は一瞬動きを止めた。この人間何をするつもりなのかと、少し様子をうかがっている。


 「愛と友情と不憫さを混ぜ合わせた俺の最終兵器! くらえ俺の魔球!『初恋の味(ブレイキング・ハーツ)!!』 残さず食べろよさっちゃんのお手製だ!」


 「うんぎゅ!!?」


 太郎は最後の力を振り絞り、その『きびだんご』を魔獣の口に投げ込んだ。きびだんごは魔獣の口の中で溶けていき、口内にあの苦味が伝うのが確認できる……。

 太郎は魔獣の手から抜け出すと、すかさず刀を手に取り魔獣に構えた。

 魔獣は今までこんなひどい味を味わったことなどないのか、この世の終わりといった目で泣いていた。その目はどこか太郎に助けを求めているようだった。


 「魔獣ケルベロスよ! もう悪さをしないと誓えるか! もうこの村の人々を襲わないと誓えるか!」


 太郎は魔獣にそう言い放つと魔獣は臭い口を必死に押さえながら、何度も頷いた。


         ・・・・・


 「空が泣いている……哀しい闘いだった……」


 太郎は静かに空を見上げ、闘いの哀しさ、無慈悲さに浸っていた……太郎は熱い闘いの中生き残ったのだった。魔獣にトドメを刺し、村の人々の危機を太郎が自らの手で救ったのだった。

 ……いや、厳密には少し違う。熱い闘いは一方的な殴り合いで、魔獣にトドメをさしたのはサツキのきびだんごだった。それに魔獣ケルベロスは死んじゃいない。


 「おいおまえ! 一度勝ったからってちょーしのんなよ!」


 魔獣は太郎の後ろからちょこちょこと歩きながら皮肉を言っている。


 「はいはい。負け犬は負け犬らしく荷物を持ってくださーい。……にしてもほんと小さくなったな……」


 太郎が振り返るとそこには『巨大』とは無縁な柴犬サイズのケルベロスがいた。


 「うるさい! あんな変なもの食わせやがって……魔力低下が止まらないんじゃ! はぁ……これじゃ夜這いもできやしねぇ……」


 「夜這いって……そもそもアンタ自称『人間嫌い』だろ?」

 

 「ああ嫌いだね! 男なんてな! だが若い女子は話が別だ。毎夜毎夜喰っても喰い足りんわ……うっへっへ……」


 「だめだこいつ早くなんとかしないと……」そんな風に太郎は考えてるウチに『篝火村』はもう目の前まで来ていた。


 「なあ、さっきみたいに人間の姿になれないのか?」


 「無理だ。もう魔力がない。 大きな体と人間への変化はかなり魔力を使うんだぞ!? どっかの山のサルの一つ覚えみたいに簡単に言ってくれるなよ!?」


       ・・・・・


 太郎とケルベロスは一つの契約を交わした。

 勝負に負けた魔獣は本来ならば命を取られるもの。しかし、太郎はこの魔獣を殺さなかった。


 「……どうした哀れな人間よ……早くその刀でわれの首を落とすがいい。それともその刀はやはり飾りなのか?」


 自分が死の扉の前に居るというのにその魔獣は冷静に皮肉を言う。


 「ああ。飾りなんだこの刀。 俺は出来るなら蚊の一匹も殺したくないジェントルマンなんでね」


 「……」


 「何をたわけた事を」そう言いたげに魔獣は鼻で笑った。


 「それにアンタは約束してくれただろ? もう悪さはしないって。 じゃあ、それでいいじゃないか? この刀で俺は誰も傷付けたくない……それが魔獣であろうとだ」


 「貴様は甘い。 我を生かしておくとまた悪さをするかもしれんぞ? その時貴様はひどく後悔することになる。あの時殺しておけば、とな」


 太郎は笑った。そして弱ったケルベロスの腕に触れ優しく言葉をかけた。


 「アンタ本当は人間大好きだろ? 俺が最初の一撃で死ななかったのがその証拠さ。 全ての攻撃も急所を外し、俺がビビッて逃げるようにわざわざその体にもなった。いつでもアンタは俺を殺せた、だろ?」


 ケルベロスは目を丸くして、この男は何者かと静かに考えた。


 「それに、そんなアンタが村の人間を襲うなんて考えにくい、いや、もし仮に本当に襲っていたにしろ俺にはアンタに生かさせてもらった借りがあるからな、アンタの言葉を借りるなら『命だけはとらぬ』だ。だから――ん? ってあれ? なんか体小さく――」


 ケルベロスは「ん?」と己の体をみる


 「んなっ!? なんだと? あぁ……魔力が……」


 そう言うと首が三つの紫色の柴犬になってしまった。

 お互いに目が(てん)になっていると、威厳がかつてはあった魔獣の瞳から涙が溢れていた……


 「うわあぁぁんっ!! かえせよ~! かえせよ~オレのまりょくぅ!!」


 駄々を捏ねる子供のように太郎に噛み付くが太郎は哀れさと申し訳なさで痛みなど感じなかった……


 「あーよしよし! こわくないこわくない! 体が小さくたってちゃんと『威厳』(笑)はしっかりあるから大丈夫!」


 ムツゴロウさんのように撫でまわす太郎だったがしばらく魔獣は泣き止まなかったと云う。


 魔獣が泣き止み、空も晴れ渡るともう夕暮れの時刻になっていた。カラスが鳴いている。もう帰らねばとおもう太郎だったが、このまま小さい魔獣を置き去りにするのはしのびない……。


 「アンタ、俺と旅をしねぇかい?」


 「え?」


 「旅だよ旅! 桃太郎の鬼退治といえば家来が必要だろ? アンタ犬っぽいし俺について来い!」


 魔獣は小さくなったからか、子犬のように尻尾を振った。


 「ふん! 我を愚弄するか!? 下等な人間の下僕などまったくもっての不愉快である!! ……しかし、どうしても我の偉大な力を必要とするなら考えてもよいぞ、よ?」


 尻尾は一段と早くなった。分かりやすい犬でよかったと太郎は思った。


 「それに貴様今『鬼退治』と申したか? なら我にも都合がよい。もし道中出会う鬼が女なら俺によこせ! 昔聞いたことがある。女鬼は皆とても美しい容姿に愛くるしいほどに謙虚だと! ええい! こうしちゃおれん! ほら貴様何をしておる? 早く行くぞ?」


 さっきまで微かに保たれていた微量の威厳は儚く散り、太郎に己から尻尾を振ってついてきたこの魔獣『ケルベロス』は後に太郎の右腕として名をはすことになるのだが、今の状況を見て誰が想像できようか……


 「ん? そういえば貴様、名はなんと言う? 人間の名など覚えたくないが、今回は特別にきいてやる」


 「……太郎だよ。 桃山太郎だ。 今日から俺がアンタのご主人様だっ! アンタの名は?」


 「ふん。気に食わんがまあよい……俺に名はない。好きに呼ぶとよい」



 こうして二人は出会った『ボーイミーツボーイ?』この出会いがこの世界の始まりの一ページになったと云う

 

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